23 嬉しい届け物
カザリア王国の王宮がコンスタンス姫の離婚に揺れ動いた日、イルバニア王国大使館は嬉しい届け物と、全く歓迎されない客を迎える。
ユーリは午前中はずっと部屋で見習い竜騎士のレポートを書いていたが、熱の出た次の日なので根を詰めないようにセリーナに呼ばれてサロンで休息を取る。
午前中にバークレー陶器から注文していたティーセットが届き、梱包していない見本の素晴らしい出来にユーリはとても喜んだ。
「まぁ、とても可愛らしいティーセットだわ。これを、マウリッツ公爵夫人のお土産にされるのね。こちらのも、エキゾチックで素晴らしいわ。そうね、私は此方の個性的な方が好みかしらね。こちらは、フォン・フォレストのお祖母様へのお土産ですのね。ユーリ嬢、特注のティーセットなんて良いアイデアだわ、とても喜ばれると思うわ」
ユーリはセンスの良いセリーナに誉められて安心する。
そうこうしているうちに、セリーナが待ち望んでいたマダム・フォンテーヌからドレスが届いた。
「仮縫いもしてませんのに、大丈夫でしょうか? 私と会ったことも無いのに、雰囲気や、好みがキチンと伝わったかしら」
憧れのマダムにドレスを縫って貰った嬉しさと同時に、仮縫い無しで身体にフィットしてるかしらと不安も感じる。
「まぁ、とても素晴らしいわ! 私が欲しいと思っていたドレスその物よ。何故、マダム・フォンテーヌには私の好みがわかったのかしら」
ドレスの箱をあけたセリーナは、濃いミッドナイトブルーのドレスを見た瞬間に自分に絶対似合うと確信したが、ウエストに向かってドレープが集中してかなり絞ってあったので、仮縫い無しなので入るか不安になる。
「着てみられたら、如何ですか?」
ユーリの勧めでドレスを試着しようと箱から持ち上げたセリーナは、下にもう何枚かのドレスがあるのに気づく。
「あら、まだドレスが入ってるわ。ユーリ嬢のドレスかしら?」
サロンに侍女達を呼んで、あと3枚のドレスを取り出して持たす。
一枚は、白に銀糸の刺繍が美しいデビュタント用のドレスで背中が大胆にくってある。
「これは、貴女のドレスね。デビュタント用ドレスなのに甘過ぎず、それでいて品も良いわ。この刺繍の素晴らしいこと。後の、2枚は? サイズや雰囲気は私のドレスみたいだけど、1枚しかオーダーしてませんのに……」
薄紫色のドレスはシフォンの柔らかさを生かした素晴らしい作品で、セリーナは一目惚れする。
後の一枚は、綺麗な柄の昼用のドレスで大胆な胸のカッティングが着たら映えるだろうと想像する。
「大使夫人、祖母からの手紙がありますわ」
ユーリから手紙を渡されたセリーナは、美しい文字で孫がお世話になったお礼にドレスを2枚プレゼントさせて頂きますと書かれていた。
「まぁ、こんなに素敵なドレスを2枚も。宜しいのかしら……」
感激しながらも、頂いてよいものか躊躇っているセリーナに、ユーリは自分宛ての手紙から、モガーナの言葉を伝えた。
「マダム・フォンテーヌはいつも祖母の黒いドレスと、私のデビュタント用ドレスで飽き飽きしてるから、とても喜んで作ったそうですわ。着てみて気にいられたら、またご注文してやって下さいですって。試着してみて下さい」
セリーナはそういえばマダム・フォンテーヌはデビュタント用ドレスがお嫌いという噂だったと、とても素敵なユーリのドレスだけど可笑しく思う。
自室で侍女に手伝わせて、ミッドナイトブルーのイブニングドレスに着替えたセリーナは、自分がとてもスマートに見えるのと、仮縫い無しなのに完璧にフィットしているのに驚く。
「まぁ、凄くウエストが細く見えるわ! デザインが素晴らしいのね。私にピッタリのドレスだけど、マダム・フォンテーヌにはお目にかかったこと無いのに不思議ですわ」
「セリーナ様はとても魅力的で羨ましいですわ。そのドレスを着ていらっしゃると、スタイルの良さが引き立ちますわね」
ユーリはグラマーな胸と引き締まったウエストが強調されたドレス姿が、大人の貴婦人の魅力を存分に表現していると羨ましく思う。
セリーナがマダム・フォンテーヌに会ったことも無いのにと不思議がるのは、ユーリがセリーナの思い浮かべる理想のドレス姿を念写して送ったから、マダムは雰囲気や好みが把握できたからだ。
薄紫色のドレスを着たセリーナは、品が良くエレガントだったし、昼用のドレス姿は生き生きとした魅力にあふれて見える。
「どのドレスも、それぞれ私を引き立ててくれるわ。ミッドナイトブルーのドレスは、今度の大使館主催の舞踏会で着ましょう。昼用のは、そうだわ! 明後日の皇太子殿下や学友の方達をお招きする昼食会で着たらいいわね。薄紫色のは、お別れの晩餐会に……ユーリ嬢、もうお別れなのね」
セリーナは王妃から絆の竜騎士であるユーリの後見人に指名されて、エドアルドの猛烈なアタックに翻弄されたり、エリザベート王妃に気に入られ過ぎて振り回されたりした日々を思い出す。
泣いたり、笑ったりと、喜怒哀楽の激しいユーリにも振り回されたが、あと少しで帰国すると思うと娘のように感じていたので別れるのが辛くなる。
「セリーナ様にはとてもお世話になりましたわ。ご迷惑ばかりおかけして、すみませんでした」
まだ一週間残っているのに二人でしんみりと、あれこれ思い出を話しながら昼食を取る。
「ユーリ嬢はこれから夏休みなのでしょ、もう少しニューパロマにいらしたら良いのに」
他のメンバーが聞いたら、エドアルドが喜んでデートに誘い出すでしょうよ! と怒りそうなことを、ユーリと別れるのが辛いセリーナは言う。
「大使夫人には良くして頂きましたが、夏休みはする事が山ほどあって、身体が2つ欲しいぐらいですの。それに早く竜騎士になりたいので、本来の国務省に勤務する準備もありますし。ああ、誰が指導の竜騎士なんでしょう? ユージーンよりは誰でも優しいかも知れませんけど、国務省には余り竜騎士の方がいらっしゃらないので不安ですわ」
セリーナは外交官を夫に持つので、何となく国務省には良い感情を持っていなかった。ユーリが国務省に勤務すると聞いて心配する。
「ユージーン卿は厳しく指導なさっていたけれど、基本は愛情深い方ですわ。基本、外交官は紳士的で女性には優しいもの。でも、国務省はガチガチの官僚が多くて、苦労なさると思うわ。意地悪されたら、外務省に帰ってきたら良いのよ」
セリーナの妙な励ましに、微妙な気持ちになりながらも、確かにユージーンは厳しいけど優しい所もあるし、ジークフリートや、グレゴリウス、フランツと知り合いばかりの特使随行期間は、自分が我が儘に過ごしていたのに今更気づいて反省する。
セリーナは前から聞きたかった質問を二人きりになった機会に、遠慮がちに聞いてみる。
「ユーリ嬢は、エドアルド皇太子殿下のことをどう思っていらっしゃるのでしょう」
本当はグレゴリウスのことも聞きたかったが、どう見ても同級生としかみてないのはあきらかなので無駄に思えて聞かない。
「そうですね、とても良い方ですわ。あの方ならカザリア王国も安泰ですわね」
そ~じゃなくて、結婚相手としてどう思っているのかとツッコミたくなったが、これは脈なしだと安堵する。
「ユーリ嬢は、結婚相手にどういう方を望んでいらっしゃるのかしら?」
まだ恋も知らなくても、女の子なら夢見る男性像があるだろうとセリーナは考える。
「結婚相手? まだ見習い竜騎士だから、結婚はしませんわ。将来、結婚するなら働くのに協力的な方が良いですわ。できれば私が働いている間、フォン・フォレストの領地を管理して下さる方が良いのですけど、そういう方をご存知ありませんか?」
うっ! と大使夫人は飲んでいた紅茶を吹き出しそうになる。
二国の皇太子の心をつかんでいるユーリの理想の結婚相手が領地管理人だなんて……
気を取り直して、そういう条件ではなく、どのような方がお好きなのか聞こうとしたセリーナは、全く歓迎できない訪問者に邪魔をされてしまう。




