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クラスメイトの箱入りお嬢様が、私の百合ラノベのネタになるまで!  作者: 沢谷 暖日
第1章 月江梓という女の子

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第16話 正しい水族館デートの作り方(3)

 トンネルを抜けると、そこは一気に南国ムードなエリアだった!

 さっきまでの静かな雰囲気とは打って変わって、鮮やかなサンゴ礁の周りをこれまた派手な熱帯魚たちがひらひらと舞っていて、どこを見ても視界が楽しい。

 でも私の意識の九割は、繋がれる手に持っていかれてるわけで……!


「…………」


 ……やわらかい。

 もし雲が掴めたなら、こんな感触なのかな。

 ひんやりとしているのにどこか温かくて、手のひらが吸い付くようだった。

 なんだかもっとこの感触を確かめたくて、私は繋いだ手に力を込め、指の腹で月江さんの手の甲を撫でてみる。すり、すり。すり、すり。

 わ……やっぱり、すごい気持ちい感触……。


「く、来栖さん……?」


 感触を楽しんでいると、月江さんのじとっとした視線を感じた。


「あ、ごめん! 月江さんの手、すべすべで気持ちよくて!」


 私はにこりと微笑んで答えるが、撫でる手は止められない。

 だって月江さんの手、スクイーズみたいだもん!

 もう少し触っておこう……!


「その……んっ。ちょっとくすぐったい、です」

「ここが?」

「っ、そうですけど……!」

「じゃあもっと触る!」

「なんでですか!?」


 月江さんの頬が膨れた。

 珍しいむくれ顔だ。かなり可愛い……。

 と思った次の瞬間、眼鏡の奥の瞳がきらりと何かが宿る。


「……じゃあその代わり」


 月江さんは不敵に微笑んで、繋いでいた手をするりと解いた。

 え、離しちゃうの? そう口に出そうとした直後。

 手持無沙汰に浮かぶ私の手に、とん、と。彼女の細い指先が触れた。

 私の手のひらを這うようにゆっくりと滑り降りてきて、まるでピアノの鍵盤を叩くような繊細さで、一本一本、指の股をなぞっていく。


「ひゃ……!?」


 予想外の刺激……!

 思わず漏れた変な声を誤魔化すように「なに!?」と声を被せた。


「やられっぱなしという訳にはいけませんから!」

「ね、ねぇくすぐったい! やっぱり月江さんってなんか手慣れてる……!」

「手慣れてません! 先にしてきたのは来栖さんの方なんですからね!」

「ご、ごめん謝る! 謝るから! ちょっとストップ!」

「あ、シマシマのお魚さんですよ。可愛いですね」

「無視!」


 人が多いので暴れる訳にもいかない!

 すりすり、と一定のリズムで撫でられる!

 早すぎず、遅すぎない絶妙なバランスで!


「うぅ……すみませんでした……あの……」


 触られながらも絞り出した謝罪の言葉に、月江さんの手がぴたと止まる。


「またくすぐってきたらこうしますからね?」


 月江さんは、小悪魔っぽい笑みを浮かべる。


「は、はい。気を付けます」


 月江さんって意外とSなのかもしれない……。

 ……以後、気を付けよう。


 ◆◆◆


 時計がちょうどお昼を回る頃に、水族館のレストランを訪れた。

 そこは海の見えるとっても素敵なレストランで、月江さんはトマトパスタを、私はシーフードのカレーライスを注文した。決して魚を見たことにより魚の口になった訳ではない。(ていうかそもそも水族館でシーフードっていいのかな感が若干ある)


「美味しかったね、お昼」

「はい! とっても!」


 ランチタイムを終え、空になったお皿を前に、ゆったりとした時間を過ごす。

 食後に注文したアイスコーヒーを啜りながら、窓の外の柔らかい光を浴びた。


「…………」


 眼前では同じように黄昏れていた月江さんが、ほうと息を吐いている、

 その無防備な顔があまりにも自然で、私はつい、問いかけてしまった。


「月江さん、楽しい?」

「……ん、あ、はいとても!」


 満面の笑みで即答した直後、「あ」と月江さんはハッとしたように伏し目がちになる。


「す、すみません! 今回は先生の取材が目的の一つでしたよね? なのに私、そんなの考えずにはしゃいでしまって……もっと役作りをするべきでした……」

「え、いや! 取材もあるけど、月江さんのこともっと知りたいっていうのが始まりだったし。それに月江さんが楽しいなら私も嬉しい!」


 私は「それに」と人差し指をピンと立てる。


「役作りなら完璧だよ。だって『好きな人と水族館に来て、無邪気にはしゃぐヒロイン』の参考資料として今の月江さんは百点満点だから!」

「あの、それからかってますよね……?」

「……少しだけデスヨ」

「もう……」


 月江さんは顔を赤くして、ストローに口をつけた。

 カラン、と氷が涼やかな音を立てる。

 私は頬杖をついて、そんな彼女をじっと見つめた。


「…………」


 今日の月江さんはすごいヒロイン感がある。

 私とのデートのためにオシャレをしてくれて、一日ずっと素敵な笑顔を浮かべて、手を繋いでくれたりして、月江さんが恋人だったらこういう感じなのかもしれない。

 でも、実際。月江さんは、私のことを、来栖若菜を好きではない。

 ただ。作家の佐倉わかが好きだから、今こうして一緒にいれているわけで──ってダメダメ! 現実に意識を戻そうとすると一気に虚しくなりそう! 今はそういうナシ!

 せっかくのデートなんだから夢を見よう! 可乃子ちゃんもそう言ってる!


 ──ずずずずず。


 一瞬、変な方向を飛びそうになった思考を、苦いコーヒーで誤魔化した。

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