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風は秋色  作者: 三塚未尋
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第1話

 学校近くのコンビニへ昼飯の買い出しに行き、各々がコンビニ袋をぶら下げながら帰り道を歩いていた時のことだ。「南原ってイイよなぁ」と、ある男子が独り言のように口にした。

「あ、オレも。オレもそう思う」すぐ別の男子が賛同する。「垢抜けてるっていうか、他の女子とは違うんだよな」

 弾むような声が、クラスメートの少女を賞賛する。

「俺なんて去年から南原のこと見てるぜ」

「なんだ、お前も南原のファンかよ」

「知ってるか。三年の男子はほとんどアイツのファンだって噂だぞ」

「あんな子が同じクラスにいるだけでもオレ幸せ」

「告白されるんだろうなぁ。オレしてみよっかな」

「バカ。お前なんてフられるに決まってる。やめとけ、やめとけ」

 男子の集団が笑いに包まれた。

 ガードレールに沿って植えられた街路樹は、時折、その葉を落としている。赤、橙、黄の色をした落葉が歩道を彩っていた。

「なぁ、滝は南原のコト、どう思う?」

 笑い声が止んだところで、一人が話を、それまで黙っていた男子に振った。

 その滝と呼ばれた男子は、素っ気なく、しかし柔らかな声で答えた。

「……べつに。特にどうとも思わないよ」

 すると、一斉に他の男子が難しい顔をして覗き込んでくる。

「オイオイオイ、ホントかよ。あの南原に興味無いって、お前ホントに男かぁ?」

「そういや、滝ってそっちの話、全然しねぇよな」

「あー、言われてみれば。惚れた腫れたって話、全然聞かないな」

「おい、滝って誰か好きなヤツとかいないのか?」

 歩きながら、子供のような好奇心に満ちた瞳を向けてくるクラスメート達。滝は薄く笑いながら、「そうだな」と口にして、視線を中空に漂わせた。暖かな赤色に変色した葉が、目の前を掠めて落ちていった。

「俺にもいるよ。好きな女ぐらい」

 エッと滝以外の全員が同時に声を漏らした。

「なんだよ。そんなに驚くことないだろ」

 彼らの反応に、つい苦笑いが浮かぶ。

「いや、南原に興味無くて、他の女子を好きってのが、驚きでさ」

「ふつー逆だろ?」

「なんで南原に興味無いんだよ……いや、その前に、滝の好きな子って誰なんだ?」

「オレもそれ聞きたーい!!」

 教えろよぉ、と口々に言う彼らは、本当に楽しそうな顔をしている。今年の夏にあった修学旅行の時でも、こんな話は出てこなかった。誰もが文化祭の準備で気分が乗っているのかもしれない。滝も、別段、訊かれることを嫌だとは思わなかった。

「じゃあ……ここだけの話な」

 そう前置きをすると、騒がしかった男子達が「おう」と応えて、静かになった。

「俺な――中村が好きなんだ」

 静けさが、しばらく続いた。

 ガードレールすれすれを通っていったトラックのけたたましいエンジン音がやけに大きく聞こえた。

「中村って……うちのクラスの、中村彩子か?」と確認されて、滝は「ああ、そうだ」と平然と答えた。

「そうか。中村か」

「うーん……中村かぁ」

「中村、ねぇ」

 納得しかねている様子の男子たち。

 なにをそこまで唸るんだ?

 不思議に思って、「なんだよ」と訊いてみると。

「いや、別に悪いとは言わないけどなぁ」

「特別美人ってわけでも、可愛いわけでもないだろ、中村って」

「標準的っていうかさぁ……」

「可もなく不可もなく」

「ああ、そうそう、そんな感じ」

「南原の方が絶対イイって」

「なんだって滝は中村が好きなんだ?」

 非難されているわけではないのだが、なぜだか疎外感を覚えて、滝は不愉快に思った。内心ではムッとするが、表情には出さないように努めて、クラスメートに言う。

「なんだかイイじゃん、中村って」

 再び男子たちは頭を抱えた。

 それからは、クラスメート達から「中村のどこがいいか」を散々訊かれ、「南原のほうがイイぞ」という話を散々聞かされた。もう苦笑いするほか無かった。

 歩いているうちに、やっと学校の塀が見えてきて、校門に回る頃には運動場から金槌の音が絶え間なく聞こえていた。校門には、鮮やかに赤色のペンキが塗られた木製のアーチ型の門が建てられていた。

 すっかり学校中が文化祭の雰囲気に包まれている。

 秋の一大行事である文化祭まで、あと三週間。その準備のために、今日も生徒達は日曜日を返上して、朝早くから学校に来ていた。

「よぉーし、昼飯食ったら、午後も頑張るぞォ!」

 門をくぐったところで、一人の男子が、意気揚々にコンビニ袋を掲げた。


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