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シャル!  作者: 鳳仙花
2/22

私とシャルの夏の日その1!

そして私とシャルが一緒に生活して年月は流れた。

時は高校一年の夏だ。

私はだらしなく自室のベッドの上で、胸と同じくらいに控えめな腹を出して寝そべっていた。

昨日は脱水を起こすかと思うほど暑かったんだ。

だからこの姿になるのは当然なんだよ。

暑いから仕方ない。


「おーきーてーくーだーさーい!」


私を呼びかける女の子の声が聞こえてきた。

いつも私を起こしてくれている聞き慣れた声だ。

でも私は起きなかった。

さっきも心の中でぼやいたけど、昨日は暑かったんだもん。

そのせいで眠りにつくのが遅くなってしまって、今はすごく眠い。

夏が暑いのが悪い。

私は悪くない。

だから簡単には起きないぞ。


「もう!起きないと噛みますよ!」


「え…、それは勘弁してぇ……」


私は脅しに屈し、すぐに目を開けてのんびりと体を起こした。

そして数秒ぼーっとしながら朝日を眩しく思い、窓から外を覗く。

素晴らしい、憎いほどにいい天気だ。

夏ほど快晴を嫌に思うことはない。


でも、そう思うのは私だけだろう。

少なくとも私を起こした女の子はこの良い天気を嬉しく思っている。

顔……だけじゃなく、色々な箇所を見れば誰でもこの女の子が喜々としているのが一目瞭然だ。


「おはようございます!ご主人サマ!今日は最高に良い天気ですよ!散歩日和です!」


元気よく挨拶してきた女の子の顔を見ながら、私は眠そうに生あくびしながらも挨拶をかえした。


「っふぅわ…。おはよーシャル。今日も元気に朝から尻尾振ってるね…。疲れないのそれ?」


私がシャルと呼んだ女の子は栗毛の髪の毛を揺らすほどに慌てて、小柄な体についている小さな尻尾を手で押さえた。

それでも心境が影響してるみたいで尻尾は動きたそうにしている。


「あーいや、別に気にしなくていいんだよ?犬なんだし、しっぽの一つや二つや九つぐらい動いていても私は気にしないよ?」


「狐がイヌ科なら九尾もイヌ科なんですかね…。じゃなくて!私はこれでも恥ずかしいんですよ!発情しているとか勘違いされたら嫌なんです!」


「発情ってシャル…。あんたはいつも発情しているじゃん。少なくとも私の前では」


私が意地悪気味に言うと、シャルは今度は犬の耳もピクピクとさせながら慌てだした。

すぐに慌てるから、単純思考で可愛い犬だ。


「そんな!私はそんな淫乱なメス犬じゃないですよ!確かによくご主人サマには発情しているかもしれませんが、誰とも構わず尻尾を振って媚売ったりアピールするわけじゃないんですよ!ホントですよ!」


「毎日会う私によく発情しているなら、ほとんどいつも発情していることになるんじゃないかな。まぁ…、別にどうでもいいんだけど」


「どうでも!?どうでもってのはどういう意味ですか!?思いっきりご主人サマに発情していいって事ですか!ありがとうございますありがとうございます!お互いメスですけど愛さえあれば関係ありませんよね!私はいつでもご主人サマの受け入れますよ!ご主人サマぁああああああぁああぁ!わぅん!」


いきなりシャルは暴走するように寝起きの私に飛びついてきた。

私の顔や首筋をぺろぺろと舐めてきて、尻尾を一層激しく振っている。

くすぐったいし、シャルの唾液で頬が濡れる。

妙な生暖かさや感触は嫌いじゃないけど、舐められ続けるのは困ってしまう。


「えぇい!朝から本当に発情しないでよ!このメス犬ぅううぅ!!」


朝の起床から私は大声で叫ぶという、大変な一日の始まりとなってしまっている。

私の必死な抵抗によりシャルの発情によるじゃれ合いは何とか押さえ込み、それから二人で私の自室から早足で出て行った。


「ねぇねぇご主人サマ!朝風呂しましょ!朝のお風呂!私は朝のお風呂好きなんですよ!」


「私の肌を見て発情できるものね。でも、時間がないから頭を軽く濡らすだけにして寝癖直しね。朝のお風呂はまたあとで」


「くぅん、残念ですぅ…。あと別に発情は関係ないですよ…」


シャルは犬らしく落ち込んだ鳴き声をだして、犬耳も尻尾も力なく垂れさせた。

いつもシャルの朝の寝癖が酷いから一度朝にお風呂入れたら、毎日朝のお風呂をねだるようなってきていた。

ずいぶんとお風呂好きな犬だ。


シャルは落ち込む素振りを見せたが、リビングに近づくとすぐに顔をあげて耳をピンとまっすぐ立てた。

なにかを察知したみたいだ。

尻尾をぱたぱたと振って、鼻をすんすん鳴らしながら嬉しそうな顔をしている。

ついでにヨダレもでていた。


「ご主人サマ!この匂いウィンナーですよ!肉です!肉棒です!今日の朝は私の好きなウィンナーがあります!匂いでわかりますよ!へっへっへっへっへ」


私もシャルの真似をして鼻で匂いを嗅いでみる。

煙と一緒に感じる肉を焼いた芳しい匂いだ。


「ほんとだね、お父さんはシャルに甘いからねぇ…。夕食とかもシャルが嫌いなものが出たことほとんどないし」


「そういえばそうですね!パパサマに感謝感激ですよ。昨日の夕食もサイコーに美味しかったですし!あぁ…思い出すだけで舌が垂れそう」


「過去の楽しみに浸るのはけっこうだけど、朝から変顔見せないでよ」


私はわしゃわしゃとシャルの頭を撫でて、落ち着かせようとした。

これでシャルが落ち着いた試しはないけど、撫でるのが好きだから私はよくする。

特にシャルに対して誤魔化そうとしたときに撫でる。


「わふっ、ご主人サマ。デレちゃうのでやめてくださいよ~」


なんと珍しく落ち着く形になってくれた。

でも、そんなことより一方的に撫でられて気持ちよさそうにしている顔は犬らしくてとても可愛かった。

その後にリビングに着くなり、シャルはキッチンで調理しているお父さんに向かって大声で明るく吠えながら挨拶をした。


「わんわん!パパサマ!おっはよーございます!今日も元気な忠犬シャルですよ~!」


お父さんはシャルの挨拶に反応して調理する手を止めずに、顔だけ少し振り返る。

そして笑顔でシャルと私に優しく挨拶をしてきた。


「あぁ、おはよシャル。それに真理奈も。朝食はすぐにできるからね。ほら、顔を洗って来なさい」


「はいはい!シャルは顔をぺろぺろと洗ってきますよ。さぁご主人サマ、洗面所にいきましょう!」


シャルは声を弾ませながら私の手を引いて、洗面所へと先導していった。

まさか飼い犬に手を引かれて洗面所へと連れて行かれるとは。

盲導犬を除いたら、こんなこと世界に私一人だけじゃないだろうか。


私は今日も暑い温度でもあったからわざと冷水を流して、自分の顔を洗う。

シャルの朝のスキンシップのせいで顔がベトベトだから念入りに洗わないといけない。

朝は一分でも惜しくなるのに、ひどい手間だ。


「はい、シャル。顔を洗っていいわよ」


私はタオルで顔を拭きながら、洗面所から離れた。

するとシャルはにこにこ顔で手を使わずに、顔を突っ込むように蛇口から流れる冷水を頭上から浴びた。

そして高い声で驚きながら身を震わした。


「わふっ!?あれ、冷たいっ!」


「朝のお返しよ。少しは言葉通り頭を冷やしなさい」


「わぅん、驚きましたよ…。あ、でも少し気持ちいいかも…」


そう言いながらシャルは不抜けたような満足顔をして水を浴び続けた。

舌もぺろぺろと動かしている。

この犬…、顔を洗いながら水を飲んでるな。

それに気づいた私はシャルが人間の姿である以上、人間らしい行動する躾として軽くシャルにチョップをいれてあげた。


「こらシャル、やめなさい。手を使って洗いなさい、手を。猫でも前足を使って毛づくろいするわよ」


「わ、私だってよく後ろ足で毛づくろいしてましたよ!さすがに顔を洗うときは、その…」


「なに言い淀んでるのよ?よく分からない変な張り合いや言い訳はしなくていいから、手でよく洗う!」


私はそう言いながら少し強引にシャルの顔を、代わりに私が洗う。

もちろん冷水で思いっきり、念入りに徹底的にだ。


「ご、ご主人サマ!冷たいです冷たいですよ!夏とは言え、身に冷たさがしみるからせめて温水で…!」


シャルは身を縮こませながら私の洗顔に抵抗して、ついに耐え切れずに冷水から逃げ出した。

それからすぐに水を振り飛ばそうと顔を全力で振って水を飛ばしてくる。

そのせいで水しぶきが私の顔にかかる。

ついでに水が口にも入って不本意ながらも私は咽せた。


「シャル~、それはやめなさいって…」


「わあぅん!すみませんご主人サマ!癖、なんですよ!ほらこの癖はなかなか直らないものなんです!まるで私のクセ毛みたく頑固で困ったものです…っとか言ってみたり」


「…あまりうまくないから、今日はビーフジャーキー抜きね」


「そんなっ殺生な!?」


あうあうと鳴くシャルを私は無視し、そのままシャルの髪の毛をドライヤーで乾かしてあげる。

ジャーキー…ジャーキーと中毒者みたいに涙目で呟いているがそんなことは気にしない。


「ほら、先に朝ごはん。そして学校だよ?」


学校と言う単語にシャルは反応して、目を見開いて耳をピンッと立てた。

そしてすぐに上機嫌そうに私に言ってきた。


「そういえば今日は体育ってあるんですかね!あるなら球技系だといいなぁ~」


「最初は球技ではボールを口で咥えようとしてたのが懐かしいね。そのせいでよくボールを頭にぶつけて鼻血を出していたり、マラソンでは突然穴掘り出したり…」


「わぅん!その話はやめてくださいよ!別に気にしているわけじゃないですけど、なぜか恥ずかしくなるんですから!」


私はシャルの毛先も綺麗にブラシで整えながら乾かしきった。

あとは毛に合わせて無理なくブラシで撫でてあげるだけだ。


「そうね。これ以上いじめると可哀想だから、初めての学校の時の話はやめてあげる。だから…」


髪を撫でてあげるたびに、シャルは気持ちよさそうにして目をトロンとさせていた。

どうもブラシが凄く好きみたいで、どんな時でも私がブラシを手にしたら撫でて欲しそうな目で私を見つめてくる。

そして今見たくほんわかとした気分になるみたいだ。


「授業中に寝るのはやめてね?」


「ご主人サマのお願いでもそれはちょっと…骨のガムとかあればいいですけど」


「…前、犬用のガムあげたらシャルは一日中口に咥えていたでしょ。また翌日に顎が痛いとか言われても嫌だし、あげれないよ」


「なら寝ちゃいますよぉ。授業はさっぱりですから」


犬に人の授業ってのも無理あるか、と私は改めて思う。

でも苦労したとは言え、言葉を覚えさせれたからシャルがその気になれば授業も簡単に記憶できそうな気はする。

犬がその学んだ知識を使うとは僅かにも思ってはいないけど。


「はい、おしまい」


私がシャルの髪を整え終えてブラシをしまうと、シャルは飛び跳ねる。


「ありがとうございますご主人サマ!では朝食ですよ!着替えて早く行きましょう!わんわんわぅん!」


「あまり吠えないの」


こうして私とシャルは洗顔を終えて、着替えてから食卓の方へと移動していった。

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