棚機月の逢瀬
タイトルは、『たなばたづきのおうせ』と読みます。
たぶん、皆さんが想像した通りのことを扱っている、作品になるため、苦手な方はご注意ください。また、本文中で少しではありますが、大人な表現が出てきます。
奇跡のような出逢いをした。
互いのすべてに夢中になった。
己の使命を忘れるほどに…。
そのために下された判決は、互いの身を切るほどつらかった。それでも猶、忘れることも目をそらすこともできない我らを、愚かだと罵りますか?
かつて、仕事熱心だと褒め囃されていた女は、星を見つめては吐息をもらした。
どうせ苦しむ運命なのだと毎年この日がくると、思い知らされる。
自分の立場を顧みず、あの方を愛したのがすべての終わり。
零れ落ちてくる水が、私を責める。「ただ愛していただけだと」主張するには幼すぎて、「何を置いても好きなのだと」言い張るには少し、勇気が足りなくて…。
夢中にならずにはいられなかった。独占欲を抱かずにはいられなかった。
唯々溺れるように恋をしただけなのです。誰にともない言い訳を、そっとひとり心で呟き目を伏せた。その刹那にこぼれた涙は、何時までもとまる事がなかった。
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罪を背負い、子供の姿に変えられた。みなは私と彼は『年に一度しか逢えないと』思い込んでいるけれど、本当の姿で逢えるのが、年に一度なだけだった。
――――そしてまた、今宵も。一時の逢瀬がはじまる。
飢えたように、求められるのが恐ろしかった。年に一度のこの日だけ、本来の姿に戻る私たち。普段と変わらずやさしいはずの貴方の瞳に、情欲の光を見つけた瞬間が、はじまりの合図。
貪るような接吻に、すべてが溶かされてしまうのではと怯えてしまう。
子供の姿では、抱き合っているはずの体勢も、今では隙間もないほどに覆われて。骨の軋みに愛を知った…。
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一年ぶりに元の姿に戻った男は己の妻を見つめ、喜悦の色を浮かべた。
「愛しき妻の、なんと可愛らしいことだろう」
こぼれた吐息にすら、情欲が混じる己に苦笑してしまう。このような至福の時を、制限している彼女の父親が憎らしい…。
ゆっくり開いた可憐な華へ、唇を寄せて忠誠を誓う。
たとえ年に一度の逢瀬でも、放せぬのだから仕方がない。
せいぜい自分は、義父の怒りを少しでも早く冷ませられるようにと、役目に励むのだ。それさえも、彼女と思うようにふれあえない辛さと憤りを力に変えればたやすいことだった。
普段から欠かさぬ接触も、発情の兆しだけではなく周囲への立派な牽制だと知ったら―――。貴女はそんなことは必要ないと、笑ってくれるだろうか?
どうか…貴女が喜び以外の、涙を流さぬようにと。
祈りながらも、貴女を貪る。
逢瀬の夜に雨が降るのは、機織姫の涙ではなく。
牽牛が彼女を見せぬようにする、独占欲。
どーしても、7月7日である今日に何か出したかったので、とりあえず満足です。
私は天の川をまともにみたことは無いのですが、ぜひ綺麗なものを見てみたいですね。今年はどうか、晴れますように。