17.海龍決着!
眠くて眠くてヤバイです。
「始めよう……殺陣をさ」
そう僕が言ってやっと青龍は反応をしめした。
「なな、なるほど。愚鳥ではなく愚竜だったわけだ。だがどちらにしても同じこと!妾の縄張りに無断で入ってきた者を帰すわけにはいかんのだ!!」
頑固な龍だな。
だけどさ、
(正直面倒くさいんだよな~、相手するの。今日は戦いに来たんじゃなくて空飛びに来ただけだし)
仮にも相手はアルティメット・オーガよりも強いのだ。
そんな相手を不殺で無力化するのはなかなかに骨が折れる。
……まあ竜化してるしたぶん大丈夫でしょっ!
あと、いざとなれば奥の手もあるからね。
心配ご無用。
「見たところ、魔力はなかなかのものだが、まだ子供ではないか!それで妾に勝てるとでも思っていることが愚かだな。見かけ倒しも甚だしいわ!」
ムカッ。僕のストレス値が上昇した。
「だいたいなんだ?その姿は。まるで雌竜みたいな見た目ではないか!
性格が女々しいからそんな容姿になったんじゃないか?」
ムカムカッ。ストレス値が大上昇した。
「ん?なんだ?どれも事実だから言い返せないのか?憐れな愚竜だ。さっさと……消えろ!」
いよいよ僕のストレス値がメーターを振り切れた。
言葉と同時に尻尾を叩きつけてきた青龍の攻撃に対しレイは……
「だれが……」
海龍の尻尾を片手で受け止め
受け止めた尻尾を両手でガッチリとホールドし、遠心力を存分に使って青龍を振り回すと、
「男の娘じゃあああ!!!」
「なんだとっ!?」
言葉と共に海龍を海へと投げた。
ドバシャーン!!!
津波が起こり、海面が荒れる。
それはまさしくレイの怒りの一撃だった。
レイは首を巡らし、
「僕だって気にしてるんだよぉぉおおお!!」
間抜けな声とは正反対の極大冷凍ブレスを放った。
Side ~青龍~
「はぁ!?」
驚きの声を上げるのは海面に叩きつけられた海龍である。
それはそうだろう。
海龍は力に自信があったし、事実他の個体よりも強かった。
だからこそ、レイの美しさから相当な実力者だということは分かっていた。
分かってはいたが、これほどまでに馬鹿げた力の持ち主だとは思いもよらなかった。
(こんなに手も足もでないとはな)
レイは知らなかったが、龍や竜というのは争い事を好む。
いや、強者との争いを好むのだ。
だからこそ、海龍は海中より、強力な魔力反応があったので争いを求めて来たのだ。
そして近づくと、鳥の姿のレイに出会ったのだ。
(この鳥は強い!)
そう考えた海龍はあえて挑発を繰り返したのだ。
しかし鳥は竜だった。
それもかなり上位のである。
そして最初に小手調べとして本気の尻尾攻撃を繰り出したが、
(受け止められた!それも片手で!)
そして今に至るということだ。
眼前には強力なブレスが迫ってきていた。
海龍は全力で竜語魔術の防御術式を体を丸ごと覆うように5枚重ねで展開した。
ブレスが障壁にぶつかった瞬間、
バリーン!!!
まず、障壁が3枚一気に壊され、4枚目の表面にヒビが入った。
次に海が凍った。半径50mほどが瞬きするほどの内に。
そして極めつけは、
(海龍であるこの妾ですら寒さを感じるだと!?)
なんと気温が氷点下よりもずっと下がるという急変をみせたのだ。
呼吸が苦しいくらいだ。
海龍は寒さに強い方である。
それも、時には深海にまで潜るほどに。
その海龍ですら寒いと感じるのだからレイのブレスは相当なものだろう。
海龍は思う。
(妾と同等かそれ以上の高みへ上り詰めた強者か!面白い!)
ブレスが止んだ。
海龍が周囲を見回すと、
辺り一面は銀世界となっていた。
Side~Rei~
僕は驚いていた。
(あれ!?前よりめっちゃ威力上がってない!?)
僕はすっかり忘れていた。
レベルが一気に100以上上がったことを。
(そうだったよ!今の僕は前の僕よりステータスが倍くらいになったんだったよ!)
それでこの威力か。
それなら納得……できないよ?さすがに。
辺り一面凍らして納得できたらそいつは悪魔かなにかだろう。
怒りはすっかり鎮まり、後悔だけが押し寄せてきた。
(はぁ。今日だけで僕はいったい何匹の魚を虐殺してしまったのだろうか)
魚愛好家に恨まれそうだな。
そういえばこの世界にも愛好家とかいるのかな?
ドラゴン愛好家とかやだな!むさいオッサンに愛でられるとか地獄そのものじゃないか!
可愛い女の子なら許せるけどね!
と、どうでもいいことを考えていると、
「なかなかやるようだな」
そこには無傷の海龍がいた。
「あれ?わりと本気だったんだけど、まさか無傷とはね」
僕が言うと海龍は、
「あれで『わりと本気』なのか!?やはり貴様は面白い!」
海龍はそのまま襲いかかってきた。
「おいおい!なんでそんなに元気なんだよ!」
僕は文句を言いながら迎え撃つ。
そこからは壮絶な打撃戦が繰り広げられていった。
その凶悪な海龍の爪や牙、尻尾をレイはときに避け、払い、カウンターを放つ。
形勢はやや海龍が上回っている……かのようにレイは見せた。
と、そこでレイは大きく体勢を崩す。
「もらったっっ!!!」
そこへ強靭な筋肉により、振るわれる海龍の爪が迫る。
レイは大きく体勢を崩している。そう、
分かりやすいほどに。
海龍はそこで違和感を覚えるが、既に爪は相手に届こうかというところまで振ってしまった。だからこそ海龍は、
(このまま押しきる!!)
と思ってしまった。
……それがレイの狙いだとは気づかずに。
もう爪が届こうかという時にレイは(ニヤリ)と笑みを浮かべた。
海龍はその笑みを見て血の気がひく。
(これはヤバイ!)
海龍の本能が言っている。
そしてレイは呟いた。
「『軽業』発動!」
海龍は再度海面へと叩きつけられた。
それも先程とは比べ物にならないくらいの勢いで。
ザッパーーーーーン!!!
「ガハッ!」
海龍は一瞬呼吸を忘れた。
海龍はよろめきながらもなんとか呼吸を調えて言った。
「はぁ、ふぅ。どうしてだ?何故貴様はあの状態から妾を蹴落とせたのだ!?」
そう、レイは海龍を蹴落としたのだ。
どうやってか?
それはスキル『軽業』が大きく関わってくる。
地球では、アクロバットで連想するのは、バク転、バク宙、前宙、側宙、等々。
技名を思い浮かべるだろう。
しかし、この世界のスキルは違うのだ。
この世界にはそういった技を出来る人は、地球よりも断然多い。
この世界は魔物という人間にとっての天敵がいる。
常に危険と隣り合わせで生きていれば、必然的に上がるだろう。
にも関わらず、『軽業』を持ってる人は、現状でレイ唯一人なのだ。
概念がないのだ。軽業という概念が。
では『軽業』とはなにか?
簡単に言えば、姿勢制御が大幅に補正されるのだ。
アクロバットの全ての技に共通する大切なことは、体の使い方だ。
例えばバク転は、腕の振り方、足の曲げ方、首の返すタイミングが重要だ。
そういった全ての体の使い方が感覚で分かるという、なんともチートなスキルなのだ。
彼の父である剣聖は彼に体術を教えているときにこう言った。
筋が良すぎる、と。
それはレイが前世の記憶を思い出しながら鍛練をしたため、『軽業』が無意識に発動していたからだった。
今回、彼は空中姿勢をスキルによって制御して体勢を最速で戻し、蹴りを放ったのだ。
「答える義務はないよ?」
僕はそう返答した。
すると、
「くくくっ。こんなに為す術もなくやられたのは初めてだぞ!」
「そりゃどうも」
海龍は続けた。
「先程は失礼した。改めて今度は貴公を強者と認めて頼もう。妾と戦ってはくれぬか?」
僕は驚いた。
海龍が謝ったことにも、僕が挑発にまんまと乗せられていたことにも。
だから悔しく思いながら言った。
「もし僕が勝ったらここに姉と友人を連れて遊びに来てもいいだろうか?」
「よかろう!いくらでも連れてくるとよい。貴公の姉とあらば相当な実力者なんだろう?」
「そりゃ僕と同じくらい強いけどさ、戦わないでね?」
「ふふ。確約しかねるな。さて、そろそろ良いだろう?」
「はぁ。もういいよ。かかってこい!」
「参る!」
壮絶なバトルが再開された。
「『纏水』」
海龍が水を纏った。あれはスキルだろうか?
どちらにせよ、どうやら本気でかかってくるらしい。
「じゃあ僕も本気だそうか!」
と言ってもレーヴァテインは使わないが。
その代わり……
「貴公はあれで本気ではなかったのか!?」
海龍がなんか驚いているが気にしない。
さて、やろうか。
「『魔剣創成』」
今回は威力よりも技で攻めよう。
「創成完了。空魔双頭剣」
二振りのよく似た短剣がレイの手に握られていた。
あくまでも竜にとって短剣というだけで、実際は巨剣なのだが……
刀身は白く眩い輝きを見せ、いかにも良く切れそうである。
柄の意匠は竜のあぎとを象っていて、荘厳さを表している。
「ぐぉおおお!」
海龍が咆哮を放ち、ブレスを吐いた。
レイは空中を縦横無尽に飛び回り、ブレスを掻い潜り、接近する。
海龍はレイの接近を感じとり、距離を取りながらブレスを吐き続ける。
しかし、レイは接近を続けるそして半径20 m以内に入った時、
突如レイは何もない虚空に向けて剣を薙いだ。
海龍はその行動に訝しみながらも攻撃を続けようとした。
だがその時海龍に悪寒がはしった。反射的に全力で海へ引っ込むと、
頭上を剣先のみが薙いでいた。
あと1秒遅れていたら斬られていただろう。
海龍はそこで気付いた。
「これがあの魔剣の力か!!」
なんと恐ろしきことだろう。
剣が何もない所から突如現れるのだ。
「まだまだ行くよ!!」
レイは剣を振り続ける。
二振りの剣は宙を滑るように海龍へ襲いかかる。
だが海龍もそこまで馬鹿ではない。
海から勢い良く出て一気におどりかかる。
当然レイは剣を振るうが、お構い無しに海龍は突き進む。
振るわれた剣は海龍の背中を斬るように見えたが、
海龍は纏った水で剣を受け流した。
これにはレイも驚き、一瞬動きを止めてしまった。
海龍は纏った水を固め槍の形にし、自らを水槍と化しながらその勢いのままレイに突進した。
レイは咄嗟に腕をクロスさせたが、腕ごと体を貫かれた。
「ぐぁぁあああ!!!」
あまりの激痛に意識が持っていかれそうになりながらも、
なんとか海龍を引き離し、距離を取った。
「ぐっ、くはっ。『超再生』」
黒い炎がすぐに傷が再生していく。
「まさかそんなにスキルを持っているとはな」
海龍は続けた。
「それで終わりか?あまり妾を失望させないでくれ!」
それにレイは答える。
「大体わかった。こんな感じか!」
海龍は己の目を疑った。
なぜなら……
レイが水を纏っていたからだ。
「魔法で再現出来るもんだな。まだ少し無駄があるが」
「馬鹿な!?なぜ纏水が使える!?」
「僕はスキルではなく、魔法を使ったのさ」
「出来るはずがない!スキルを魔法で再現などと、そんなことは……」
「無駄口叩いていていいのかな?『縮地』」
気づいたときには海龍の眼と鼻の先にレイがいた。
剣を振ってくる。
纏水によって受け流そうとしたが、
「それはもう通じないよ!」
空魔双頭剣に水を纏わせ、斬撃をを放つ。
剣が海龍の水に接触したとき、
水の流れが止まった。
そのせいで、受け流せなかった斬撃を海龍は受けた。
血が弧を描く。
せめて一太刀と海龍が全魔力を注ぎ、ブレスを至近距離で放った。
レイはそれを翼の一振りで消し、
最後に
「終わりだ!!」
と叫んで海龍に尻尾を叩きつけた。
そして、
海龍は意識を失った。
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