想曲・伍~答~
既に答えた問いの繰り返しに、少年は眉間に皴を寄せる。
「偶然だと…」
「そうじゃなくて!」
言葉を遮った彼の激しさに、少年はその深緑の双眸を細める。両肩を掴んできた彼の手を、しかし今度は少年は振り払わなかった。
「どうして、俺だけが見える…?」
昔から、他人には見えないものが見えた。
小さい頃から、誰にも聞こえない声が聴こえた。
それが、幽霊や妖怪と呼ばれる類のものである事を知ったのは、もう随分と前の事だ。
見えてしまう。聴こえてしまう。無視すればいいのに、切実なその言葉に、心を動かしてしまう。
自分は、ただ見えるだけだ。何の力もない、ただ、他の人よりも少しだけそういったものに敏感なだけ。だから、心から願われても、何もしてやれない。
どうして、自分だけが見える?
どうして、自分だけが聴こえる?
何故、自分でなければいけなかったのだ。
「――知らないね」
まるで縋るような、悲痛なその問いかけに、少年の返答はあまりにも冷たく、尤もなものであった。
彼の肩を握り締めていた己の手が再び振り払われれば、彼は緩慢な動作で伏せていた顔を上げる。小さくなっていくその背へと伸ばした手は何故か霞み、地面が揺れる感覚を味わうと同時に、彼の意識は再び闇の中へ落ちていった。
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