200年先の萌え
◯ 萌え祭(神田明神) 朝四つ(午前10時)
神田明神の境内一面にゴザがしかれ、めいめいが萌え祭の準備を進めている。萌え絵師のサークルに蔦重が来る。
蔦重さん「どうだい、調子は」
萌え絵師にやりと笑う。
萌え絵師「納得のいく作品ができました」
蔦重「ほう…!」
萌え絵師、新作を見せる。
蔦重「これはなんと柔らかく、魅力的な…!!」
野次馬で集まっていた女性ファンからも感嘆の声が上がる。
女性「音曲を楽しむ女の子…すてき!!」
萌え絵師「この年代の女の子の、すべてが楽しく、希望にあふれている、キラキラした世界を表現したいと思いました」
蔦重「なるほど…」
萌え絵師「今の江戸では難しいですが、やがては女の子たちが、なんの心配もなく青春を謳歌できる世界がやってくるのかもしれません」
蔦重「うむ… さすが萌え絵師さん、恐れいった。これなら男性にも女性にも間違いなくウケる」
萌え絵師「ありがとうございます」
蔦重「さて、歌麿さんのも見てみるか…」
萌え絵師「俺も一緒に行っていいですか?」
――――――――――
◯ 歌麿のサークルスペース
準備をすすめる歌麿のところに、蔦重と萌え絵師が訪ねてくる。
蔦重「よっ」
歌麿「おっ、蔦重さんに、萌え絵師さん」
蔦重と萌え絵師、あたりを見回すが、作品が見当たらない。
萌え絵師「作品はどこです?」
歌麿「いま摺ってもらってる。もうすぐ来るよ」
スリが大量の萌え絵を持って来る。
スリ「おーい、とりあえず100枚摺ってきたぞ」
歌麿「わるいね、ありがとよ!」
歌麿、摺り上がりを見る。
歌麿「うん、いいできだ! ありがてぇ!」
蔦重と萌え絵師にも一枚づつ渡す。
歌麿「ほら、あんたがたにも」
蔦重&萌え絵師、緊張した面持ちで絵を見る。そして驚愕。
萌え絵師・蔦重「な、なんじゃこりゃぁ―――――――!?」
歌麿「女体化した源義経さ」
蔦重「いや、なんでふんどし丸出しなんだ!? そもそもこれはふんどしなのか!?」
歌麿「モモヒキだ!」
蔦重「こんなモモヒキがあるか!!」
萌え絵師絶句。脳裏にある作品が思い浮かぶ。2008年に放送されたTVアニメ『ストレートパンチャーズ』だ。
萌え絵師(ス……ストパン!! パンツをズボンと言い張るところまでストパンそのもの……!!)
萌え絵師、驚愕の表情で歌麿を見つめる。
萌え絵師(ついに江戸人が、200年未来の萌えに追いついた…… いや……武将の女体化という点で、むしろ追い越している……!!)
萌え絵師震えだし、冷汗が止まらない。
蔦重「萌え絵師さん、大丈夫か!?」
歌麿「この絵は、萌え絵師さんが震えるほどの傑作ってわけだな」
萌え絵師「……歌麿さん、賭けにでましたね。女性人気を期待せず、男性人気に特化した。しかしこの世界観は、ハッキリ言って時代の先を行き過ぎている。江戸人に理解できますか…?」
歌麿、ニヤリと笑う。
歌麿「へっ、江戸をナメんじゃねえよ」
緊張した顔で歌麿をにらむ萌え絵師。
萌え絵師「『がくおん』VS『ストパン』…… 奇しくも2010年の萌え界と同じ構図。だが、平成でもっともウケた萌えが負けるわけにはいかない……!!」