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想曲・拾~憶~
「ありがとう」
自然と零れ落ちた言葉だった。肩越しに投げられた訝しげな視線に、笑顔で応える。
死者の想いに触れて、やっと、生きる事の大切さが解った。やっと、死の悲しみと安らぎが、解った。
ありがとう。
これで、死者と共に、生きていける気がする。
「―――一度だけ」
それ程広くはない部屋を突っ切り、出口へと続く扉に手を掛けた時、静かな声音が背中を追ってきた。
「人の生死に関わる願いを、一度だけ、叶えよう」
「え…?」
「死者の時間を戻す事以外ならば、一度だけ。心から望めば、また道は拓ける」
パタン!と本を閉じ、その深緑の双眸が、彼を射抜いた。
「借りは返す主義だ」
随分と律儀な相手に、半ば呆けていた彼は軽く吹き出した。
「わかった。憶えておくよ」
視線の交錯はほんの数秒。どちらが先に視線を外したのか。出口を見遣った頃には、きっと少年も同様にこちらに背を向けていた事だろう。