第19話 恐らく普通にフラれてる
「私はなにをやっているんだああああ!!!!!!!!」
デート解散後。私は帰宅し早々、ベッドに飛び込み枕に叫んでいた。
じたばたと足を暴れさせて、シーツをぐしゃぐしゃにする。
脳裏にフラッシュバックするのは、あの夕暮れ時のベンチ。
そこで私が吐いた、とんでもないセリフの数々──。
『梓さん……好き、だよ』
は? だが。
何言ってんのこいつ! なんだが!
取材という体が伝わってたとはいえ、かなりキモいことしてたよね!?
いや確かに私、今日だけで月江さんのことかなり好きになったけど! だからと言ってあそこであんな風にガチ告白感を出す必要は無かった! 絶対月江さんを困らせてた! 下の名前で呼んでしまってほんとごめんなさい! 一生月江さんって呼びますから!
もうパニック過ぎて、私の生存本能みたいなのが、あの時の記憶を消しにかかっているんだけど、帰りのバスの空気やばくなかったかな!
よ……よし、いったん落ち着け。
深呼吸して、帰りのバスの記憶を少し思い返してみよう……。
◆◆◆
バスの最後部座席。
二人揺られながら、私は努めて明るく振舞っていた。(つもりだ)
「あはは、なんか本当にフラれたみたい。役に入り込み過ぎたかな」
「ご、ごめんなさい! 確かに取材なのですから、あそこは告白を受け入れるべきだったかもですね! 私が変にアドリブを入れてしまって……!」
「いや全然いいの! リアリティあってよかったよ!」
「そ、そうですか。なら、よかったです……!」
「うん! いや~取材とはいえ、かなり緊張したなぁ。取材とはいえ、告白をするのなんて初めてだったし。取材とはいえ、好きって言ったんだし。取材とはいえ!」
「は、はい、そうですね」(かなり苦笑)
◆◆◆
「……………………」
ちょっとまって。
これ、フラれたくせに効いてないアピールしてスカすやつみたいになってる!?
いや多分気にしすぎ、だよね。そうだよね。うん、そうだ。そうに決まってる。
月江さんは純粋だから、私のキモさに気付いてない、はず。
きっと事なきを得た……はず、だよね。
「う、うーーーー……」
それでも恥ずかしいのは消えないので、枕をボムボムと殴っている、と。
──ドンドンドン!
と部屋のドアが乱暴に叩かれた。
「お姉ちゃんうるさーい! さっきから下まで響いてる!」
美波の声だ。
少し怒ったような声で、私の返事も待たずそのままドアを開いてくる。
「あーあー、メイクも落とさないでベッドに転がって」
「う、うるさいな……。風呂入るときに落とすし」
私はベッドから起き上がって、睨みつけるように美波を見る。
「いやいや枕にファンデ移っちゃってるから」
「洗うの私だからいいでしょ! あと、許可なく部屋に入らないで!」
「なに、失恋でもした?」
「なんでそうなる!?」
死角からの攻撃!?
私今、失恋したヤツみたいに見えてるの!?
いや状況的にアレはかなり失恋っぽかったけどさぁ!
「いやだって今日デートだったんでしょ?」
「で、デートじゃないし……。恋すらしてないから!」
「ふーん。にしては気合入ってそうだったけどなぁ」
「うっ……ち、違うし……」
意地悪に微笑みやがって……なんだこいつぅ。
「ま、そんな急がなくても、いずれいい人が見つかるから、ね?」
「失恋前提で話を進められてる……!?」
「大丈夫。不登校の頃に比べてお姉ちゃんは凄い成長したから。自信もって!」
「話聞けよこいつ!」
美波は「元気出しなよー」とひらひらと手を振って足早に部屋を出ていった。
からかってるだけだと思うけど、話を聞かないやつだ……。
私も人のことは言えないけど……。
「はぁ……」
まぁお風呂は入んなきゃな……。
──ピロン。
と、思うと同時、机上のスマホが音を立てた。
なんとなくそこを覗き込んでみると──。
「あ……」
月江さんからLINEが届いていた。
私は反射的にメッセージを開く。
『今日はありがとうございました。とても楽しかったです。雫にも変に勘繰られなかったので安心しました。それではまた明日、学校で会いましょう。』
いつも月江さんはこんな感じの落ち着き調子の文を送ってくる。
別にいつもだったら何も思わないんだろうけど、あんなキモイことをした後なのでその淡白な返事には今は胸がザワつく……。で、でも、キモイと思っている相手にわざわざLINEを送ってくるとも思えないし……。ザワ、ザワ。わざ、わざ……。
「どうしよ……」
キモくなかったか聞こうかな……。
それもキモくないか? キモいかも。
まぁ。大体こういう悩みって杞憂に終わるし……。
明日の学校の朝一番に、月江さんに話しかけてみようかな。
多分月江さんは明日も変わらない態度で私に接してくれるはず……!
ここは無難な返信をすることにしよう……!
『こちらこそありがとう! 楽しかったよ! また明日学校でね!』
送信ボタンを押して、ふぅと息を吐く。
画面を見つめていると、やはり頭に浮かぶのは月江さんのこと。
思考は引きずられるようにそのままバス内まで連れられて、そこで私は一つ、引っかかりを覚えた。引っかかりとは、月江さんの発言についてである。
確か月江さんは帰りのバスでこう言っていた。
『確かに取材なのですから、あそこは告白を受け入れるべきだったかもですね!』
これって……。
あの夕暮れのベンチでは、月江さんは取材であることは意識していなかった?
つまり月江さんの「ごめんなさい」はアドリブでも演技でもなく、月江梓という人間の、とっさに出た本音のリアクションだったということで──。
「…………ん? これ……」
私、普通にフラられてない?




