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36.黒髪黒目の王様

皆様、明けましておめでとうございます。

今年もよろしくおねがいします!


さて、久々の更新です。


矛盾点やおかしい点が有ればご指摘お願いします!



第四王女ロゼリーナ誘拐事件から一週間が過ぎた。

この一週間で様々なことが分かった。


まず、バッカスの証言により、あの日馬車にいた王女付きの御者と騎士の行方が明らかになった。

どうやらバッカスは馬車を乗っ取る時に全員を殺し、証拠隠滅とアンデッド化防止という理由であろうことか遺体を燃やしたらしい。


王直属の騎士隊が現場へ調査に行ったところ、衣服の燃えカス等が発見された。

また、騎士が所持していたであろう甲冑や剣が、ポンコッツ邸別荘の部屋で見つかったことからもバッカスの証言が真実であることが窺えた。


遺族達はこれに激怒し、王にポンコッツ家に連なる全ての者を処刑することを訴えた。

無論、娘を誘拐された王はこれを了承し、近日中に公開処刑されることが国民に言い渡された。


あとはポンコッツ家が潰れた時の弊害だが、実はこれといって無かった。

もともとポンコッツ家は代を重ねる毎に衰退し、今や公爵家とは名ばかりの我が儘貴族になってしまっていた。

だから今のポンコッツ家がやることと言えば、自らの領地に住む民から税金を規定より多く取り、それを自分の懐におさめるというなんとも迷惑な行為であった。


だが、ポンコッツ家が消えれば、ポンコッツ領はお隣りの同じく三大公爵家であるベルヴァルト家が治めることに決まったのだ。


ベルヴァルト家はそこまで歴史は深くないが、当主はものすごいやり手らしい。

さすがオリヴィア先輩の家だ。

それに民からは必要最低限の税しか取らず、領民からはとても慕われているという。


むしろポンコッツ家が消えてくれて良かった気さえする。

事実、ポンコッツ領民からは喜びの声が多くあがっているらしい。

いやはやなんとも、ここまでくるとバッカス達が可哀想に思えてきた。


閑話休題。



そんなこんなで現在僕がいる場所は王城の前であった。

ん?どうしてかって?

いや、なんか今回の第四王女救出の件で恩賞が出るらしくてね。

今日はそれが与えられる日なんだよ。

何かなぁ?お金?それとも武器?


ま、貰っておけるものは貰っておくか。


そして僕はこの後知ることになる。


タダより高いものはないということを―――。






王城の前でしばらく待っていると、やがて王城から金髪碧眼のイケメンがやってきた。

誰かって?

僕の兄、宮廷魔法師のレン・ヴァン・アイブリンガーだよ!

あ、今は王国筆頭宮廷魔法師だった。

魔の神童とか言われてたらしい。

おそらく僕と親しいから案内役に任されたのだろう。


レンは僕に気がつくと走りよってきた。

というか走る勢いそのままにダイブしてきた。

え、避けますけど?


「レーーーイーーーーー!」

「あまい!」


僕がギリギリまで引きつけて躱すと、レンはそのまま前につんのめって止まった。

ちっ!転けなかったか。

やはりレンにはイケメン補正がかかっているに違いない。


「なんで避けるんだい?」


父上譲りの涼しげな微笑を浮かべながらローブをはためかせる兄。

く!?僕も父上に似ていればッ!

あ、だからといって母上が嫌いなわけじゃないからね。

むしろ父上より大好きだから。

おっと、思考がだんだんそれていってしまった。


「お久しぶりですレン兄様。何故よけるか、ですか?飛びかかられれば誰だって避けると思いますが……」

「ふふふ、レイは照れ屋だなぁ。前みたいにお兄ちゃんって呼んでくれても良いのに。隠さなくてもいいんだよ?」

「……」


何をだよ!

と、声を大にして言いたいが、ここはぐっと我慢の子。


「それより兄様、この後僕はどこに行けばよろしいのですか?」


僕との再会を未だに喜んでいるレンに疑問をぶつける。

こうしなければ永遠にここにいそうだし。

レンはその疑問に少し慌てたように答えた。


「おっと、そうだったね。王様も少し時間がないらしいから早く行かないと。それじゃあ付いて来て」


そう言って手を差し出してくるレンに僕は首を傾げる。


「なんですか?」

「はぐれると困るから手を繋ごう」


子供か!

もちろん僕の答えは決まっている。


「お断りします」

「あ、ちょっと待ってよレイーー!」


僕はレンを無視して王城の中へ入った。






王城の中は予想通り途轍もなくでかかった。

なにこれ廊下を馬車でも通るのか?という程だ。


廊下の端々には様々な美術工芸品が並んでいる。

全て素人目に見ても見事と言うほかない、絶対に高額な品物だ。

お、メイドさんが手入れしてる。


とにかく見てて飽きない。


「どうだい王城は?」


先導するレンがどこか僕を微笑ましげに振り返ってきた。

僕は周りの芸術品に目を奪われながら素直に返す。


「素晴らしいですね。見てて飽きない……」

「ははは!最初に来た時のお兄ちゃんとそっくりな反応だね」

「そ、そうですか」


若干照れながらそっけなく返す僕。


「ふふふ……」


その僕の反応に、レンはさらにその整った顔を緩ませた。

ちょっと悔しい……。


やがてレンはとても立派な扉の前で歩みを止めた。

なるほど、その扉は王に相応しい煌びやかな物だった。

レンがこちらを見る。


「ここが謁見の間だよ。レイ、心の準備は良いかな?」


僕はゆっくりと一度だけ深呼吸した。

そこで自分が全然緊張していない事に気がついた。


(そりゃあ魔王とか邪神とかと戦ってれば嫌でもこうなるか……)


そういえばバトルジャンキーの狼魔王は今頃どうして居るだろうか?

どこかで強い奴と戦ってたりするのかな……。


「レイ……?大丈夫?」


こんなことを考えている場合じゃないな。

僕が黙っているのを心配したレンが顔を覗き込んできた。って近い!?近いよ!?


「だ、大丈夫ですからそんなに顔を近付けないでください!」

「ん?ああ、ごめんごめん」


今の光景を腐敗神を崇める腐敗思想の方々に見られてたらやばかった。

嫌だよ……イケメン×男の娘とか。

いやいや!僕は男の娘って認めたわけじゃないけどね!?

ああ、最近自分を男の娘と認めてしまいそうになってきたな。

なんとかならないかなぁこの称号。

そうだ!帰ったら神力で消せるか挑戦してみよう!

それがいい。


「それじゃあ開けるからね」


レンが扉の前に立つ。

やがて大きく口を開け、


「宮廷筆頭魔法師、レン・ヴァン・アイブリンガー!

レイ・ヴァン・アイブリンガーを連れてまいりました!」


と高らかに言い放った。

すると扉の向こうから人の上に立つ者特有の威厳が込められた声が返ってきた。


「入れ。」

「はっ!失礼します!」


扉に手をかけたレンが最後に目で合図を送ってきたので僕は静かに頷いた。

レンもそれを見て頷き返すとその重そうな扉を押しあけた。


「失礼します!」


僕も一声かけてからレンにならう。


謁見の間にはレッドカーペットがひかれており、それを挟むように騎士達がズラリと並んでいた。

たぶんこの騎士さん達もすごい人達なんだろうなぁとのんきに考えながらレッドカーペットの中ほどで僕は歩みを止めた。

そして静かに跪く。


「レイ・ヴァン・アイブリンガー、ただいま参上いたしました!本日はお招きいただきありがとうございます陛下」

「面を上げよ」

「はっ!」


僕は顔を上げた。

すると二人の人物が視界に入った。

玉座の隣に立っている初老の人物は恐らく宰相か何かだろう。


だが、何より僕を驚かせたのは玉座に腰掛け、頬杖をつきながらこちらを興味深そうに注視している王その人であった。

その容姿は黒髪黒目、そして―――、



「よくぞ参ったな我が友の子よ。俺の名はサトル・シーナ・ヴァン・ワイルド。このワイルド王国の王だ。歓迎するぞ!」



その名は……、



「日本……人……?」


思わず呟いた言葉に王、サトル・シーナ・ヴァン・ワイルドは日本人らしい茶色っぽい黒目を大きく見開いた。







「……この者の功績を読みあげよ。」


サトル王が硬直した時間はさほど長くはなかった。

いや、はっきり言ってとても短かった。

さすがは一国の王だ。

しかし、今の僕にはそれに感心するだけの余裕は無い。


「はっ!この者、レイ・ヴァン・アイブリンガーは此度の騒動において……」


騎士さんが僕の成果を読み上げる。

しかし、僕の耳には全く入ってこなかった。


(どうして日本人が国王なんだ?いや、僕がこう(転生)してここに存在するからありえない話ではない。でも日本人は、転生はどうか知らないけど間違いなく100%の確率で勇者召喚でなければ異世界には来れないはず。そこに例外は……ない。)


そう。この世界『ゼロ』では小説で言う『迷い人』や『流離(さすら)い人』という異世界トリップ物の鉄板が全く存在しない。

この話はアルにも聞き、確認をとった正確なものだ。

アル曰く、そういうことは神がきちんと管理しているから絶対ないとのこと。


(となるとやっぱり勇者召喚だけど……。)


これも難しいと僕は思う。

なぜなら勇者召喚されたなら、その出身は必ずユルリア帝国のはずなのだ。

ユルリア帝国の皇帝は戦争が好きなことで有名だ。

そのため勇者召喚を行ったならまず勇者(兵器)を手放すことはしないだろう。


ちなみに帝国の現皇帝は二代目であり、初代皇帝が死んでから2世紀経つ今でも変わらないのだと言う。

噂ではユニークスキルを駆使しているとかなんとか。


まあとにかく、そんな皇帝から新たな国の国王が誕生するなどほぼ不可能なことなのだ。

しかし現状、目の前のサトル王を説明できるのはこのくらいしかない。

おそらくサトル王は何らかの方法で帝国から逃げ、この王国を建国したのだろう。


僕がそう結論を出したところで突然頭の中に声が聞こえてきた。


『親友の息子!聞こえるか?』


(これは……念話か?)


『ほう、念話を知っているとはな。さすがは親友の息子だな』


やばい(念話)に出てたらしい。

タメ語使っちゃったよ王様にっ!


なお、謁見の間ではいまだにたらたらと騎士さんが僕の功績を読み上げている。

そんなに沢山あったっけ?


(ご無礼、失礼しました。)


とりあえず謝っておく。

親友の息子って呼ばれてるくらいだし、悪いようにはされないだろう。


『あ~よいよい。堅苦しいのは嫌いなんだよ俺』


どうやらこっちが素の喋り方のようだ。

うん。良い人っぽい。

良かったぁ~。


(ありがとうございます。)

『気にすんな。それよりさっきのことだが……ひょっとして親友の息子、お前って転生者か?』


バレてる。

問題は特に無いけど。

そしてなんで名前を呼ばない!


(はい。前世の……日本での記憶が確かにございます。)

『おう、やっぱりか!珍しいな。初めて見たぜ転生者ってのは。』

(そんなに珍しいんですか?)


勇者もそれなりにいるから転生者もいると思ってた。


『おうよ。珍しいぜ。日本で言ったらオッドアイくらいにな!』


……オッドアイってどんだけ珍しいのかな?

それが分からないからなんとも言えない答えだ。


(そ、そうですか。ということはサトル王はやはり勇者なのですね)

『頭に「元」が付くけどな。何とかあの皇帝(うぜぇクソジジイ)に一杯喰わせた時はスカッとしたぜ。』

(……)


一体何をしたのか。

聞かないのが身のためだろう。


『まあそれから帝国飛び出して、色々あってこの王国を作ったわけだ。』

(そうだったんですか。それはまた大変でしたね……。)


帝国から狙われた状態で一から国を作るなんて、正気を疑うくらいだ。

それでもこの人はやり遂げたのだろう。

持てる全ての力を使って。


『まぁ幸い守る力は持ってたし、良い友にも巡り会えたから出来たことだろうな。っとそろそろこの長ったらしいのも終わる頃だし、また後で部屋に呼ぶから続きはそん時にしようや。』

(はい!ありがとうございます!それでは失礼しますね)


僕が念話を切ろうとすると、


『ああっと!ちょっと待て!』


呼び止められてしまった。


(なんでしょう?)


僕が聞き返すと、


『今回は俺の娘を救ってくれてありがとよ!表立って頭下げられねぇからここで言っておく。この礼はきっちりこの場で返すからさ!じゃあな!』


そしてサトル王との念話が今度こそ切れた。


めっちゃ律儀で良い人だったなぁ。

にしてもこの場でお礼って何だろう?

あれ?なんか嫌な予感がしてきたような?

うん。きっと気のせいだろう。


「……以上です。」


するとここで騎士さんの言葉が止んだ。

サトル王は騎士さんに労いの言葉をかけ、下がらせた。

騎士さんは王に一礼し、列の中に入っていった。

そこでサトル王が立ち上がる。


「此度の活躍、誠に大儀であった。よって俺から報奨を与えよう。」


サトル王が階段を降りながらこちらに向かってくる。


「1つ、レイ・ヴァン・アイブリンガーを名誉男爵から公爵へと昇格。」


騎士さん達の肩が少し揺れる。

どうやら動揺しているようだ。

僕も人の事言えないけど。


「1つ、それに見合った土地を与えること。」


これには騎士さん達もざわめき始めた。

サトル王が言ったお礼ってこれのこと?

ちょっと規模がでかすぎて逆に要らないかな。

維持とか統治とか出来そうにないんだけど。

まぁ、人を雇えばいいか。


と、ここでサトル王が目の前に来た。

跪いている僕と目を合わせ、やがてニヤリと口角を上げた。

僕はその笑みで自分の勘が正しかったことを悟った。


「1つ、――――――」


その言葉でざわめいていた騎士さん達が静かになった。

サトル王は踵を返し、玉座へと歩みを進めていく。

ゆっくり、ゆっくりと。

玉座の隣では宰相がサトル王を穴があくほどに見詰めている。

その目はこう語っていた。

話が違う。3つ目は聞いてないぞ、と。


いやはや、一体何を言われるのやら。

もう十分驚かされたから大抵のことでは驚かないぞ。

そんなややフラグっぽいことを考えていると、サトル王が玉座にたどり着き、こちらを振り返って宣言した。


後に僕は後悔する。

なんでここに来てしまったのだろうと。

そして同時に僕は、僕が僕であることを少し呪った。

なぜならこの宣言に……、


「ここに我が娘、第四王女ロゼリーナとレイ・ヴァン・アイブリンガー公爵の婚約を宣言する。」


少なからぬ喜びを感じてしまったのだから。



……いや、だってしょうがないでしょ?

僕だって男の子なんだから。

うん、ロゼリーナが可愛いのがいけないと思うんだ。


『称号:特一級フラグ建築家を取得しました。』


そして久しぶりシステムメッセージ君。

このタイミングで出てこなくても良かったよ?


『……恐縮です。』


うん、別に褒めてないから。


でも、これを受け取ったら後戻りは出来ないなぁ。


これでハーレムの夢は無くなるのかな?

はぁ。ちょっと、いやかなり残念だ。


「なお、ロゼリーナは正妻でなくとも構わん。これは本人からの希望だ。受け取ってくれるか?」


……マジすか?

これでハーレム作れんの?

何そのご都合主義?

逆に怖くなってきた。

まあ、今更迷わないけどね。


「謹んでお受け致します。」

「うむ。詳しい説明をするゆえアイブリンガー公爵は後で俺の部屋へと来るように。案内を寄越そう。式は以上だ!」

「一同王に敬礼!」


宰相の言葉で褒章式(?)は幕を閉じた。






一方その頃王都では、一瞬協会にあるアルテミス像の顔が般若の形相に歪んだとかいう噂が流れた。

信者たちの焦りようが真実を物語っていたという。






「ひっ!?」

「どうしたんだいレイ!?」


謁見の間を去り、別室で待機していた僕は、突如言い様のない悪寒に晒された。


「今途轍もない悪寒が走ったんですよ」

「王様と話して緊張してたからじゃない?」

「……そうだと信じたいよ……」

「ん?」

「何でもないです」


たぶん、いや絶対違うだろう。

しかし、世の中には知ってはいけないこともあるよね?

きっとこれはその類だろう。


あぁ、早く平和な未来が来ないかなぁ。

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