第5話 月江さんの妹
「あ、電話出ていいよ!」
私の言葉に月江さんは通話ボタンを押し、耳に当てた。
「は、はい。もしもし……」
『お姉様!! 今どこにいらっしゃいますか!?』
音漏れなんてレベルじゃない!
静かな部屋に、少女のキンキンとした怒号が響き渡った!
「えっと、その。お友達の家、なんだけど……」
『お友達? お姉様に学校のお友達なんていません! 嘘つかないでください!』
失礼な妹!
「で、でも、友達……」
『でもじゃありません! 門限を三分過ぎてます! お母様には私が誤魔化しておきますから、一秒でも早く帰ってきてください! GPSで場所は特定しているんですからね!』
ブツッ。ツーツー……。
一方的に通話が切られた。
月江さんは次の瞬間、弾かれたように立ち上がる。
「か、帰ります!」
時計の針は六時過ぎを刺している。
多分、門限は六時ちょうどだったのかな。
ていうかGPSって……。やっぱり、かなり厳しい家っぽそう……。
「なら、家まで送ろうか? 月江さんの親御さんに事情説明できるけど」
家に入れてしまったのは私な訳だし、責任の一端はある。
そう思って提案したのだが、月江さんはぶんぶんと首を横に振った。
「いえ! そこまでして頂くわけにはいきません!」
月江さんはバッグにスマホを突っ込む。
そして脱兎のごとく部屋を飛び出したので、私もその後を追った。
「お邪魔しました! サインありがとうございました!」
「あ、うん! 気を付けてね!」
玄関で靴を履くスピードも尋常じゃない。
そして彼女がドアノブに手をかけた、その時。
私はほとんど反射的に、その背中に声をかけた。
「月江さん!」
驚いたように振り返り、彼女の三つ編みが忙しなく揺れた。
やはり月江さんは、可愛いと思う。それに多分、たくさん友達がいる。
それは分かっている。でもなんとなく、私は妹さんの言葉が引っかかったから──。
「私たち、友達になろう!」
「あ、なります! さよなら!」
「ごめん忙しいのに! また明日!」
バタン!
勢いよくドアが閉まり、どたどたと遠ざかっていく足音が聞こえた。
一瞬の静寂の後、私はほう、と息を吐いてその場に座り込む。
「……嵐が過ぎたみたい」
しばらく呆然としてから、私はふらふらと自室に戻った。
ガチャリ、とドアを開ける。
ついさっきまで月江さんがいた場所。
部屋の匂いは、月江さんの手の感触をすぐに思い出させてくれて、私はなんとなし握られた右手を顔に近付ける。
くん、と鼻を鳴らせばいい匂いがした。
石鹸のような清潔の香りと……日焼け止めの匂いかもしれない。
生活感のあるそんな香りが、私と月江さんの距離を近付けてくれるようだった。
でも、明日からどうなるんだろう。
また今日みたいに、取材をさせてくれるのかな。
私のことだし明日会った時に気まずくならなければいいけど。
でも、それ以上に。
もしこれからも、こういうことがあるとして。
私の心は、耐えてくれるのかな……!




