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萌える宇宙

  ◯ 萌え祭 30分経過(昼12時半)


想像に反し、女性客が多いという現実に荒む歌麿。そこに、お母さんにつれられたかわいい女の子が来る。


女児「これくだちゃーい」

歌麿「おっ、お嬢ちゃんありがとよ」


絵を両手で抱えてニコニコ顔の女の子。手を振って見送る歌麿とスリ。


歌麿「独身男性向けに描いたつもりだが、子供に売れるとは」

スリ「小さい子は空想的な話が好きですからね…」

歌麿「小さな援軍だ。ありがたい…」


その後も、独身男性と女児中心にボツボツ売れる。魚を抱えた男性が一枚を買ってくれる。


魚屋「一枚下さい」

歌麿「おっ、ありがとよ」

魚屋「あとこれ……」


お客、持ってきた魚を差し入れてくれる。


魚屋「魚屋なもので、応援ってことで…」

歌麿「いいのかい?」

魚屋「魚屋も楽なもんじゃないですけど、萌え絵のお陰で毎日頑張れるんでさぁ… 仕事から疲れて帰ってきて、女房もいねぇ。寂しいもんです。でも、萌え萌えな女の子を見ると、生きる気力が湧いてくるんでさぁ…」


魚屋、お礼を言いながら立ち去る。歌麿も笑顔で応じ、しばらく考える。


スリ「歌麿さん、なにを考えてるんです?」

歌麿「もし仮に、俺が絵を描いてなくて、あいつと会ったとしたら、こんな風に分かり合えたかな…」

スリ「………」

歌麿「俺とあいつだけでは、元気にしあうことはできない。だけど、萌え絵が間に入ることで、ふたりとも元気になれる… 『萌え』って、すごい発明なんじゃないか?」


スリ、想像もしてなかった考察にポカンとするばかり。


歌麿「おっと、そんな事考えてる場合じゃなかったな… 売らないと…」


――――――――――


  ◯ 萌え祭 夕方(17時)


約4時間半が経過し、夕方17時ごろ。萌え祭の場の勢いはだいぶ落ち、歌麿たちの絵を買う人間もまばらになってきた。落ち着いた時間帯を利用し、『萌点』を数えるスリ。


スリ「いま、萌点は226点ですね…」

歌麿「ふむ… 萌え絵師はどれくらい行ってるかな……」

スリ「歌麿さん… あとさっきから気になってたんですけど…」


スリ、あたりを見回す。


スリ「なんだか、男の割合が増えてませんか?」


言われて、歌麿もあたりを見回す。


歌麿「……増えてるな」

スリ「仕事が終わった職人たちが来てくれてるのかな…?」

歌麿「きっとそうだろう。いい追い風だ。あとはなにか火がつくキッカケがあれば……」


そこにに、浮世絵師が息を切らせて走ってくる。


浮世絵師「歌麿さん、大変だ!! 萌え絵師が完売した!!」

歌麿「完売……!?」


ガタッと立ち上がり、愕然の表情を浮かべる歌麿。そのまま、力なく座りこむ。


歌麿「奴は300枚摺ったといった… 俺らは2刻半(約5時間)使って230弱…… 終了時刻の暮六つ(18時)までの半刻(1時間)で75枚売り切ることは、さすがにもう無理だ… 負け…か……」


スリも黙りこんでしまう。重々しい空気になる歌麿のサークルに、突如援軍が現れる。


???「歌麿さん、お通夜のような顔じゃ、お客さんが逃げちゃうよ」


歌麿、疲れた顔で振り返ると、歌麿の萌え絵のコスプレをした女浮世絵師たちの姿が。


女浮世絵師「ごめんなさい、遅くなって…」

歌麿「お、女浮世絵師さん!? なんだその格好は!?」

女浮世絵師「なにって… 歌麿さんの絵のコスプレですよ。衣装縫うのに時間かかっちゃったけど、コスプレ売り子で協力したくて…」

歌麿「あ、ありがてぇ…!!」


歌麿、女浮世絵師の隣にいる美女に目を向ける。


歌麿「となりの美女はお前の友達か?」

女浮世絵師「春朗さんですよ」

歌麿・スリ「えええええ!!?」

スリ「そ、その格好、恥ずかしくないのか?」

春朗「フンドシじゃないから恥ずかしくないもん!!」


春朗、恥ずかしくないと言いながらも、恥ずかしそうにモジモジしつつ本音を語る。


春朗 「いえ… こんな女装をさせられて、正直恥ずかしいし頭にきていますが、僕も萌え絵師には一泡吹かせたいんです!!」


それをみて、女浮世絵師、よだれを垂らす。


女浮世絵師「怒りの女装……萌えるわぁ……」


コスプレ売り子軍団は大いに目立ち、通行人たちが集まってくる。


通行人「おい、見てみろ、色っぽいコスプレ!!」

通行人「一部ください!!」

歌麿「ありがとよ…!!」


あっという間に歌麿のサークルに人だかりができ、再び飛ぶように売れはじめる。


そして、ついに歌麿たちの絵は完売し、勝利が確定する。


――――――――――


  ◯ 神田明神 暮六つすぎ(19時)


完全に日は暮れ、すっかり打ち上げムードの神田明神境内。

蔦重と歌麿、萌え絵師を人々が囲み、場が出来上がっている。蔦重が司会というか、場を仕切っている。


蔦重「萌え頂上決戦は歌麿さんの勝利!! では、今日の感想をひとこと……」


勝利のコメントを求められる歌麿。少し考えてから語りだす。


歌麿「今日一日考えていたんだが、もし俺が萌え絵を描いてなくて、今日来てくれた人と出会ってたら、お互いに関心を持たずに終わったかもしれない。でも萌え絵があったから、みんなの力で俺は元気になれたし、俺の絵でみんなも少し元気になれたと思う」


歌麿、萌え絵師の方を見る。


歌麿「萌え絵師という最強の男が現れたことで、俺ら浮世絵師は大変だった。けど、最強の相手に追いつこうと必死で努力したから、前より良い絵になったし、良い絵になったから、絵を見てくれたみんなもより元気になれたはずだ」


歌麿、力強く微笑みながら、萌え絵師に握手を求める。


歌麿「これからも最強の相手でいてくれ。あんたが強くなくっちゃ、俺も寂しいし、見てくれてる人がみんな悲しむからな…」


萌え絵師、握手に応じる。そして手を握ったまま突然泣き崩れる。


萌え絵師「うっ……ううっ……」


いきなりの号泣に、一同驚いて顔を見合わせる。いち早く内心を察した女浮世絵師が一歩前に出て、萌え絵師を優しく抱きしめてあげる。


女浮世絵師「強がってたけど、辛かったんだね… そりゃそうだよね。萌え絵を描かなきゃ、ただのハタチそこそこの男の子だもんね……」


まわりからも暖かい拍手が起こる。一時期はいがみ合ったスリも、目に涙をためて拍手している。


――――――――――


  ◯ 蔦重の店


歌麿、蔦重のところに新作萌え絵を持っていく。


蔦重「歌麿さん、これは大傑作だ!! 歴史に残る絵だ!!」


歌麿、蔦重の店に飾られた萌え絵を見渡す。レベルはさらに底上げされ、他の浮世絵師たちも平成時代の萌え絵の技術レベルに追いついてきている。


歌麿「みんな、上手くなったなぁ……」

蔦重「へっ、一番うまくなった張本人がなにを言ってるんだい。ちょっとまってな」


蔦重、店の奥から『ポペンを吹く娘』(作品冒頭の絵)を持ってくる。


蔦重「ほれ、少し前の最高傑作と比べてみろ」

歌麿「懐かしいな。あの時は最高の絵だと思ったものだが……」


感慨ぶかげな二人。


蔦重「萌え絵師は未来から来たというが、仏様はなぜ、奴を送り込んだんだろうな…」


歌麿、少し考えてから言う。


歌麿「きっと、人類の絵画能力を引き上げるためだ」

蔦重「じゃあなぜ、絵画能力を引き上げるんだ?」


歌麿、満足気な笑みを浮かべて言う。


歌麿「俺達に、より深い世界を見せるために……」


(おしまい)

【あとがき】


ペースにかなりムラがありましたが、なんとかほぼ4ヶ月で完結できました。ご愛読ありがとうございました!!


当小説の元ネタは、ドンガメ六号(‏@dongame6)さんがTwitterで書かれていた、


「現代のエロ漫画家が昭和にタイムスリップしてエロ漫画業界に革命を起こす「僕は鳴子ハナハル」みたいな漫画描いたらウケるんじゃね?「こ、この表情は…」「これは『アヘ顔』でございます」「ア、アヘ顔…き、聞いたことも無い技法だ…」みたいな」

(https://twitter.com/dongame6/status/204752137874448384)


というアイデアです。ご本人の許可をいただいて、ストーリーを作りはじめました。


考えているうちに、

「『JIN』みたいに、江戸時代で無双でも面白いんじゃね?」

と思うようになり、結果的に江戸時代の話になりました。


今回、はじめて歴史ものを書きましたが、やはり噂通り、非常に難しいジャンルだと感じました。

例えば、キャラクターの1日(24時間)のタイムスケジュールを考えるにしても、江戸人がどんな24時間を送っていたのか、まったく想像がつきません。

現代が舞台であればごまかせるところも、いちいち考証が要るため、一行書くのすら難しいと感じました。


シナリオ形式でこの難易度なので、時代劇を描いている漫画家さんたちがいかに怪物か、肌で感じることができました。

中でも特に、「時代劇+医療もの」という、ウルトラ困難な題材を描ききった「JIN」の村上もとか先生は超人だと実感できました。


牛帝(2013/08/17)

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