暗躍する転移者の末裔の話
「天にまします我らが女神様の忠実な下僕にして地上の代理人の黒瞳族に申し上げます・・・」
私のお父様は実直な工房主でした。
私には工房で働く婚約者ハンスがいて愛を育んでおりました。
ある日、父とハンスは魔道機械を発明しました。
自動織機とでもいうのでしょうか?
糸から布地を生産する機械です。
今までもありました。水力を使ったり。魔石を使ったりしておりました。
しかし、お父様とハンスが発明した自動織機は糸の補給を自動で行うものです。
『や、やりました。親方!』
『おう、まだだ・・・・これから試験だ』
『はい、これで糸の巻き込まれ事故に遭う女工さんがいなくなります』
ええ、何日も回して、機械は故障無し。
『あなた、布だらけよ』
『フン、お前にも苦労かけたな』
『これも女神様の思し召しだわ。地面に図面が描かれていたなんて、不思議ね』
『ああ、それは俺もそう思う。ヒントになった』
あの糸巻き機の部分は工房の前の地面に描かれていた図面をヒントにしたのものです。
試行錯誤を重ねて出来上がったのです。
お母様は苦しい中で家計をやりくりしていました。
そして、工房の領地を治める伯爵様に報告をしました。
宣伝してもらおうと思ったのです。
しかし、
『何が良いのか分からん』
そう伯爵様は仰いました。
仕方ないですわ。貴族はこういったものには疎いですからとこのときは思っていました。
また、気になる事も仰いました。
『図面はあるのか?』
『いえ、図面はありません。羊皮紙は高い物で・・・』
『全く、王都の工房とは違うな。この機械は一台だけか?』
『はい、一台でございます』
しかし、数日後、ハンスが亡くなりました。
酔っ払って河に落ちたと衛兵隊の調査の結果です。
『嘘よ!ハンスは酒を飲まないわ!』
『しかし、鑑定では多量の酒の発酵反応があったぞ』
そして、日を空けずに領主様から縁談の話が来ました。
『うむ。残念だったな。ところで三男のロミーと婚約はどうか?』
『領主様、娘は悲しみにくれております!』
『ええ、そうです。せっかくの縁組ですがお断りします。マリアには好きな殿方と結婚させます』
ロミー様、領主様のお屋敷では無役職な方で、私より20歳は年上です。
それから、お母様は馬車に引かれ亡くなりました。暴走馬車です・・・、悲しみにくれる前に・・・
お父様も街中のケンカに巻き込まれてなくなりました。
いずれの犯人は捕まっておりません。
すぐに伯爵がロミー様をつれてやってきました。
『残念だったな。マリア殿、工房主が街娘では侮られる。ロミーと結婚しなさい』
『父上、この娘?嫌だな。もっと垢抜けた子がいいよ。手はあかぎれだらけだ』
『ロミー贅沢を言うな』
『断ります』
『なら、その魔道機械は売れないようにするぞ。そうだな。火事に気をつけなさい』
ええ、この頃には分かっていました。伯爵の狙いはマスター魔道機械です。
機械を欲していたのだわ。
父と母、ハンスの想いが籠もった魔道機械を・・・そのために殺したのだと・・・
・・・・・・・・・・・
「グスン、グスン、どうか、黒瞳族の方、魔道機械を破壊して下さいませ!報酬は用意しました。金貨10枚、私とハンスの結婚のために貯めて頂いたお金でございます」
金貨をお堂の真ん中に置いた。
・・・・月夜のない真夜中の二時、四の辻の祠に願い事を言うと黒瞳族が叶えてくれると噂があった。
藁をも掴む気持で私は願い出た。
黒瞳族、女神様の世界から来られたとも、異世界から来たと言う人もいる・・・不思議な種族だわ。
シーン!
祠は静まり返ったままだわ。
すると、どこからもなく声が聞こえた。
「・・・・分かった」
「ヒィ!」
座ったままだったが腰を抜かした。
女子の声?暗闇でみえないはずなのに、その声の主は迷わず金貨の袋を拾った。
数メートル先前にいたのだろうか?
顔の上半分、何かを被っている。目の辺りに工房眼鏡?レンズとレンズの間が小さな点で赤く光っている。
「黒瞳族様、その顔を覆っている物は・・・」
「・・・暗視ゴーグルだ。暗闇でも見える機械だ。興味あるのか?」
「いえ、ございません!」
「・・・その伯爵を殺ればいいのか?」
ゴクリと息をのむ。
「いいえ。殺してはいけませんわ。私のお母様は敬虔な女神教徒でしたわ。人を殺すのは看過出来ません」
「そう、分かった。日時を教えろ」
「は、はい!」
・・・・・・・・・・
それから、伯爵のお屋敷で魔道機械のお披露目式が開かれた。
私とロミー様の婚約式も兼ねている。
私はドレスを着せられて出席させられたわ。
庭園で行われた。
「王太子殿下とその婚約者クーパー公爵令嬢のご登場でございます!」
ここで初めて知ったわ。お父様とハンスの作った魔道機械は国家レベルの発明だったと。
皆は一斉に礼をする。
「やあ、楽にしてくれたまえ。ドミドリ伯爵殿、報せを聞いて飛んで来たよ」
「殿下、ありがとうございます。ロミーが発明しました。それを手伝ったのがマリア嬢でして、ロミーが長年屋敷に籠もっていたのは王国の産業に寄与したい忠義の一心からでございます。それを支えたのは私でございます」
「素晴らしいわ・・・あら、マリア様、手を見せて下さいません」
公爵令嬢に手を取られたわ。
「おかしいわね。見たところ、ロミー様の手は綺麗だわ。マリア様の手は・・・うちの工房長と同じ手だわ・・・」
「マリアは肌の手入れに気をつけない娘でして・・」
「いえ、伯爵殿、素晴らしいわ」
公爵令嬢に見抜かれたかしら・・・
「ねえ。マクシリア殿下、何かおかしいわ」
「うむ。そうだね・・・このマリア殿が発明したのかな?工廠長と同じ手だ」
「殿下!公爵令嬢様、さあ、実演でございます!どうか、魔道機械を見て下さい。ロミーが動かします!」
伯爵は遮るように言ったわ。あれほど領地では傲慢なのに、まるで執事のようだわ。
ロミーには機械の動かし方を教えたわ。
「エへへへ、実演します。この糸巻きは自動で補給されます。え、と、便宜上、交換の場面だけ。実演をします」
だた、機械にセットするくらいだわ。
機械が動いたと思ったら・・・
シュン!
光る何かが飛んで来た。
バン!と音がして、魔道機械は・・・
ドスンドスンと悲鳴をあげ黒煙を出した。
燃えているようだ。
「殿下!避難を!魔道機械が燃えました!」
「魔石が発火しています!」
「これは暗殺か!護衛騎士と戦闘メイドは殿下と公爵令嬢を囲め!」
☆☆☆屋敷から300メートル林中
今日、この記念する日に。一人のメイド服の女が屋敷を見渡せる木の上にいた。
この世界の服を着ているが、容姿は日本人そのものだ。
手にはこの世界にはないはずの自衛隊の7.62ミリ小銃を手にしていた。
つまり、魔道機械を狙撃したのだ。
「・・・・・愚か者は功績を自慢し、賢者は次に生かすか・・・」
独りごちる。
・・・・・・・・・・・
その後大騒ぎになったわ。
後の調査では魔道機械に小さな穴が空き。小さな鉄礫が衝突し魔道反応が起きて燃えてしまったらしい。
これで良い。
私とロミー様の婚約はそれどころではなくなった。
私は独りだわ。
今は出来ないけど、実はあの魔道機械の糸補給の部分の図面は私の頭の中に入っている・・・・
実はお父様とハンスに地面に描いて教えたのは私だわ。
私は機械が好きだった。
「次に生かすわ」
黒瞳族の機械に興味があるけども、これから先は命の危険がある。
私は王都に行くことにしたわ。
出来たら、あの公爵令嬢の工房に雇われたいわね。ダメ元で屋敷の門衛さんに面会を申し出たら。すんなり会ってくれて資金を提供してくれると言う。
「利益は半々よ」
「はい」
工房を一つ任せてもらえたわ。貴族は良い意味でも悪い意味でも恐ろしいわ。
・・・・・・・・
それから、次の月のない夜、1人の伯爵が四の辻の祠に現われた。
「ヒィ、どうか、お助けを、謀叛の疑いをかけられております。黒瞳族様、どうか助けて下さい!黒瞳族様から王家に助命を願い出たら助かるに違いない。そうでなければワシは破滅だ!」
得得と自身の置かれた状況を説明して助けてもらおうとしたが・・
「依頼が漠然としすぎている・・・受けられない」
「そ、そんな、待って、話を聞いてくれ!金貨なら、いや領地も渡す!」
伯爵の悲鳴が響いたと云う。
黒瞳族、異世界から来た説が濃厚だ。畏れられ、侮られもする不思議な種族だ。
最後までお読み頂き有難うございました。




