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クラスメイトの箱入りお嬢様が、私の百合ラノベのネタになるまで!  作者: 沢谷 暖日
第1章 月江梓という女の子

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第3話 女の子を初めて家に上げる描写編(2)

「ど、どうぞ」


 部屋に入った瞬間、月江さんが小さく息を呑むのが分かった。


 そこは、まさにオタクの巣窟だった。

 壁一面の本棚には純文学からライトノベルまであらゆる本がぎっしり。

 机上には資料という名の百合漫画が机を覆うようにして積みあがっている。

 おかしのゴミもあるし、栄養ドリンクのゴミもそのままだ。

 改めて女子高生の部屋とは思えない……!


「やっぱり掃除しとくべきでした!!」


 後悔先に立たず。

 私は慌てて机上の(表紙が過激目な)漫画を裏返し、ゴミをゴミ箱にシュートした!


「すごい……」


 しかし月江さんは汚部屋を見る目ではなく、まるで美術館にきたかのようなキラキラした瞳で部屋を見渡していた。積み上げられた資料の山を愛おしそうに見つめている。

 これがファンのフィルターというやつか!

 とにかく、汚いと思われてなさそうでよかった!


「すごい、汚いですね!」

「思われてた! 掃除してなくてごめん!」

「あ、いえ。そういうつもりで言ったのではなくて。良い意味で言ったんですよ?」

「良い意味ってなんだろ……。と、とりあえず! サインするからどうぞ座って!」

「は、はい! お願いします……!」


 私は床のクッションを勧め、彼女から二冊の本を受け取った。

 ちょこんと座る月江さんは期待の眼差しで私を見つめる。

 マジックペンを引き出しから取り出すと、彼女の前に私も腰を下ろす。


「しつこいようだけど私、初めてだからへたくそだよ? 許してね?」

「下手でもいいです。先生の初めてを頂けて、私とても嬉しいです。ゆっくりでいいですからね」

「言い方! よ、よし。やるぞ……!」


 マジックのキャップを外し、本の見返し部分を開く。

 ペン先を落とそうとするが──ぷるぷる。すんごい手が震えてる!

 自分の名前を書くだけなのに、なんでこんなに緊張してしまうんだ。 

 私は左手で右手を抑えながら、頑張って二冊の本にペンを走らせる。


『月江梓さんへ 佐倉わか』


 面白味は無いけど、これでいい!

 奇を衒わないのが大事!


「あ、ありがとうございます……!」


 もう一冊にも同じように書いて手渡すと、彼女はそれを受け取り、宝石でも扱うかのように胸に抱きしめた。


「宝物にします」

「照れますね……」


 頬を掻きながら私は「あはは」と乾いた笑いを出す。

 ひとまずファンサービス? という役目は終えることができた。


 部屋に少しだけ沈黙が落ちる。

 そこで私は、校舎裏で言われたことを思い出した。

 そうだ。月江さんは、私のラノベのネタになりたいんだよね。

 私が切り出さないと彼女を話にくいだろうし……。


「あのさ」


 私は覚悟を決め、本を大切そうにバッグに仕舞う月江さんに問うた。


「私の小説のネタになってくれるって話、具体的にどうしようかな、と」


 月江さんの耳がピクリと反応し、手が止まった。

 バッグのファスナーをジッと閉じて、居住まいを正す。

 その表情から先ほどまでの浮ついた空気は薄れ、真剣な協力者の顔となる。


「そうですね。来栖さん、いえ佐倉先生はリアルな描写を苦手とされてるんですよね」

「……うん。あらゆることから逃げ続る人生だったため……はい」

「では、具体的にどういったシーンが書けなくて困っているんですか?」


 ストレートな質問。

 この質問の答えによって、方向性を定めていくのだろう。

 見栄を張るところでもないので、恥を承知で正直に答えよう。


「えっと、恋愛描写、全般。です……」

「……なるほど」

「で、でも私も頭では分かってるんだよ。ここで手が触れあって、ここで見つめ合って、ドキドキする……みたいな流れは。でもそれを文章にしようとすると、どうしても上滑りして」


 私は自分の胸に手を当てる。


「『胸が高鳴る』とか『体温が上がる』とか言葉では書ける。でも実際に女の子と触れ合ってどんな風に心が動くのか、肌で感じたことないから、リアリティが出なくて。今の私の書く言葉は全部が記号になってしまってて」


 口に出してて情けない。

 小説家を名乗っておきながら、恋の仕方も知らないなんて。


「…………」


 黙って聞いていた月江さんは、こくりと一つ頷いた。

 そしてゆっくりと顔を上げる。

 夕日が差し込む部屋の中で、彼女の丸眼鏡越しの瞳が、怪しく光ったように見えた。


「分かりました」


 月江さんは私に身体を寄せた。

 揺れる三つ編みから、柔らかな匂いが運ばれる。

 鼻孔をくすぐられ脳の処理が一瞬だけ遅れた。

 月江さんはもう、目と鼻の先にいる。


「それなら私で、試してみませんか?」


 彼女の白い指先が、私の頬に触れた。


「ひゃ──!?」


 思わず情けない声が出た。

 ひやりと冷たいのに、火傷しそうなほどの熱が伝わってくる。


「手始めに、どんなことをして欲しいか。──命令してください。佐倉、先生」

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