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200年

  ◯ 浮世絵師集会所


スリが青ざめて入ってくる。


スリ「た、大変だ!!」

歌麿「おっ、スリさん、久しぶりだな」

女浮世絵師「思ったより元気そうですね。なにが大変なんですか?」

スリ「いいか!? 何があっても大声出すなよ!? 他言するなよ!?」


スリ、懐から布に包んだiPhoneを取り出すと、起動して動画を見せる。浮世絵師たち愕然。


歌麿たち「うわぁーーーー!?」

スリ「驚くのはこれからだ。ちょっと待ってろ」


スリ、iPhoneのカメラを起動し、浮世絵師たちを撮影して、その写真を見せる。


女浮世絵師「わ、私達が箱のなかにいる……!?」

歌麿「スリ!! てめぇ妖怪だったのか!?」

スリ「俺に術なんか使えるわけ無いだろ!! このカラクリ箱の力だ!!」


スリ、iPhoneの画面をいったん消す。


女浮世絵師「こんなもの、どこで手に入れたの?」

スリ「……萌え絵師から盗んだ」

女浮世絵師「こらー!!」

歌麿「悪いことは言わない、盗みだけはやめとけ。捕まったら地獄だぞ」

浮世絵師「それにしても、なんてぇカラクリだ……」

スリ「まだ色々できそうだけど、俺にはこれくらいしか分からなかった…」

浮世絵師「萌え絵師は、妖怪か天狗か……」

歌麿 「うーん………」

女浮世絵師「そんなことより!!」


女浮世絵師、スリに詰め寄る。


女浮世絵師「萌え絵師さんに返しに行くわよ!!」

スリ「えっ!?」

女浮世絵師「今から!!」

スリ「かっ、かんべんしてくれ!! バレたら敲刑だ!!」


女浮世絵師、無言でスリをキッとにらみ続ける。しばらく耐えていたが、ついにスリの心が折れる。


スリ「……わ、わかったよ……」


――――――――――


  ◯ 萌え絵師の長屋


萌え絵師、とっ散らかった部屋で、やけ酒をあおって泥酔している。そこに歌麿たちが来る。


歌麿「……よう」

萌え絵師「なんだ、あんたらか…」


萌え絵師はずいぶん酔っている。


歌麿「ずいぶん飲んでるな」

萌え絵師「……飲まなきゃやってられるか」

女浮世絵師「……飲んだくれてるのは、これが見つからないから?」


女浮世絵師、懐からiPhoneを取り出す。


萌え絵師「な…なんでお前が持ってる!?」


スリ、土下座する。


スリ「すまねぇ… 俺がスッちまった!! もう盗みはしねぇから勘弁してくれ!!」


萌え絵師が怒りでブルブル震える。そして、拳を振り上げて殴りかかる。


萌え絵師「このクソ野郎!!」


しかし途中で、不意に、自分スリをそこまで追い込まれたことに気づき、拳を下げる。


萌え絵師「……もういい。わざわざ謝りに来たんだ。水に流してやるよ……」


沈黙が流れる。


萌え絵師「…この前、資料写真を撮りに内藤新宿に出かけた帰りにスられたんだな… 正直、お上に見つかって尋問にあうのが一番不安だったんだ。見つけたのがあんたらで、まだよかったよ…」


重い空気の中、歌麿が口を開く。


歌麿「これは、この世のものとは思えない。一体なんなんだ……?」


萌え絵師、ちらっと壁のほうを見る。


萌え絵師「……長屋は壁も薄い。場所を移動しようか……」


――――――――――


  ◯ 人気のない川


萌え絵師「これは『iPhone』という、はるか未来のカラクリだ」

歌麿「はるか未来…?」

萌え絵師「俺は200年先の未来から、神かくしにあって江戸に来た人間なんだ…」

一同「!?」

萌え絵師「歌麿さん、俺の絵を見たことがないと前にいったね。そりゃそうだ。200年先の流行絵は、この時代には影も形も存在しない」

浮世絵師「そんなお伽話、信じるか!!」

萌え絵師「信じる必要はない。むしろ、信じない方がありがたい……」


歌麿、今の話に関して考えはじめる。おとぎ話のようだが、全ての辻褄が合うので、事実ではないかと考える。


萌え絵師「未来人ということがお上にバレたら命を狙われかねない。もっとも、あと一・ニ刻もすれば、この機械は使い物にならなくなってしまうけどな…」

歌麿「使えなくなる…?」

萌え絵師「断食をし続ければ餓死をするように、この機械も、エレキテルを補充しないと動かなくなる。この時代では充電は不可能だから、もうすぐただの箱になっちまうのさ…」

歌麿「………」

萌え絵師「これも何かの運命かもしれない。残りのバッテリーで、最後に、未来の世界を見せてやるよ」


萌え絵師、iPhoneでコミケの写真を見せる。


挿絵(By みてみん)


萌え絵師「これは『コミケ』という、200年未来の萌え絵の祭典だ」

歌麿「なんだこの建物!?」

萌え絵師「来場者数は3日で40万人」

歌麿「40万人!?」

萌え絵師「しかも、その大半が自分でも萌え絵を描いている。都合で撮影できなかったが、この奥で萌え絵の本を売り買いしているんだ」

歌麿「そんなバカな……!!」

萌え絵師「未来の世界にも、浮世絵師のような絵の専門職はある。しかも未来では師匠につかなくてもいいから、敷居が低い。だから凄まじい数が絵描きを目指す。超競争社会だ」

歌麿「………」

萌え絵師「だが知っての通り、絵の世界は才能が全てだ。一生を使っても絵描きとして頭角を現せない人間も数えきれないほどいる。未来の世界では、何万というライバルを押しのけられる、本当の天才しか絵描きになれない」

女浮世絵師「………」

萌え絵師「自分で言うのものなんだが、俺はその世界で『モエキング』と呼ばれ、頂点にいた。俺の影には、何万人、何十万人という夢追い人の挫折が転がっている。それに対する最高の鎮魂は、彼らの届かなかった高みに俺が登ることだけだ」


萌え絵師、真剣な顔で歌麿たちを見つめる。


萌え絵師「俺のせいで、あんた方が窮地に追い込まれているのは知ってる。でも、200年も昔の絵描きに負けてしまっては、彼らに申し訳が立たない。だから俺は……」


萌え絵師、iPhoneを川にブン投げながら叫ぶ。


萌え絵師「全力で、あんたらを叩き潰す!!」


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