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終曲・壱~悲~
「お前、相当のお人好しだろ」
遥か彼方に臨める此岸を、こちら側の岸に立って眺めながら、彼は傍らの気配にそう言葉を掛ける。馬鹿馬鹿しいとでも言いたげに鼻を鳴らした相手に、彼は気分を害する様子も見せずに愉快そうに笑った。
「律儀って、言った方が当たってるかも」
先程一つの魂が吸い込まれていった、背後に聳える扉を見上げ、彼は言い直す。
約束を果たす時は、唐突に訪れた。
緩やかな眠りから目を覚ました。まるで母の腕の中のような心地よさに身を任せていた彼を呼び覚ました悲痛な叫びは、果たして、死者のものなのか、生者のものなのか。
ただ、胸を突いた慟哭に、行かなければならないような気がしたから。
暖かな風に揺れる草原を走り抜け、悠々と流れる広大な川へと辿り着く。
そこで彼は、自分を呼んだ慟哭の正体を知った。
水面に映る、二つの悲しみ。
一つは、大切なものを失った生者のもの。
もう一つは、大切な事を伝えられなかった死者のもの。
決して交錯し得ない、死者と生者の想い。