想曲・肆~問~
「…何故、俺がこんな所まで連れてこられる必要があったんだ?」
死者の未練の理由はわかった。けれどそれは、視野三百六十度が山という、海とは全く無縁の場所で暮らしている自分が絶壁に立たされる理由にはならない。
「人に縛られた魂だったから」
「…地に縛られた、ではなくて?」
聞き慣れない言い回しに間違えたのだろうかと指摘した彼に、少年は静かに首を横に振った。
「死者を悲しみ、悼む。生者の想いが、死者を縛り付ける鎖となる。地を動けぬ魂が拘束する枷を破るには、他者の体を借りるしか術がなかった」
「…理屈は解ったけど、どうしてそれが俺でなければならなかったんだ?」
「理由などない」
あまりの即答に、紡がれた言葉の意味を理解するのに時間が掛かった。
「偶々君がいた。それを理由と呼ぶかは、君が決めればいい」
恐らく絶対間抜けだっただろう顔をする彼に、抑揚に欠けた口調で淡々と説明した少年は背を向けてしまう。
その肩を、彼は大慌てで掴んだ。
足を止め、振り返ると同時に自分の肩を掴んだ彼の手を払った少年は、不機嫌を宿した深緑の双眸で促してくる。
「どうして、俺だったんだ?」