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クラスメイトの箱入りお嬢様が、私の百合ラノベのネタになるまで!  作者: 沢谷 暖日
第1章 月江梓という女の子

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3/8

第1話 放課後の帰り道

 若干今更感があるんだけど百合とは女の子同士の関係性を描くジャンルのことを指す言葉だ。(なぜ百合なのかは、薔薇の対義語であるからとかうんたらかんたら……)

 で、定義がもうとにかく広かったりする。

 友人関係を描いたり、恋人関係を描いたり。

 登場人物も吸血鬼だったり幽霊だったり観葉植物だったりする。(なんだそれ)

 ちなみに私が前作で書いたのは恋人関係の物語。でもコメディ色が強めだったしファンタジー世界の話だったので、勢いで押し切ったというか──少なくともリアリティのある話では無かったと思う。

 でも今、私が書いているのは現実世界が舞台のガチ恋人関係を描く物語。

 そんなの書いたことないし、現実での経験も乏しいので盛大にスランプに陥っていた訳なんだけど……。


『私を、あなたの小説のネタにしてくれませんか?』


 校舎裏で、月江さんはそう言った。

 普通ならこんな突拍子も無いこと、すぐに答えなんて出せない。

 色々考えることもあるだろうし、倫理的にいいのかも気になるし……。

 でも、私はほぼ反射的にこう答えたのである。


『は、はい!』


 なんと即答だった。

 だってまず、こんな子と仲良くなれる絶好の機会じゃないか!

 クラスのカースト最上位、高嶺の花のお嬢様と接点を持てるんだぞ!

 作家として以前に、これは一人の陰キャ女子高生として千載一遇のチャンスじゃん!


 ──とまぁ、そんな邪な思考回路を経て現在に至るんだけど……。


「月江さん、ほんとに私の家までくるの?」


 なぜか私は今、月江さんと並んで帰路に就いていた。

 このまま駅に向かい、彼女は家まで来たいらしいけど……いいのかな。


「く、来栖さんとお話したくて。家の前まででいいんです。……だめ、でしょうか?」

「いや全然いいんだけど。電車使うしちょっと遠いと思うよ?」

「いえ。それは構いません」


 月江さんはきっぱり言い切った。

 まぁ月江さんがいいならいいんだけど……。

 と、ここで私は一番気になっていたことを「そういえば」と切り出す。


「深くは触れなかったけど、月江さんを小説のネタにって話、本気なの?」

「来栖さん、憧れの人だから……。なにかためになることしたくて。だから、来栖さんの創作の役に立てるなら私、なんでもします。あなたの小説に、私救われた、から」


 月江さんは食い気味に言う。

 彼女がいいなら私も願ったり叶ったりだけど……。

 ていうか、なんでもしていいのか?

 例えば、小説のネタってことなら、なんだろう。

 一緒にお昼ご飯食べたりとか。

 一緒に帰ったり──は今してるし。

 いやそれくらい想像で書くことはできるし……。

 え私、なんの描写が苦手だっけ!?

 一番は恋愛描写! これは間違いない!

 だから例えば、一緒にお出かけしてもらったり、とか。

 手とか繋いだり、なんか恋人らしいことをしてもらったり。

 あとは……キス?

 いやそれはさすがに私が嫌かも!

 こんな陰キャにそこまで付き合わせたくはない!

 そもそも一緒にお出かけとかも申し訳ないくらいだ!

 と、ともかく! 今はもっと月江さんのことを知っていかないと……!


「…………」


 とはいえ会話は苦手のため、沈黙が落ちる。

 と、ここで。私はある日課を思い出した。

 日課とは、現役女子高生ライトノベル作家、佐倉わかの日課である。

 私はさりげなく歩く速度を落とし、スマホのカメラアプリを起動した。

 自分のローファーと灰色の靴下を少し映り込ませ、都合よくそこにある私たち二人分の影を大きく映してアスファルトの地面をパシャリ。

 そしてツイッターの作家アカウントを開いた。


『はぁ~、今日も学校つかれた~。いまからギャルの友達とスタバ行ってきまーす。そのあとプリ撮って、カラオケいって、あーもう締め切り近いのに!』


 ぽちぽちぽち。写真も添えて──よし、投稿。


「……………………」


 さ、月江さんと駅に行こうか。(すっとぼけ)


 …………。


 ちゃんと分かってる!

 私は嘘つき! 私は悪い子!

 遊びに行くギャルの友達なんていないし、スタバにも行ったことなんてない!

 カラオケなんて家族と行ったきりだし……!

 しかし! 担当編集の伊織さんに言わせれば『現役の女子高生が百合作家をしているとなると、そのブランドを活かさない手はない』とのことで、だからこれは義務的な投稿というか、マーケティングの一環なのだ。実際、売り上げは上がった。らしい!

 ほとんど無心でやってるし、断じてチヤホヤされたいみたいな下心ってのは──!


 ──ぴろん♪


 お。早速返信がきた。


『佐倉先生、今日も女子高生ですね!』

『シルエット可愛い~! 足小さくて羨ましいな~!』

『きらきらしてるな~。新作も楽しみです!』


 ふへへ。

 私、女子高生なんだよね。

 きらきらしてるし、足も小さくて可愛いんだよね。

 よし、返信しなきゃ。


『え~、嬉しいです~! ありがとうございますーっ!』


 はぁ、気持ちい。

 褒められるの気持ちい。

 私が輝けるのはネットだけだよ……!

 お。また返信が来たぞ。どれどれ。


『いつもやけに反応早いけど、ほんとに遊び行ってるんですか?』


 ……たまに勘のいい人間はいる。

 さて。ボロが出ないよう返信はここまでにしようか。

 ふぅ。と息を吐いて、顔を上げる、と。


「あ、月江さん?」


 月江さんがじっと私を見ていた。

 丸眼鏡の奥の瞳が、何か言いたげに細められている。


「……にやにやしてますね」

「ご、ごめん。ちょっとスマホみてて」


 まずい。完全に油断していた。

 スマホを見ながら私みたいな陰キャがニヤつくなんて適材適所(?)かもしれないけど最悪の絵面!

 ていうかその前に、月江さんって私のファンなんだよね?

 なら私のアカウント知ってるかも……?

 だとしたらウソ投稿に気付かれてしまう!?


「あのさ……月江さん、私の作家アカウント見てる?」


 私は恐る恐る問うてみた。


「いえ見てないですよ。SNSは親から禁止されているので。一応、LINE等の主要なアプリは入れてます」


 月江さんは平然と答えた。


「え、禁止?」

「はい。有害な情報が多いから、と」


 そうなんだ。

 高校生でSNS禁止。

 噂で聞いていた通りの箱入りっぷりだ。

 でもおかげで私のウソ投稿はバレずに済んだらしい。

 私は心の中でホッと胸を撫で下ろした。


 そんな話をしている間に駅に着き、電車がホームに滑り込んでくる。

 私の最寄り駅までは、ここから数駅。


 ──プシュー。


 ドアが開く。

 私たちは並んで電車に乗り込んだ。

 いつもの帰り道。

 でも今日は隣に、私のラノベのネタになりたいお嬢様がいる。

 これからの学生生活、一体どうなってしまうのだろうか……!

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