萌え祭
◯ 喫茶店(萌え絵師の回想)
古風な純喫茶。萌え絵師(20)とイラストレーター志望の友人(20)が、高校以来2年ぶりに再会している。
友人「ひ、久しぶり…… イラストレーターとしての活躍、見ているよ……」
萌え絵師「お前の方は、なにをしてるんだ?」
友人「あ、相変わらず、イラストレーター志望さ……」
萌え絵師「………」
友人「こ、この前、最終選考まで残ったよ…… 最高記録さ……」
萌え絵師「そうか………」
しばらく間があったのち、友人が口を開く。
友人「……こんなんじゃダメだって、俺もわかってる…… イラストレーター志望といえば聞こえはいいが、実質2年もニートだ…… いまだに最終選考止まりじゃあ……」
萌え絵師「………」
友人「俺の取り柄は絵だけ…… だから精一杯努力した。毎日12時間努力をしたんだ…… 本当に、全てをなげうって12時間…… なのにプロにカスリもしねぇ……」
友人、泣きそうな顔で萌え絵師を見上げる。
友人「お前は一体どんな努力をしたんだ……? 俺より努力したのか……? 一日14時間か? 16時間か…? いや… お前が俺以上努力しているはずがない。俺以上に努力している人間などいないるはずがない……」
萌え絵師「実際、お前は大したもんだよ……」
友人「だが…プロにはカスリもしねぇ!! なぁ…努力ってなんだ!? 100の才能相手に、一生をかけて10を20に上げることなのか……!?」
萌え絵師「………」
友人、泣き崩れる。
友人「なんでお前が選ばれて、俺が選ばれない!! お前と俺でなにが違う!! ウオォオオォー!!」
萌え絵師、泣き叫ぶ友人を置いて店を出る。
萌え絵師「友人…… 俺は努力なんかしたことないよ… 努力しなくちゃいけない時点でお前は向いてない…… ライオンは生まれつきライオンなんだ……」
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◯ 墓地
半年後、自殺してしまった友人の墓参りをする萌え絵師。お墓に水をかける。
萌え絵師「言ってたよな。『なんでお前が選ばれて、俺は選ばれない』って。そのことをずっと考えてた……」
花を手向け、線香をお供えし、冥福を祈る。
萌え絵師「なんで俺なのかは分からないが、運命に選ばれたからには、お前の分も高みを目指すよ……」
墓を見つめながら、亡き友人に語りかける。
萌え絵師「アイデアはあるんだ。名付けて『がくおん!』。明るく楽しく、音楽と青春を楽しむ女の子4人組の萌え4コマ…… 俺たちのような暗い青春ではなく、もっと明るく楽しい、理想の世界……」
萌え絵師、墓に背を向けて立ち去る。
萌え絵師「約束しよう…… 俺はこの作品で、萌えの頂点を獲る……!」
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◯ 江戸 萌え祭に戻る
萌え絵師(『がくおん!』が、平成最強の『モエキング』が、古代人ごときに敗けるわけにはいかない!!)
蔦重、両者の絵を地面に並べる。まわりに野次馬が集まってきて、絵のあまりのできの良さにざわつきはじめる。
野次馬「これが、当代最強の戦い……」
歌麿が萌え絵師に尋ねる。
歌麿「ちなみに……何枚刷った?」
萌え絵師「300枚です」
歌麿「強気に出たな… 俺は、結局完成が遅れて、いま刷ってもらっている…」
萌え絵師「………」
歌麿「昼九つ(正午)から三刻(6時間)、お前と俺の勝負だ」
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◯ 萌え祭開始 昼九つ(正午)
拍手の中、蔦重が祭りの開始を宣言する。
蔦重「ただ今より、萌え祭を開催いたします!!」
歌麿のサークルは、歌麿とスリが売り子をしている。開始直後から、歌麿のサークルも、萌え絵師のサークルもじゃんじゃん売れ始める。萌え祭のポイントである『萌点』が、サークルスペースの隅においてある『賽銭箱』(木箱)にすごい勢いでたまっていく。
歌麿「押さないで!! まだ在庫はあります!!」
歌麿の絵は順調に売れているが、客層を見て、歌麿とスリはある誤算に気づく。
スリ「歌麿さん… 思ったより女が多くないですか…?」
歌麿「………!?」
スリ「男の割合はどう見ても半分程度… 男が多くないと俺達は……」
歌麿「…分かってる!!」
現代のコミックマーケットでも、実は参加者の6割が女性というデータがある。成人向け要素の薄い地方の即売会などは、特に女性が多くなりやすい。
歌麿「だが、やるしかねぇ……!!」