シャルと夏の日その1!教室!
あずみはシャルと似た性格で、元気があってなかなかハツラツとしている。
大きな違いと言えば、運動能力があずみの方がずば抜けていることだ。
シャルも犬だからなのか運動能力は比較的に高いんだけど、あずみの運動能力は少し別次元レベルだ。
ところで通学路の途中には大きな階段による坂道があって、その階段を登らなければ学校には行けない。
それも階段はそれなりに長く、階段を据え付けるだけあって急な斜面に近い。
どうしていきなりこんな通学路について言ったのか。
それはだって……その、信じられないことだけど、あずみは階段にある手すりに乗っては上に駆けていったのだもの。
「にゃはっはっはっはー、シャルちゃんおっそいよー!この勢いで私が一番乗りで占拠しちゃうんだから!」
あずみは独特な笑い方を発しながら笑顔でピースをしては、シャルを煽って愉快そうにしている。
階段の手すりの上を乗って移動することなんて想定されてないから、あずみのスカートの中がよく見えた。
あの物の色とかについては、スカートの影でよく見えなかったことにしておこう。
「あぅ~、あずみさん速いですぅ!ご主人様も急ぎましょう!このままでは負けてしまいます!」
「いつから陣取りゲームになったのよ。だいたい急いでも意味が……、あぁもう…!」
私の話を聞かずにシャルも走っては、階段を駆け上がっていく。
私も置いてかれるのは嫌だし、何よりこうも動き回るシャルは危険だから、目に見える範囲には収めておかないといけない。
言うならリードから開放した犬を草原に放っているようなもの。
だから仕方なく私も階段を駆け上がっていく。
……日差しが暑い、風が湿っていて吸う空気が重く感じる。
まとわりつく嫌な暑い感覚のおかげで、階段を一歩一歩と登るたびに私の額から汗が垂れ流れそうになっている。
「っはぁ…はぁ待ちなさいよシャル…!って、もうそこまで…」
階段を上りきったときにはすでに何十メートルはシャルとの間に距離ができていた。
これはさすがに追いつくことはできそうにないなと、私は諦め気分になってゆっくりと歩いては追っていくことにする。
息を切らして、暑い日差しにうんざりとしながら。
すると突然シャルは振り返っては、慌てて私の方へと走って戻ってきた。
「ご主人様~!」
シャルは私のことを呼びながら向かってくるなり、私に飛びついては抱きついてきた。
ふんわりとした匂いが私の鼻をかすめる。
そしてシャルは少し頬ずりをしては離れて、眩しいばかりの笑顔をしては言ってきた。
「すみません、ご主人様。あやうく置いていくところでした」
「…それはいいけど、いいの?このままだとあずみに駆けっこ負けるんじゃないの?」
「えっへへへ、そんなご主人様を置いていくことなんてできるわけないじゃないですか。私はご主人様の犬ですよ?それにご主人様のことが大好きなんですから、一緒にいられるときはできるだけ一緒に居たいんです、わんわん!」
シャルは軽く吠えては両手で握り拳を作って、顔の近くに手を構えることで動物アピールをしてみせる。
犬らしく見せたつもりなんだろうけど、それはどちらかと言うと猫のポーズだ。
それがおかしくて、私は思わず笑みをこぼしてしまう。
「ぷっ、あっはは」
「わぅん?なんで笑ったんです?」
「別に、かわいいなって思っただけだよ。じゃあ行こうっか。あずみには置いてかれ…」
「私のこと呼んだ?」
私が話している途中に、横にある塀からあずみの顔をにょきっと覗き出してきた。
あまりのことに私とシャルは思わず驚いて、後ずさってしまう。
それからあずみは塀を乗り越えては私の隣に降り立ってきた。
そしてあずみの突然の出現に突っ込んだのは私ではなくシャルだ。
「あ、あれ?あずみさん私の前を走っていきましたよね?あの勢いなら数百メートルは離れていそうだったんですけど…?」
「にゃはっはー、そんな一緒に行こうって誘ってくれたのは真理奈ちゃんなんだから、置いていくわけないじゃないか!私は情に厚いんだぞ~!」
「いやいやいや、あずみ。一緒に行こうと戻ってくるのはわかるけど、戻り方がおかしい。なんでわざわざ塀を通るような真似をしてるのよ」
続けて私が指摘するとあずみは少し考える動作をしては、呑気に答えた。
その言い方は疑問形なのだけど、いかにも当たり前と言わんばかりの反応の仕方でだ。
「その方が早く戻れそうだったからかな?」
「うーん、普通なら塀をよじ登ったりする方が時間がかかりそうな気もするけど…」
「にゃはー、まぁ細かいことはいいじゃないか、真理奈ちゃん。早く学校に行こうって」
これ以上は言い合っても仕方ないので、ひとまずはあずみの奇行ぶりには驚きながらも、私たちは学校へと向かった。
階段を上りきったら、学校までの距離はほとんどない。
二百メートル近く歩けば校門を通って、校舎内へと入る。
校舎内の玄関は少し涼しいんだけど、ちょっと教室の方へ歩けば気温は低くとも、ジメっと蒸した感覚がある。
しかしシャルとあずみはそんなことは気にせずに笑顔で会話しては上履きに履き替えて、急にあずみがだけが教室の方へと走り出した。
「にゃっはっはっはー!ここからは競争開始だよ!私がいっちばん乗り~!」
まさに突風のように廊下を駆け抜けては姿が見えなくなる。
これだとシャルも走って行くのかと思えば、案外シャルはあずみを追いかけることはせずに悠然と私の隣に立っていた。
「あれ、シャル。あずみを追いかけて行かないのかしら?」
「廊下は走ってはいけませんからね!さすがにルールを破ったりはできませんよ!」
私の言葉にシャルは得意気にそう答えた。
なるほど、人間というより犬らしいような答え方だ。
犬とは、ルールに関しては人一倍気にするのかもしれない。
…ルールを気にするのなら、朝食のマナーや普段の仕草とかも人一倍に気を使ってほしい所はあるけど。
特に、私を舐めたりする行為を気にかけて欲しい。
「あ、ご主人様!今、舐めたりするのは人間社会のルールには反するんじゃないかとか思いましたね!あれはスキンシップなんでノーカウントですよ!犬にとってスキンシップは大事ですからね!犬の行為だからワンカウントは無しです!」
「あぁ…そう。ずいぶんと都合の良い解釈なのね。って、今また何かダジャレ…」
「さぁ行きましょうか!あずみさんが待ってますよ!」
シャルは私の言葉を遮っては、教室の方へと歩き出す。
本当、都合のいい犬だ。
私とシャルは肩を並べて歩いては、二階にある教室へと向かう。
すると教室の前の扉では、あずみが絵に描いたような落ち込み具合で四つん這いになっていた。
まるで敗者だ。
多分、あずみより先に教室にいる人がいたのだろう。
意気込んで来ただけに落ち込む姿に哀愁が漂っている。
私はその姿を見るなり呟いた。
「あーあ、だから急いでも意味ないって言おうとしたのに」
私のクラスでは、教室に誰よりも早く来る人がいる。
何でもその早く来る人は朝から早く来て、教室でロボットのデータを云々だとか聞いた。
よく分からないから聞き流してはいたけど。
私とシャルはあずみを尻目にしながらも、教室の扉の窓を覗いては、自席でノートパソコンを前に作業に励む女子の姿を見た。
その子は青っぽい髪色をしたロングの髪型で、非常に体が小さく華奢な女子だ。
眼が細めではあるのだけど、顔立ちが整って綺麗なので、目の細さがミステリアスな雰囲気を出している。
そしてそのミステリアスな女子の隣には、静かに佇む女性の姿もある。
こちらの体型は華奢な方ではあるけど、全体的にバランスが良いもので腰はしまっていて胸はそれなりに出ていると言っていい。
桃色の長い髪を縛っては顔の邪魔にならないようにあげていて、片耳には機械のようなカバーがついている。
顔立ちが綺麗で、まさに容姿端麗と言うべき可愛さというより美しさがある女性だ。
どちらもクラスメイトで、私達の友人だ。