シャルと夏の日その1!登校!
シャルは軽快に走って行っては、私より後に家から出たにも関わらず私の前を走っている。
気づけば私が追いかける光景となっていて、まるで躾のなっていない犬と散歩をして手を引かれているみたいだ。
「はいご主人様ー!赤は止っまれぇええぇです!」
いちいち叫んでは大げさな動作をして、シャルは横断歩道の前で足を止めた。
わざと大げさにするのは褒めて貰いたかったりするからだ。
これは子供とかによく見られる行動だと思う。
「はいはい、よくできました。と言っても別にご褒美はないけどね」
私は少し遅れてシャルの隣に立つ。
そして私の少し冷めた言い方に対して、シャルは誇らしげというか偉そうにして腕を組んでは言ってくるのだった。
「わんわん!ご主人様、もし今ご褒美を少しでもあげてもいいかなーと思ったら良い方法があるんですよ~。知りたいですか?」
「……何だか今日はしつこいわね。…さぁねぇ、何だろうねぇ。分からないけど知らないままでいいかな~」
私はわざとらしく知らないふりをしてはぐらかすと、シャルは鼻をフンスと鳴らしては自信満々に勝手に言ってくる。
しかも仁王立ちまでしていて、ここぞと言わんばかりの態度だ。
「あのですね。じ、って頭文字が付くものですよ!これをご褒美にするのが私は最適だと思います!分かりますか?分かりませんか。じゃあもっとヒントあげますよ。出血大サービス…、いや出血は痛いので、特大超サービスです!じ、って頭文字の物は香ばしくて噛み応えがあって美味しいものです!まぁジャーなんとかなんですけどね!あっ、もしかしてシャル、今口が滑って更にヒント出しちゃいましたかねぇ~。これはシャルちゃんうっかりです!って、あれぇ!?」
シャルが驚きの声を上げた時には、私は横断歩道を渡りきっていて、おまけに横断歩道の信号は赤に戻っていた。
だからシャルは色々と自分がやらかしてしまったことにショックを受けては、くぅんくぅんと鳴いて、涙目で私に救いを求めるようにして手を伸ばしている。
「くぅ~ん、行かないでくださいご主人様ぁ!」
「もう、待ってるからそんな顔しないでよ!本当、可愛いけど手間がかかる犬ねぇ」
私がため息を吐いては待ち、信号は再び青になると同時にシャルは尻尾を振りながら走って、私に飛びつこうとしてきた。
いつも飛びついてきた後は顔を舐められることが多い。
そのため私は反射的にシャルの顔を手で押さえた。
「あぁ、ご主人様ぁ!寂しかったですぅ!置いてかれるかと思いましたよ~!」
「置いていかないから、舐めようとしてくるのやめてくれる?学校着く前に制服をベトベトにされたら困るんだから。って、そもそも寂しいと思うの早すぎじゃないの?数メートル離れただけじゃない」
「舐めません!舐めませんから抱きつかせはさせてください!」
そういってシャルの勢いに負けて私が手を離すと、思いっきりシャルは私に抱きついて顔を胸の辺りにうずめてきた。
そして顔をすりすりとしては匂いまで嗅いでくる。
「ご主人様、私は離れるのは恐くは無いんですよ。ただ、置いてかれるというのが怖いんです。私自身もよく分からないんですけど、ご主人様に置いてかれると思うと胸が痛くなるのです」
「そう……、まぁ…その気持ちは分からなくもないわ」
シャルは上目遣いをしては大きな瞳で私の顔をジッと見つめてきた。
真っ直ぐで輝かしい瞳で、元気いっぱいの印だ。
私はそのシャルの目を見ては、この子がこうして私の傍に今もいてくれて良かったと思える。
私はシャルの頭を撫でては優しく微笑んだ。
「大丈夫だよ、シャル。私はもう二度とアナタを置いてかない。これはあの日が過ぎて、シャルがその姿でもう一度家に来てから誓ったことなんだから」
「…くぅん?あの日、ですか?もしかしてそれは昔の私のことです?」
「あっはは、やっぱり犬の姿だった時の記憶が曖昧なんだね。うん、気にしないでシャル。思い出す必要なんて無いわ」
私は囁くようにして言っては、もう一度優しく微笑んでみせた。
するとどういうことか、シャルは顔を赤らめては呟いてくる。
「ご、ご主人様…。そんな目で見られたら…は、恥ずかしいです。あの……えっと、ご主人様の舐めてもいいで…」
シャルが言葉を言い切る前に、私はシャルの肩を掴んで体を半回転させては、シャルを置いて学校の方へと歩き出した。
その突然の私の行動に驚いて唖然としたのか、しばらく固まっていたがすぐに耳をピンと立てて動き出した。
そしてさっきまでのように大声をあげては、私の後ろを追ってくる。
「あぅうん!ご主人様、置いていかないで下さいよぉ!今のは明らかに置いて行こうとしましたよね!」
「シャルが舐めようとするからでしょ。悪いのはシャルだよ。ほら、いつまでもふざけてないで学校行く!そして教室で私をぐーたらさせなさい」
「そんな暑いからってぐーたらしても涼しくは…、って公園は行かないんですか!?朝、公園で遊ぶ約束しましたよね!?私の脳内にしっかりと記憶されてますよ!」
「さぁね?どうだったかな~。シャルの記憶違いじゃないかしら。だって私は朝から疲れる真似はしたくはないし」
「うぅ、あんまりですぅ!」
シャルと私はふざけながら公園の前を通り過ぎようとしたとき、思わず私は脚を止めて公園の方へと視線を移してしまった。
こんなことをしてたら公園に行くチャンスをシャルに与えてしまうのだけど、知り合いが公園のブランコに乗って揺られていたので足を止めずにはいられなかったのだ。
知り合いというか、同じ制服で同じ学校を通っているどころかクラスメイトだ。
シャルは私の視線に気付いては、同じ方へと視線を移した。
そしてその友人を見かけるなり、シャルは尻尾を激しく動かしては、手を振りながら友人の名前をよびかけた。
「あっ、あずみさんだ!あずみさんー!おっはよーごっざいますぅ!名犬シャルでっすよー!」
シャルの声に気づいた私とシャルの友人、あずみはブランコを降りて鞄を手にしては、こっちに向かって走ってきながら挨拶を返してきた。
「にゃっはっはっは、おっはよー!シャルちゃんと真理奈ちゃん!今日は早いんだねー!」
あずみはサイドポニーテールにしたセミロングの黒髪を揺らしては、私の前で立ち止まった。
それから青い瞳を輝かせては、シャルのように元気いっぱいで健康的な顔をしてはにっこりと笑う。
あずみの身長は私より少し低めのため、普通の体型であっても、顔を僅かにあげて話すのは辛そうだなーと何気なく思う。
「おはよう、あずみ。あずみも早いんだね。公園で黄昏ている時間があるなんて」
あずみは自分の髪を縛っている青い花の髪飾りを直しては、綺麗な笑顔をしてみせる。
よくシャルも笑顔を見せては来るけど、シャルの笑顔は無邪気さがあって、あずみの笑顔は幼いというか子供っぽい笑顔だ。
「うん、まぁね。ちょっと早く出てまだ静けさのある街でのんびりとするのが好きなんだよね。こう朝日を浴びて、自然の空気を吸うのはなかなか素敵なものだよ。夏だからちょっと暑いけど」
あずみは笑って手で顔を仰いだ。
ほとんど効果が無くても、つい風を作って涼しみたくなる気持ちは分かる。
「なんだかロマンチックね。私は暑いのは苦手だから朝日を浴びるのは御免だけど、そう言われたら一度はしてみたい気持ちになるわ。そうだ、あずみ。私たちはこれから登校するけど、どうする?せっかくだから一緒に行かない?」
「あずみさん行きましょう!早く行って朝の教室を私達で占拠しましょうよ!」
私の提案にシャルは乗っかる形であずみを誘うと、あずみは嬉しそうにして頷いた。
「にゃはー。そうだね、占拠しちゃおうか!それも何だか楽しそう!行こう行こう!」
シャルとあずみは楽しそうに言っては学校へと早足で向かい出していき、私もつられるようにして早足で追っていった。