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スローライフ 泣き虫ユーリのどたばた恋物語!  作者: 梨香
第一章  ここはどこ?
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4  町? に行く。

 ユーリはサークルという檻から解放された。


 シルバーが自分が子守りをするとウィリーを説得し、すったもんだの末ウィリーがローラを説得したからだ。


『ローラかウィリーが一緒に行けない時はポーチより外には出ないと約束できるか?』


 シルバーが一緒ならいいじゃないと、文句タラタラだったが、檻よりはマシだとユーリはしぶしぶ約束した。


 シルバーも庭ぐらい自分が面倒見るから大丈夫だと、ウィリーに掛け合ったが、ローラを説得するのは無理だと言われて諦めた。


 シルバーはウィリーが森に狩りに行く時は一緒に出かけたし、夜はそっと抜け出して狩りをしたが、ユーリが起きてる時は何時もそばにいた。

      

 ユーリは家のパパとママは何だか他の人と違うのではと、疑問を深くしていった。


 田舎とはいえ、新米ママを世話しようと訪問してくる主婦はいる。


 彼女たちを見ると、いかにも元気な農家のおかみさんといった感じで、それに比べてローラはどこか農家の主婦を演じてるような感じがする。


 若いからかもしれない。


 ローラの家事はゆっくりとしたやり方で、テキパキとか、慣れてるとは言えない。


 今朝も、ゆっくりとローラが朝ご飯の片付けをしていると、近所に住んでるアマリアがつぶしたばかりの鶏をぶら下げてやってきた。


「やっぱり、あんたんちのハーブはよく育ってるね~

 今日は何匹か鳥をつぶしたから、煮込み料理を作ろうと思ったんだけど、ハーブをきらしちまったのに気がついてね。

 あんたんちの菜園に確かあった筈だと、ひとっ走りしてきたのさ」


 家の横手に、ウィリーが森や小川や原っぱで根っこごと採ってきたハーブを、ローラは栽培している。


 なかなか育ちにくいハーブも、ローラの菜園には揃っていて、近所の主婦達は重宝していたのだ。


 そして、このハーブはあまり裕福とは言えない、ウィリー達の現金収入にもなっているのを皆知っていたから、アマリアもハーブの見返りに鶏肉を持参して来たのだ。


 もともとは森や野原に生えてたハーブなのだからと、ローラは遠慮してたが、田舎の近所付き合いの一環として受け取る。


「それにしても、大きな犬だね。

 でも番犬には、ちょうど良いのかもしれないね。

 この家は、ちょっと他の家から離れてるし、森にも近いからね」


 アマリアは初めてシルバーを見た時には、狼ではないかと怯えたが、ユーリと遊んでる姿を何度も見るうちに慣れてきた。


 子守りを怖がる人はいない。


 今も、つかまり立ちが出来るようになったユーリが、危なかっしくポーチの柵を横移動してる後ろを、シルバーは心配そうに付いて歩いてる。


 ユーリはポーチをローラとアマリアのいるハーブ園の方へと、伝え歩きしていた。


 ローラとアマリアが、どの様に違うのか、少し離れたポーチから観察して、考えてみたかったからだ。


 ポーチに絡むバラのトゲに痛いと、ちょっと手が放れたと思った瞬間、バランスを崩したユーリは、すってんころりんとシルバーのふかふかした毛皮の上に軟着陸する。


『ありがとう』


 お尻を打たずに済んだお礼を言うユーリに、何でも無いさと答えながら、何でわざわざバランスの悪い二本足で歩きたがるのかと疑問を持つシルバーだった。




「ところで、今度の夏至祭は町に行くのかい?

 去年は、ほら、悪阻だったからローラは行かなかっただろ。

 今年は、何人か行商人が来て市がたつみたいだよ」


 アマリアは旦那が聞いてきた噂話を、興奮してあれやこれやと話している。


 ローラはアマリアの話を相づちを打ちながら聞いていたが、布地を扱う行商人が来ると知って、行くわ! と即答する。


 ほぼ自給自足の生活をしているが、やはり完全にとはいかず、町で生活に必要な物を買う必要があった。


 大きな買い物は小麦の収穫後、冬越しに向けてするのが習慣だが、日々の消耗品で残り少なくなっている物など市が立つのなら安く手に入れたいとヒースヒルの住人は考えている。


 ローラは砂糖とか塩とか鍋とかならウィリーに任せて、自分はユーリと家で留守番してても良いと思っていたのだが、布地を扱う行商人が来ると聞いてはじっとしていられない。


 布地は自分で選びたかった。


 町、といっても万屋が一軒しかなく、布地も白、黒、茶色といったベーシックな物しか普段は扱ってなかったので、周りの主婦達を見習い、白い布を買って、草木染めをしていた。


 草木染めを教えてくれた主婦には、筋が良いよと褒められたが、ローラはムラに染まった布に満足できない。


 それに、すくすくと育つユーリに可愛い服を着せてあげたいと、前から考えていたローラは夏至祭の市を心待ちにする。


 針仕事もあまり手早く無いと自覚してるので、日の長い夏の間から冬服を縫い始めたいと考える。


 ただ、小麦の収穫前なので、一番経済的に厳しい時期だと、いくら世慣れてないローラでもわかっている。


 ユーリも、ママとアマリアの話を聞いて夏至祭に町に行くのだと知った。


 最初は、町にはあまり行きたく無いと思ったが、夏至祭と、市には興味を持つ。

  

 アマリアとママを比べても、ベテランおかみさんと新米ママとでは、比べようが無い。


 祭りには、他にも若い主婦が居るだろう。


 その上、祭りを見れば、この地区の宗教的環境とかがわかるのではと期待したのだ。


 それに市を見れば、ここの文化レベルがわかる。


 生後半年と言っても、意識をはっきりと保てるようになって数ヶ月に過ぎない。


 確かにスローライフと言えばその通りで、死神カップルに文句は付けれないけど、何だか変だと思っていた。


 文化が馬車止まりなのは、家のもしくは地域全体で規制した結果なのか、元々ここは地球ではなく文化レベルが低いのかわからず少し悩む。


 やっと、つかまり立ちし始めた我が子の思惑など知らず、夏至祭に行くと決めたローラは栽培しているハーブを刈り取り乾燥させたり、飼っている鶏にハーブを与えて美味しい卵が出来ないかと忙しく働いている。


 ウィリーは手持ちのお金を増やそうと、シルバーを連れて森に狩りに行き雄鹿を仕留めた。


 両親が忙しく働いてるのを手伝えないのをもどかしく思いながら、赤ん坊の自分にできるのは邪魔しない事だと判断したユーリは、ポーチに座ってママが菜園の野菜の世話をするのを眺めていた。


 少しでも現金を手に入れて、ユーリの為に可愛い布を買いたい。


 熱中し過ぎてたローラは野菜に囁きかけ、成長を促していた。


 緑色のトマトにローラが囁きかけるとほんのりと赤味がさし、やがて真っ赤に熟した美味しそうなトマトに変わる。


 ユーリは、前から何かうちの家族は変わってるのではと思ってたが、ローラの能力を見たのは初めてだったので驚いた。


『ママはトマトを赤くしたわ!』


 ユーリはパパの能力を受け継いで狼と話す。


 でも、どの狼とも話せるのか、シルバーとだけ話せるのか、他の狼を見たことがないからわからない。


 パパは馬の扱いが上手く、馬とも話せるのかな? と思う時もあるが、ユーリは飼っている馬と話せなかった。


 馬の気分はなんとなくわかるので、パパも同じなのか? 話せるのか?

 

 ただ単に馬が飼い主に従順なだけなのか判断しかねる。


 ママが風の音……風以外の声に時々耳を傾けてるのは知っていたが、植物に働きかける能力があるとは知らなかった。


 シルバーは、シルバーから話しかけてきたから話せるのがわかった!

    

 植物は話かけてこないけれど、こちらから話しかけられるの?


 ポーチに座っていたユーリは目の前のバラの蕾に『咲いて!』と話しかけてみたが、蕾は蕾のままで咲く気配は無い。


 ユーリは自分には植物と話す能力は遺伝してないのだと思った。

    

 菜園の手入れを終え、手籠に市に持って行く野菜を山盛り収穫したローラは満足そうにそれをポーチに置くと、いい子にしていたユーリを抱き上げ頬ずりしながら家に入る。


 夕食を料理する空腹を刺激する良い香りが煙突から流れ出てきた頃、バラの蕾が少しずつ綻び、咲きだしたのに誰も気づかなかった。

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