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想曲・玖~涙~

 何処までも俯瞰した態度を崩さない小さな背中をしばらくの間凝視していた彼は、やがてゆっくりと瞼を閉じた。その口元に微かな笑みが刻まれる。

 あの日。婚約していた女性に先立たれた、弥生月の初め。

 常に死者と共にあった自分にとって、死と生はあまり変わりがなかった。たとえ肉体は滅んでも、魂が残る事を知っていたから。この手から温もりが消えても、その存在は消えない。

 だから、彼女を追おうと思った。自分の行き着く先に、彼女はいる。

――人の家の前で死ぬのは止めてくれないかな。

 平淡な声音が、この想いを断ち切った。

 彼の言う通り、きっと、この身に掛けられた言葉に、裏側などなかったのだろうと、思う。死を引き止めたのではなく、生を肯定したわけでもなく。ただ、自らの不快を取り除く為だけの言葉。

 それでも、生と死の狭間を行き来していた自分にとって、あの言葉が契機だったのは確かだ。

 前よりも少しだけ、世界を見てみる事にした。

 前よりも少しだけ、死者の声に耳を傾けてみる事にした。

 そうすると、漠然としながらも見えてくるものがあった。

 生と死は、決して同一のものではないのだという事。死者に生者の声は届いても、生者に死者の声は届かない。それは、一方通行の会話。

 伝えたい事が、伝えられない。

 それが、生と死を分ける、絶対的な相違。

 初めて、死者の為に涙した。その死を、初めて、悲しいと思えた。だから、きっと、大丈夫だと、思う

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