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クラスメイトの箱入りお嬢様が、私の百合ラノベのネタになるまで!  作者: 沢谷 暖日
第1章 月江梓という女の子

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第10話 ネタにした本人に小説を読んでもらおう

 お弁当を食べ終え、食後のお茶タイム中……。

 水筒のお茶をすすりながら、意識はどうしても先ほど触れた指先の感触に向かう。


 ……なんか、これから月江さんと関わっていくとして、恥ずかしいことがすごく増えてしまいそう。


 そんな予感に、ちょっとだけ胸の奥が熱くなる。

 けれど吹き抜ける午後の風が、わずかに身体を冷やして段々と冷静になれてきた。

 隣に座って空を仰いでいる月江さん。彼女を横目に映しながら、私はスカートのポケットに収まったスマホの重みを意識した。

 その中には、今朝パソコンから移してきたばかりの小説のデータが入っていた。

 昨日の夜、熱に浮かされるままに書き上げた新しいプロローグが。


「…………」


 読んで、欲しいな。

 不意に湧き上がった想いは、一度意識するともう止まれない。

 まだ書き上げたばかりの推敲もすんでいない粗削りの文章だけど。

 誰かの感想は良いものでも悪いものでも原動力になる。

 だから私は呼吸に乗せるように、月江さんを呼ぶ。


「あのさ、月江さん」

「はい?」

「昨日の夜さ、新作のプロローグを書き直したんだけど、よかったら読んでみて?」


 私がもじもじと控えめに聞いてみると、月江さんは一瞬で表情を明るくした。


「いいんですかっ!」

「む、むしろ!」


 食い気味な反応に、私は強く頷いて答える。

 けれど彼女はすぐに居住まいを正した。

 こほんと咳払いしてから、まるで聖典でも受け取るかのように私のスマホを取る。


「拝読させて頂きます」


 静寂が落ちる。

 月江さんの視線は画面を滑っていた。

 中庭に吹く風が木の葉を揺らす音だけが聞こえる。


 うぅ、緊張する。

 目の前で自分の書いた小説を読まれることがこんなに緊張するなんて。

 クラスメイトだからかな。それともやっぱり、月江さんをネタにした小説だからかな。

 もし『解釈違いです。こんなの私じゃありません!』って言われたらどうしよう。

 私はまだまだ月江さんのことを知らない。だからほとんど想像で書いている。

 主人公と少しいちゃいちゃさせてる描写もあるし、なんか急に罪悪感が!

 で、でも私のファンなんだから、喜んでくれるよね。(慢心)


 私は緊張しながら月江さんの感想を待つ。

 数分後。月江さんがゆっくりと顔を上げた。


「……すごい」


 ぽつりと、吐息のような声が漏れた。

 その瞳はきらきらと潤み、頬はほんのり赤い。


「すごいです、来栖さん! これを昨日の夜だけで書かれたんですか?」

「う、うん。月江さんに会ってから頭の中がクリアになって、一気に」

「文章から温度を感じます! それにこのヒロインの女の子……」


 月江さんは画面を愛おしそうに指でなぞった。


「なんだか私みたいです。お屋敷にいるときの、誰にも見せていない私の言葉遣いとか、考え方とか……あと少し変なこだわりがあるところとか。全部見透かされているみたい」


 彼女はスマホを抱きしめるように胸に寄せる。


「私のこと、書いてくれたんですよね」

「うん。月江さんを見てたら、自然と浮かんできて。……嫌じゃなかった?」

「とんでもありません! すごく嬉しいです! ほんとに!」


 月江さんは嬉しそうにはにかんだ。

 よかった。ちゃんと刺さってくれたみたいだ。

 でも、私はまだ納得はいっていない。

 それに今の月江さんを見て、明らかになったことがあった。


「でもね。私、思ったの」

「……?」


 私はまっすぐに彼女の目を見た。


「正直、私、月江さんのことまだ全然知らない。だから……もっと知りたい」


 このプロローグは昨日のほんの一瞬の煌めきを切り取ったに過ぎない。

 表面的なお嬢様としての彼女じゃなくて、もっと深いところにある月江梓という人間について、私は知りたい。そう言外に伝えると、月江さんはハッと息を呑んだ。

 それからじっと、熱っぽい瞳で見つめ返してくる。


「だから……月江さん。よければ今度のお休みの日、おでかけしない?」

「おでかけ……ですか?」

「うん。学校じゃなくて、私服で。取材、有り体にいえば……デート、したい」


 私は「だめかな」と首を傾げる。

 振り絞った勇気は最後まで持たず、蚊の鳴くような声になってしまった。

 でも月江さんには私の声は届いたみたいで、顔がぱあっと輝く。


「はい! ぜひ! ……あ、でも」


 一瞬、彼女の表情が曇る。

 多分、GPS監視のことが頭をよぎったのだろう。


「嘘をついて外出するのはリスクが高いです。でも正当な理由があれば……」

「あ、それなら考えてあるよ!」


 私は自身満々に提案する。

 さっき思いついたやつだけど結構自信あり!


「水族館! 水族館はどうかな?」

「水族館、ですか?」

「うん。『生物学の校外学習レポートが出たので、現地調査に行く必要がある』ってことにすればGPSで長時間滞在してても怪しまれないんじゃない?」


 それに水族館は百合小説の定番! と勝手に思っている!

 だからいい取材にもなると思うんだけど、どうだろう……?


「たしかに……! いい提案です!」

「よかった。大丈夫そう?」

「はい! では日程ですが──」


 と。ここで月江さんの言葉を遮るように、予鈴のチャイムが鳴る。

 やばい話し合うのに夢中で、昼休みが終わるのに気付けなかった。


「と、とりあえず日程は後で!」

「は、はい!」


 私たちは出しっぱなしの弁当箱を片付ける。

 その時ふと手が触れあって、私たちは顔を見合わせてくすくすと笑い合った。

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