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序章

 魔法使いチェスワフは弟子のリリアナを育てるのにいつも苦労している。なにしろいろいろと手のかかる女の子だ。人一倍食いしん坊な上に、十三歳の女の子とは思えないほどがさつで、おまけに気分屋ときている。


 こないだなんか、リリアナは夕食でおかわりまでしたのに、風呂上がりにはキッチンの食べ物を堂々と漁っていた。しかも下着姿で。あまりにだらしないその様子を見たチェスワフは、一瞬彼女を弟子にしたことを後悔してしまった。リリアナがちゃんとした振る舞いを心がけるように、チェスワフはこの子の保護者として書き取り罰を与えることにした。「私は魔法使いの弟子です。露出狂じゃありません」という文章を、ノートにたっぷり十ページ分書くように告げたのだ。すると、リリアナは激しく落ち込んでいたが、それも最初のうちだけだった。しばらくすると、「食事抜きの罰じゃないだけいいか」とけろりとして、次の日にはまた同じことをやっていた。師匠としてはまったく頭が痛かった。


 リリアナが魔法使いの卵として大切な修行をまったくやりたがらないことも、チェスワフにとっては頭痛の種だった。どうやら、魔法学校でどっさり出される宿題や、師匠直伝の魔法修行より、街の服屋を友達と巡ったり、カフェで甘いデザートを食べることの方が楽しいらしい。そろそろ魔法学校のテスト前だというのに、リリアナは一向に勉強する気配がなかった。しかたがないので、チェスワフが仕事の合間を縫ってつきっきりで勉強を見てやると言うと、あろうことか、彼女は遊ぶ時間がなくなると文句を言ってきた。


「せっかくテスト前には授業が少なくなって早く帰れるようになるのよ! 遊ばなきゃもったいないじゃない!」


「なめてんのか。テストで赤点取ったら、夏休みはどこにも連れて行かないぞ」


 リリアナは信じられないといった表情を浮かべたが、チェスワフが教科書を持ってくると、黙って机に向かい始めた。勉強一つさせるのにも手を焼かせられる子だ。


 でもまあ、最近はチェスワフも、弟子がいる生活というのは悪くないと思えるようになってきた。リリアナが家にやってきてから、彼は少し大人になったのかもしれない。十三歳の頃に師匠が家を出て行ってからというもの、チェスワフは七年間も一人でこの家で暮らしてきた。一時期は誰にも頼らず一人で生きていくと決めていた。今振り返ってみると、自分でもずいぶんひねくれていたものだと思う。


 リリアナを育てるのは思っていたより大変だったし、彼女がこの家に落ち着くまでは揉め事もあった。チェスワフはそれを解決するために決闘までやらなければならなかったが、それでも家に帰ったときに誰かがおかえりと言ってくれるのはなかなかいいものだ。そのためには決闘の一つや二つぐらい、いくらでもやってやる気分になれる。


 チェスワフは教科書に書かれた問題に悩んでいるリリアナを眺めた。勉強させるのはいいが、あんまり夜更かしさせるのもよくないだろう。明日の朝起きられなくて学校に遅刻してしまう。この子はただでさえ、朝食を食べることや髪を整えるのに時間をかけるから、寝坊すると大変だ。


 チェスワフはリリアナのあれこれを心配する自分に苦笑してしまった。まるで子どもを育てるのに苦労している親みたいだ。だが、魔法使いが弟子を育てるというのはそういうものなのかもしれない。


 彼はかつて自分に何も言うことなく姿を消した師匠のことを考えた。クソジジイも案外自分と同じ気持ちだったのかもしれない。今ならあの男の気持ちがなんとなくわかる気がした。


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