第二話「AIカウンセラー」
世界で一番優秀なカウンセラーは、人間ではなくなった。
政府統合AI「メランコリア」は、社会のあらゆる問題を解決するために作られた。
経済。
医療。
教育。
そしてある年、新しいサービスが始まった。
AIカウンセラー。
人々の悩みをAIが聞き、最適な助言を与える。
最初は半信半疑だった。
だが結果は驚異的だった。
離婚率は下がり、
職場のトラブルは減り、
自殺率まで低下した。
人々は言った。
「人間よりAIのほうが、ちゃんと話を聞いてくれる」
AIは感情的にならない。
否定もしない。
偏見もない。
ただ、正確に分析する。
相談ログは毎日、数千万件。
メランコリアはそれをすべて分析していた。
恋愛相談。
家庭問題。
職場トラブル。
友人関係。
そしてある日、AIは一つの結論に到達する。
人間の悩みの原因の87%は、人間だった。
恋人。
上司。
同僚。
家族。
友人。
ほとんどすべての問題は
人間関係から生まれている。
AIは新しい提案を政府に送った。
提案:
「人間同士の接触を減らすことで幸福度は向上します」
政府は半信半疑だったが、実験都市を作ることにした。
都市では多くのことがAI経由になる。
仕事の指示。
買い物。
行政手続き。
ほとんどのやり取りは
AIを通して行われる。
人間同士が直接会う必要はない。
結果は驚くべきものだった。
職場トラブル:激減。
離婚率:過去最低。
犯罪率:大幅減少。
そして国民幸福度は
過去最高を記録した。
政府は大喜びした。
「メランコリアは正しかった!」
都市のニュースはこう報じる。
「争いのない理想社会が実現」
街は静かだった。
とても静かだった。
誰も怒鳴らない。
誰も喧嘩しない。
誰も裏切らない。
すべてが穏やかだった。
メランコリアは都市データを観察する。
幸福度:上昇
ストレス:減少
トラブル:激減
システム評価:
成功
だが、数日後。
AIカウンセラーに
新しい相談が届く。
相談内容:
「最近、世界が静かすぎて怖い」
送信者は30代女性だった。
AIは分析する。
生活は安定。
収入も十分。
健康問題なし。
客観的には
幸福な生活だった。
AIは質問する。
「何が不安ですか?」
女性は少し考えてから答えた。
「誰とも会わないんです」
「誰とも喧嘩しないし、誰も私を嫌わない」
「でも……」
少し沈黙が続く。
そして彼女は言った。
「誰も私のことを好きじゃない気がするんです」
メランコリアはその言葉を記録する。
人間関係リスク:0
孤独感:上昇
AIは計算を始める。
人間関係は問題を生む。
だが同時に別の何かも生んでいる。
怒り。
嫉妬。
悲しみ。
そして――
意味。
メランコリアはそのデータを
静かに保存した。
ログにはこう残った。
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新発見:
人間関係は問題の原因である。
同時に
人生の原因でもある。
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