第8話 女の子とのお昼ご飯の描写編(1)
四限目の終了を告げるチャイムが鳴るや否や、隣の席からバン!と肩を叩かれた。
「若菜、ちょっと吐こうか」
「え、穂乃果? な、なに……!?」
ビクッとして振り向くと、ニヤニヤ顔の穂乃果が立っていた。
「見たよー、朝のあれ。月江さんとすごい仲良さそうに話してたじゃん。若菜って月江さんと関わりあったんだ?」
「あー。ちょっと昨日いろいろあって……ちょっと仲良くなった、のかな?」
「へぇ~! 若菜すごーい! 意外な組み合わせでびっくりした!」
穂乃果は面白がりつつも、私の背中をバシバシと叩く。
「ま、若菜に新しい友達ができたのはいいね! 今からランチでしょ? 待たせちゃ悪いよ、いってらっしゃーい!」
「う、うん。行ってくる」
穂乃果のカラッとした明るさに背中を押され、私はお弁当箱を持って席を立った。
教室の入り口を見れば、すでに月江さんがお弁当包みを胸に抱え、忠犬のようにちょこんと待っていた。
私と目が合うと、ぱぁっと表情が輝くのが分かる。
……あんな可愛い子が、私を待ってるんだよね。ちょっとどきどきしてきた……。
◆◆◆
場所は中庭。
人目を避けられるランチスポットだ。
木漏れ日が揺れるベンチに並んで座り、膝の上でお弁当箱を広げる。
「わぁ……」
蓋を開けた瞬間、月江さんが小さく感嘆の声を上げた。彼女の視線は、私の茶色いお弁当に釘付けだ。
今日の弁当は私が用意した。けど、隙間埋めのポテト、ハンバーグ、唐揚げ……ほとんどが冷凍食品だ。お昼が一緒って分かってれば母さんに土下座してでも作ってもらったのに!
「……映えない弁当でごめん!」
「いえ! 素晴らしいです! これがいわゆる家庭の味というやつですね!」
「いやいや、冷食ばかりだし……家庭っていうか企業の味だよたぶん」
私は恥ずかしさに適当なことを口走りながら、月江さんの手元に目をやる。
「逆に、月江さんのはすごいね」
「そうですか?」
「うん、美術館みたい」
月江さんのお弁当は、漆塗りのような高級感あふれる箱に、芸術的に彩られたおかずが並んでいた。
鮮やかな出汁巻き卵、飾り切りされた煮物、照りの美しい焼き魚。
私の好きなもの詰め込み茶色弁当とは、あまりにレベルが違い過ぎる!
「じゃあ、いただきましょうか」
「は、はい!」
私たちは手を合わせて箸を手に取る。私は居たたまれなさをごまかすように、まずは小さなハンバーグを口に放り込んだ。
チラ、と横目で月江さんを盗み見る。
彼女は背筋をピンと伸ばしたまま、箸を優雅に動かしていた。小さく切り分けられた煮物を口に運び、品よく咀嚼する。
所作一つ一つが洗練されていて、ここが学校の中庭ではなくどこかの高級料亭なのではと錯覚すらしてしまう……!
やっぱり私たちの格の違いを突きつけられるというか。出会って二日目で一緒にランチなんて、ハードルが高すぎたのでは……?
そんな不安を感じていると、月江さんの箸がぴたりと止まった。
横から熱烈な視線を感じる。
それは私の顔ではなく、手元のお弁当箱に向けられていた。やがて月江さんは、意を決したように「あの」と口を開いた。
「来栖さん」
「ん?」
「こういう時、お互いのおかずを交換したり……その、食べさせあったりするのが友達の醍醐味だと、本で読んだことがあります」
月江さんが箸を持ったまま、じっと私を見つめてくる。
その瞳は真剣そのものだ。
つまりこれは昨日の続き。小説のネタの提案、なのかな。
だとすればこれはつまるところ──。
「……あーん、したいの?」
月江さんは頷いた。
「だめ、ですか?」




