目撃者…杉田竜也
―何やってんだ、俺…。
side.竜也
…狭達、大丈夫かな。
―…ただ雅が危なかったから、何も考えず気付いたらあいつの前に飛び出していた。
もうこうなったらヤるしかない。
そいつの標的を俺に変えたら、後はもうひたすらに走った。後ろは振り向いてないけど、すぐ後ろから追いかけてきてるのが分かった。ものすごい速さで。
時々風に混じって笑い声が聞こえるのは気のせいであってほしい。
足には自信があった。
でもここの地理が分からない。行き止まりになんて突き当たったらそれこそ終わりだ。
変に動き回るよりここは…。
「……!」
めちゃくちゃに走ってたら目の前に大きな家が見えた。周りを塀で囲まれたその家は横にもの凄く長い。
確認できる入り口はこの道の突き当たり、目の前にある扉のみ。後ろは引き返せないし、遠回りした所で逃げ場があるか…。
いや…もう考えてる時間も無い、か。
体当たりしそうな勢いで扉に手をかけた。
――ガ、タガタッ…
「っ…の!開けよ!!」
が―…扉は開かない。
なんで開かないんだよ!!
「ふざけんなよ!早く開けって!!」
何度も引き戸であるその扉を引いてみるが、ガタガタと音を出すのみで開かない。
その間もどんどん近付いてくる足音。
すぐ後ろまで来てんだよっ!!
「…くそ!」
一か八か少し後ろに後退りして、もう一度隣の塀を見上げた。
「こんな所で、殺されてたまっかよ!!」
助走をつけて目の前の俺より身長の高いその塀に向かって、思いっきり飛んだ。
そしたら、途中塀を蹴ってギリギリで上の出っ張りを掴めた。
後はもう腕の力と足で蹴ってよじ登る。
「…っい!!」
よじ登れた瞬間、もの凄い勢いと力で足首を掴まれた。
痛みに思わず手を放しそうになったが、必死で堪える。
「てめぇ!離せよ!!」
もう片方の足で掴んでいる手を無我夢中で蹴った。
だが手は離れず、それどころか引き下ろそうとしてくる。
「離せって言って…ぅわ!!!」
…――ドサッ!!
また蹴ろうとした瞬間バランスを崩して、塀の向こう側に身体が傾いた。
ヤバ…落ちる!!
すぐに立て直せずに、俺はそのまま地面に向かって塀から落ちた。
塀から俺は落ちた。
でも頭からじゃなかったから良かった。
落ちる瞬間足首を掴んでた手は離された。
落ちたのはあいつがいる反対側。
「いって…」
いくら頭からじゃなくても、うった腕や膝が痛い。
――ガタガタッ!!!!
「……!!」
突然隣りの扉が激しく揺れた。壊れるんじゃないかってぐらいの勢いだ。
慌てて扉を抑えようと立ち上がり、改めて扉を見た。
あの扉開かなかったんだけど鍵でもかかってんのか?…だとしても、安全じゃない。
て…、つっかえ棒?
でも鍵なんかじゃなく、扉にはつっかえ棒らしき物が挟まっている。
つっかえ棒だからってなんだ。
この棒が安全とは限らない。
ガタガタとうるさいその扉を必死で抑えた。
諦めろよ…!
……
……
……
……?
…音が止んだ。
諦めたのか?
暫く待ってみたが扉が開く気配は無い。
また布を引きずるような音が聞こえたが、どんどん遠ざかっていく。
……た、
助かった…?
大きな息を吐いて、その場に尻餅をつく。
とりあえず、あいつはまけたみたいだ。
あれからまだ十分くらいその場にいたけど、戻ってくる気配もない。
ほんとに諦めた、て考えて良いんだよな?…て何考えてんだ俺。これじゃ狭や太田達も危ないじゃねぇか!せっかく俺に引きつけたのに…。
でも、さっきの間に皆逃げたん…だろうな。
これからどうする?
どうやらこの家は周りを塀に囲まれてるみたいだし。出入り口はあの扉…か裏口があったら裏口だろ。
立ち上がって改めて家を見渡した。
ここに朝まで隠れてた方が良いんじゃないか?
たぶん雅や狭達が駅のほうに帰って警察に通報してるだろうから、明日になってからのが安全だ。
あ、そういやここまでの地図って……俺は持ってない、か。
てことは雅が持ってるんだよな?
あいつら大丈夫、だよな。
ふと気になってとりあえず、家の中を歩いてみることにした。
使われていない村や家…にしては色々と物が散乱したままだ。本や服、毛布等どれも古く錆汚れたものばっかだけど、なんでこんな置きっぱなしなんだよ。
この大きな家は渡り廊下を挟んで、まだもう一つ家があるみたいだ。でっかい家だな。
襖を開ければ、大きな畳の部屋ばかりだ。
「……ん?」
泥や誇りで暗く黒い物ばかりの中、何か光る物が視界端にうつった。
「あ!あれって…」
懐中電灯の光をあてたら、そこにはまだ綺麗な黒縁の眼鏡が落ちていた。
見覚えのあるその形。
まだ誇りも被ってない綺麗な眼鏡。
「剛の…だよな、これ」
手にとって確かめてみても、予想通り。つい昨日見たことのあるこの眼鏡は、間違いなく剛の眼鏡だ。
確信はないけどこんな村に、こんな綺麗な最近使われてたような眼鏡。あるはずがない。
「…やっぱり剛、この村に来てるんだ」
そう信じて俺達はこの村に来たんだ。
そう、信じてたんだけど。
半信半疑だった。
この村に居てくれたら、て思う気持ちと居ない方が良いと思う気持ち。
脳裏に死んでる健一の死体の姿が過ぎった。
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