第13話 デート当日!
日曜日。デート当日。
「ねぇ、お姉ちゃん! まだなの!?」
ドンドンと引き戸を叩く音と共に、妹の美波の不機嫌な声が響く。
「もう三十分も占領してるよ! 私にも顔洗わせて! 部活あるんだけど!」
「あともうちょっと! 前髪のセットが決まらないから!」
「お姉ちゃんの前髪なんて誰も見ないよ! 早くしてー!」
美波の文句を聞き流し、私は鏡の中の自分と睨めっこを続けていた。
手には普段滅多に使わないヘアアイロン。
ネットで『失敗しない前髪の作り方』を何度も見て勉強したのだ。
月江さんの隣に並ぶ私が寝ぐせボサボサではあまりに不釣り合いだからね!
「よし、こんなもんかな」
毛先を少しだけ内巻きにして、アホ毛をワックスで抑え込む。
最後に美波の持ってるちょっとお高いヘアオイルでつやを出せば完璧だ。
「お待たせー」
私がドアを開けると、そこにはジャージ姿の美波が仁王立ちしていた。
「遅い! 遅刻するかと思った!」
「いや、割り込んで入ってもよかったよ?」
「いやだって、なんか殺気立ってたし、入りにくかったから」
「そ、そう?」
「ったくもう……ん?」
私を押しのけて洗面台に向かおうとした美波が、ぴたと足を止めた。
そしてすぐにジロリ、と私の全身を舐めまわすように見てくる。
「なにその恰好? なんか気合入り過ぎじゃない?」
今日の私の服装は、奮発して買ったベージュのロングスカートに白いニット。
普段の干物スタイルとは雲泥の差だ。まだちょっぴり新品の服の匂いも残っている。
「そ、そうかな? 変?」
「変じゃないけどさ。いやまぁお姉ちゃんにしては変だけど……」
美波は歯ブラシをくわえながら、疑うような目を向けてくる。
「誰と会うの?」
「と、友達。だよ?」
「ふーん。そっかぁ」
美波はにやにやと口端を歪め、私の肩をツンと突いた。
「なんか香水もつけてるし、何十分も鏡と睨めっこだし。どう見てもただの友達と遊ぶテンションじゃないよね」
「な、なに」
「やっぱり絶対、彼氏じゃん。うわぁ高校デビュー」
「えっ────」
とんでもない誤解に私は思わずむせた。
「違うって! 女の子! クラスメイト! 前もいったけど、彼氏なんていません!」
「はいはい、そういうことにしとくね。お母さんたちには黙っとくから感謝しなよねー」
「ねぇ! だから違うってば!」
美波はひゅーひゅーと冷やかしを残して、洗面所の鏡前を陣取った。
「もう……」
私は熱くなった頬を両手で包む。
彼氏、って。私が彼氏を作るってほんとに思ってるのか。
相手は女の子。あくまで取材だし、全然恋人とかでもない。
……そのはずなのに。
はたから見たら、そう見えるくらい気合入ってるってこと、だよね。
家族だからすぐに気付くのかな。
それとも誰が見ても、気合が入ってる?
だとしたらいったんメイクを落として最初からやり直したい……。
けどそんなことをしている時間も無いので、出発の準備を整える。
廊下の姿見に移る自分を見れば、確かにデートに向かう女の子の顔をした私がいた。
「……よし」
私は両頬を軽く叩いて気合を入れる。
まぁ誤解されるくらいでちょうどいいよね。
だって今日はデートの取材なんだから。
私が恋する乙女になりきることに意味がある……!
「いってきます」
「はいはい、いってらー」
洗面所からの生返事を聞きながら、私はお気に入りのショルダーバッグを提げ、弾むような足取りで玄関を飛び出した。頭上には雲一つない快晴。
よし、がんばる。ぞ!




