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クラスメイトの箱入りお嬢様が、私の百合ラノベのネタになるまで!  作者: 沢谷 暖日
第1章 月江梓という女の子

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閑話 月江梓の独り言

【梓視点】


「……た、ただいま」


 自宅の玄関扉を開けると、奥からパタパタと足音が近付いてきた。

 私より少し背が低く、肩口で綺麗に切り揃えられた黒髪を揺らす女の子――妹の雫だ。


「おかえりなさい、お姉様。……ちょうど六時ですね」

「う、うん。少し長引いて……」

「生態調査でしたか。……いかがでしたか?」


 探るような雫の視線に、私はぴんと背筋を伸ばす。

 今日の楽しかった思い出には目を瞑って、私は声を張り上げた。


「え、っと! うん! 興味深い生態がたくさん見られて、知的好奇心がすごく刺激されたよ!」


 ……嘘ではない。

 実際、たくさんの魚が見れて勉強になったのは事実……。


「なら、よかったです」


 雫はそれ以上追及することなく自室に戻っていった。

 私はふぅと息を吐く。危なかった。

 今日楽しんできたのがバレてたら、絶対に怒られてたもんね……。


 ◆◆◆


 部屋に入りドアを閉めた瞬間。

 私はその場にへたり込むように、ベッドに背中を預けて座り込んだ。


「…………はぁ」


 張り詰めていた緊張の糸が切れて、今日一日の記憶が洪水のように押し寄せてくる。

 来栖さんの待ち合わせで見せてくれた笑顔。暗がりで触れ合った肩。

 そして、繋いだ手の、温かくて頼りがいのある感触。


「あ、そうだ」


 私はカバンから、大切に包んでいた小さな紙袋を取り出した。

 中から出てきたのは、ピンク色のクラゲのキーホルダー。

 来栖さんが持っている青色と、お揃いのもの……。


「えへへ……」


 自然と口角が上がる。

 それを指先でつまんで、天井の照明にかざしてみた。

 きらきらと光るクラゲは、まるで今日の思い出を閉じ込めた宝石みたいで。

 それを見ていると、大切な記憶が一つ一つ鮮明に浮かび上がった。


『梓。……梓、さん』


 私のこと、初めて名前で呼んでくれた。

 その不器用で優しい響きが、耳にこびりついて離れない。


「……取材だって、分かっていたはずなのに」


 ぽつりと、自分を戒めるように呟く。

 だってあれは、来栖さんの言葉ではなかった。

 分かっている。来栖さんが生み出したキャラの言葉だということ。

 来栖さんは作家として、シチュエーションの確認をしたかっただけ。

 頭では、痛いほどに理解している。


『梓さん……好き、だよ』


 けれど。

 震える声も、真っ直ぐな瞳も、重ねられた手の熱も。

 全てがあまりにも真に迫っていて、一瞬。ほんとに一瞬だけ。

 私に向けられた、本当の告白だと、そう錯覚してしまって……。


『……ごめんなさい』


 だから思わず──断ってしまった。


「これでよかった……よね」


 だって私は、彼女の隣に立てるような優しい人間では無いから。


「…………」


 でも。それでも。

 もっと近くにいられたらと。そう思った。

 それで正しいのかは、まだ分かっていない。

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