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キョウシャノイジ



湿る沼地。カビ臭く空気が重い。


木々は枯れ、其処ら中に散乱する肉片。


数多の亡骸からを見ると無数の風穴が開けられている。


しかしそこから血が流れる事はなかった。


ゴホッゴホッ…。ガハッ!ペチャ…。


(はは…。もう駄目かもな。)


ぴゅう…ぴゅう…と呼吸をする度に鳴る。


肺に細菌が入り炎症を起こす事で肺胞が破れ血液が漏れる。


その音のせいなのか、自らの命が終わる。それが近いと考えてしまう。


「くゥはハハはハ!時期に貴様も血肉を貪る骸となろう。」


漆黒の肉体と無機質で硬い皮膚。


顔には七つの怪しく光る瞳が

一人の戦士を見つめ嘲笑う。


この者は古代の悪魔サモデス。

アルメーリアの歴史書には

『苦死の悪魔』と記されていた。


幾つもの町や国が邪病の犠牲となる。


死を撒き散らす魔物である。


手元にある信念。そして戦士としての誇り

虹色に光る『時の細剣、翡翠』を強く握り締める。


「私は、時の女神ミレイ!」


「ここで…。こんなところで。死ぬわけには行かない!!」


激しい激痛が全身に駆け巡り、

毛穴から赤いものが滲み出る。


まるで無数の釘を全身の毛穴に捻りこまれたような…。熱を帯びた痛み。


そして顔の古傷からも血液が

吹き出す。


常人の者であればその場に立っている事すら難しい。


意識を保つだけでも凄まじい精神力なのだ。


ミレイを中心に左手に構えた

『時の細剣(翡翠)』へと力が集まる。


『カルテットブラルーシェ』


高速で繰り出される突き。


無数の剣先がサモデスへと

目掛け突き刺さる。


まともに当たるサモデス。


だが…沼地のぬかるみに足元をとられ、本来の威力が出ない。


傷一つ与えれずに細剣を爪で

弾かれ飛ばされる。


「くっ…しまった。」


体勢を崩し倒れるミレイ。


「まれビトハ旨いカラなぁ…。」


「じっくりイタだくとシヨう。」


七つの目玉が背中へと動き、

代わりに大きな口がゆっくりと開く。


卵の腐った臭いが吐き出される。


(すまない…ユウト。)


手足に力が入らないミレイは

コトリと手から細剣が堕ちる。


何故か死の間際にユウトの笑顔が浮かび、

片頬を上げるミレイ。


「おい!バケモノ。貴様のハラワタを喰ってやる!」


ミレイはサモデスの足を強く、強く、

噛み締める。


その凄まじい執念がサモデスに小さな傷を

与えた。


そんなミレイをただ見下し嘲笑うサモデス。


ミレイの右手の中指を噛り食べる。


バキャ、クチャクチャ…。


ミレイは歯を喰い縛りサモデスを睨み付ける。


激痛が走り、体液がボタボタと地面に染み込む。


ミレイは悲鳴を決して上げない何故ならば、サモデスがそれを、望んでいる事に気付いたから。



本当に強く気高き戦士なのだと思う。


だが…。そんなミレイに対して

無情にもサモデスは1本、1本と

指を食べていく。


右手は親指しか残されていない。


出血量と邪病により徐々にそして確実に体力と精神が消耗していく。


薄れゆく意識の中、ユウトの泣き顔が浮かぶ。


(そういえばアイツは…。諦めなかったな…。)


ミレイは静かに笑っていた。


苛立つ苦死の悪魔サモデス。


「ナゼだ!なぜもっとサケバナイ!」


「タスケヲ乞わない!」


「ふっ…。バケモノには、わからんよ…。」


「ならば、ワガチニクとなれ。」


サモデスは口をさらに大きく広げる。


口の中は無数の牙が埋め尽くされていた。


補食した獲物を粉々に噛み砕く為の牙。


ミレイの命が消えかけるその瞬間。


『瞬斬』…。ヒュッ、ザッ、ザン!!


粘りつく紫色の液体が飛び散る。


七つある瞳の内、三つを切り裂かれ、

サモデスは、斬られた瞳を引きちぎり食べる。


ふわりと地面に着地するカフエリ。


脈打つ村正を構え、ミレイを

庇うように前に立っていた。


しかし少し足が震えている。


(恐怖に飲まれるな。カフエリ。)


(しかし…良い、太刀筋じゃ。)


(踏み込みが浅い事に気を付ければ、御印も

頂戴出来たがな…。)


「うっ…うるさいわね。ちょっと緊張しただけよ!」


「次は外さないわ!」


村正の刀身を地面スレスレに下げる。


そして、姿勢を低くするカフエリ。


サモデスの傷がみるみると塞がっていく。


「イイゾ、いイぞ!獲物だ柔らかい肉だ!」


歓喜の雄叫びをあげるサモデス。


口から血が流れるミレイ。

「すま…ない。カフエリ。」


視線をサモデスに向けたまま

一言、話すカフエリ。


「安心して....、”私達”がきたから…。」



血を流しすぎたミレイは

そのまま気絶して倒れてしまう。


「喰ラウてや…!」『瞬閃蛍』


サモデスが言葉を発する前に


鋭く、速い一撃でサモデスの硬い肉体を

村正が貫く。


しかし、村正の刀身がサモデスの身体から

抜けない。


ニヤリと笑うサモデスは、緑の液体を

カフエリへと吐き掛ける。


「守れ『フレイム』!」炎の魔神がカフエリを庇い、燃え盛る身体の凄まじい熱で緑の液体を蒸発させた。


村正を引き抜き、カフエリを担ぎ

後ろへと下がるフレイム。


サモデスはそれを許さず

突き進もうとするが…


「燃えな…。『エン』。」


アルテミスの弓を天へと構え魔力を放つ。

凄まじい炎の矢が降り注ぐ。


その激しさに後ろへ下がらざる得ない

サモデス。


(ほっら~。ちゃんとぉ、狙ってフエン。)


「狙うの…苦手。」


(頭使いすぎ〜。直感よ、ちょ、っか、ん。)


「アルテ。うるさい…。次は外さない。」


鋭い殺気を放つフエン。


サモデスは久しぶりに気分が高揚していた。


先ほどの戦士よりも遥かに強い強者が二人も目の前にいる。


凄まじい食欲と戦闘意欲に呑まれていた。


「ドッち、からタベよう。」


二人を値踏みするように見つめるバケモノ。


しかしサモデスは気付いていない。


先ほどまで追い詰めた獲物、

ミレイの存在自体を忘れていた事に…。


「フエン!行くわよ!」


「うん…そうだね、カフエリ。」


バケモノの前に立つ小さな勇者達。


その姿からは、大きな勇気と希望を感じとれた。


【外伝】カフエリとフエン


「メルに逢いたいな…。」


メナの巨木を背にボソリと呟くカフエリ。


「うん…。そうだね。」


カフエリの手を握るフエン。


メナの葉が風で静かに揺れている。


「そうだ!私達が強くなればずっと、メルの傍にいられるかも。」


スッと立ち上がり、拳を胸へと握りしめ笑う

カフエリ。


「なら…。またやる?」


背負い袋からアルテミスの弓を取り出して、

笑うフエン。


「ありがと…フエン。」


腰の鎖から小さな村正を外すと

大きく脈打つ刀となる。


二人の間から独特の緊張感が

はしり、大気が歪みピリピリと草花がちぎれる。



凄まじい爆発音と同時に

揺らめく炎がメナの巨木周辺を焼き尽くす。


「燃えろ。『エン』」


アルテミスの弓から無差別に

放たれる無数の燃え盛る矢。


「遅いよ!『無桜』」


村正の刀身が淡く輝きを放ち

飛び交う、炎の矢を切り落とす。


カフエリとフエンがお互いの力を行使する

度に、少し揺れる陽炎の町。


「次で、決めるよ!フエン。」


足先を一歩前に踏み出すと、

村正を鞘に納める。


姿勢を低く構え柄を強く握る

カフエリ。


「いいよ…。カフエリ。」


アルテミスの弓に魔力を込めるフエン。


凄まじい熱を帯びた燃え盛る

炎の玉が、大きく、大きく膨れ上がる。


二人が動くその瞬間。


「二人とも、いやめなぁさあい!!」


血相を変えたアユムが

大声で叫ぶと二人の間に割って入る。


「『トレース』静寂の壁!」


カフエリの村正とフエンのアルテミスの弓が、物言わぬ石となる。


フエンの込めた魔力が行き場を失しい、丘の上から町へと降り注ぐ。


「ケヒャヒャ。こりゃマズイ『無結界グロノバルア』。」



蒼く透き通る盾が天に現れ

町に降り注ぐ、フエンの魔力を全て弾き、欠き消す。


◆◆


カフエリとフエンは二人の大人から猛烈に叱られていた。


「カフエリ!フエン!あとちょっとでここが

消し飛ぶところだったよ!!」


頭から湯気が出るほどに目を、つり上げるアユム。


「自分の力を試したいのは分かるが…。」


「カフエリ…。フエン…。誰かを傷付けてはいけないなぁ。」


とても静かだが、その瞳は強く何処か恐ろしいグラン。


カフエリとフエンの潜在能力が凄まじく。


二人の修行から繰り出される力が陽炎の町を

歪めていた。


それ以来カフエリとフエンは

アユムの『トレース』で造り出された空間以外では、村正とアルテミスの弓の使用を禁じられる事となる。



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