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アイタイ



メル達が始まりの遺跡コアへと旅立つ。


カフエリとフエンは、上空に浮かぶ陽炎の町からメルが見えなくなっても、ずっとその影を視線で追う。


「メル…行っちゃったね。」


寂しげにボソッと呟くフエン。


「そうね…。ねぇ、フエン…。」


「なに?」


「ううん…。なんでもない。」


「私達もガッコウに行かないと!」


カフエリがフエンの左手を握り

走り出す。


「ちょっと、カフエリ痛いよ。」


「あっ、ごめん。」


口を尖らせるフエン。


けらけらと笑うカフエリ。


カフエリとフエンは手を繋ぎ


ガッコウへと走って行く。


◆◆


白い煉瓦で創られた建物。


様々な種族と見た目の子供達が


白い建物の中へと入っていく。


「ミサキ先生、おはよー。」


「マール。おはよう、走っちゃだめよ。」


門の前で白きローブを纏う女性が自分の前を通る子供達に挨拶をしていた。



この白い建物はアユムが創ったガッコウという施設。


そして門の前にいる人物は

ミサキでガッコウの教師でも

ある。


ミサキは、アルメーリアに来る以前は、

小学校の教師を目指し勉学に励んでいた。


だが、ミサキがいた世界で、大きな地震と

その時に起きた津波に飲まれ気が付くと、

ディロアの王宮に倒れ気絶していた。


そこから色々とあり、現在は

アユムの元に付きガッコウの

教師として働いている。


まさかこんな形で、自分の夢が叶うとは

思っていなかったミサキ。


とても充実した日々と生活を送る。


「もう…。ゆっくり行こうよカフエリ。」


「嫌よ!遅刻したら、だめだってメルも言ってたでしょ。」


遠くから喧騒が聴こえる。


(あっ。やっと来たわ。)


ミサキは目を細め声のする方を見ていた。


金色に輝く髪をなびかせ、けらけらと笑う

エルフの子供。


手を引かれながら走る、額に小さな角を

生やす子供。


「カフエリさん、フエンさん、おはよう。」


聖母の様な笑顔を向けて挨拶をするミサキ。


声の主を見てあからさまに眉を歪め潜める

フエンとカフエリ。


ミサキに軽く会釈すると

そのままガッコウへと入っていく。


(あらあら…。可愛い。)


何故かクスッと笑うミサキ。


鉄の門を閉めガッコウへと歩いて行く。


◆◆


「はは!欲しけりゃ、取ってみな!」


「やめてよぉ~。それ僕の!」


「うるさいな!!今、本を読んでるんだ、静かにしろよ!」


「あ~ん!!マールがぶった!」


無秩序と激しい感情がぶつかり合う喧騒。


カフエリとフエンは、

今までの世界とは異なる

”音” ”匂い” ”空気” に戸惑い思考が

停止する。


カフエリは、メルが買ってくれた背負い袋が肩からずり落ちる。


フエンは、もう順応したのか

混沌とした教室へと入っていく。


教室の子供達は、明らかに

異質な二人の様子を探る。


「おい、おまえら、新しく来た奴か?」


悪気なくフエンの背負い袋を

触ろうとする獣人族の子供。


「触るな…。」


いつものあどけないフエンではない。


冷たき視線をその子供に向ける。


表情は笑顔のままだが、

獣人族の子供は、その威圧感に後退りをする。


教室の喧騒が異質な恐怖で静寂が拡がる。


この状況を一番困惑しているのが

カフエリであった。


「ねぇ、フエン…。どうしたの?」


なだめる様にフエンに声を掛けるカフエリ。


「メルがくれたモノ、触られるの嫌だから、怒った。」


少し落ち着いたのか、いつもの表情になる

フエン。


魔族とは基本的に好戦的である。


感情を隠す者、逆に露にする者、両者とも存在するが根本的には自分の感情には素直なのだ。


だがフエンはあまり感情を表面に出す事は少ない。


それは奴隷として扱われてきた事が関係している。


その心の壁を、知らず知らずの内に砕いてきたのが、メルの存在なのである。


よって、今までは我慢(がまん)を本人も気付かずにしていたが”許せない事”に触れられ、感情が出てしまったのだと思う。


カフエリは周りの視線が自分達に向けられ

居心地が悪い。


そのやり取りを見ていたミサキは驚いていた。


実はフエンに声を掛けた子供は、ノボルが

行った感情操作の実験体。


恐怖と嘆きを感じる事が無い様にされてしまった。


その子供がフエンの圧力に対して何かを感じたからである。


(この子達…。)


ミサキは教壇に立つと手を叩く。


「みんな。ガッコウに新しい仲間が来ました。」


カフエリとフエンに視線を送り手招きをするミサキ。


フエンの手を優しく握るカフエリ。


二人はミサキの誘われ教壇の前に立つ。


「じゃあ自己紹介をしましょう。」


「お名前を教えて。」


ミサキは、二人に視線を送り伝える。


「カフエリです。お願いいたします。」


丁寧に笑顔でお辞儀をするカフエリ。


その姿に教室にいる男子達の心を奪う。


「…フエンです。お願いいたします。」


カフエリを真似て、丁寧にお辞儀をするフエン。


先ほど冷徹な表情とは違い、慈愛に満ちている。


カフエリと同じく教室の男子達を虜にするが…。


少し違うのが女子の心をも掴んでしまった

事である。


一瞬でこの場を支配したカフエリとフエン。

少し得体の知れない何かを、感じる取るミサキであった。


そして何故か気分が高揚する。


「じゃあ次は、みんなの名前を教えて。」


ミサキが教室の子供達に視線を送る。


すると手前の席に座っていた見覚えのある

藍色の角を生やす男の子が立ち上がる。


「やぁ。僕はパル、カフエリとフエンには

一度会ったけど…。」


「覚えてるかなぁ…。」


「君たちのお父さんは凄いね。」


「本当にありがとう。」


以前にメルがパルの左足に呪いが掛けられているのに気付き解呪魔法で治療した事があった。


照れくさそうにカフエリとフエンに伝える。


二人も何故か照れながらでも

少し誇らしげに頷く。


「パル、だよね足はどう?」


カフエリが話し掛けると調子が良いと足踏みをして見せた。


「じゃあ次は僕かな。」


パルとの話に割って入る眼鏡を掛けた人間族の男の子。


少しムッとするカフエリとフエン。


「僕の名前は、ギラン。人間族さ。」


髪をかき上げカフエリとフエンに爽やかな笑顔を向ける。


だが口から人間族には無い筈の鋭い牙が2本生えている。


カフエリとフエンはそんな事をは気付かず

静かな視線を送る。


「君たちのお父さん。魔族なのかい?」


「魔王様みたいで、格好よかったよ。」


カフエリとフエンを表情が優しく柔らかくなる。


そしてカフエリとフエンの手を

ギランが触れようとするが


フエンとカフエリから冷たい視線を感じ、

後ろに引き下がるギラン。


「ちょっと退いて、邪魔ギラン!」


きらきらと輝く黄色く円らな瞳の女の子。


小さき耳が猫の様にぴくぴくと動きカフエリとフエンにじゃれつくように甘える。


「僕は、ネミル、仲良くしてね!」


カフエリとフエンを抱き締めて


自分の席へと戻って行く。


だが…フエンへと向けられる

視線が熱い。


つい眼を反らすフエンであった。


そして最後にフエンに睨まれた

男の子がボソッと「俺、マール。」それだけ

伝える。


表情は変わらず笑顔だが、少し怯えていた。


ネミルがそれを見てけらけらと笑っている。


(良かった…。大丈夫そうね…。)


少しホッとしているミサキであった。


「じゃあカフエリとフエンはそこの席ね。」


ミサキは右側の窓寄りにある

二つの席を指差す。


カフエリとフエンは手を繋ぎながらその席へと座る。


「今日の授業はアルメーリア文の書き取りよ。」


ミサキが道具を準備している。


少し顔が赤く表情が固いカフエリ。


背負い袋をずっと眺めるフエン。


何を想い考えているかは本人達しかわからない。


◆◆


「先生、さようなら!」


子供達はミサキに一礼すると帰り支度をし始めた。


四時間の授業が終わり子供達は家路へと向かう。


カフエリとフエンも背負い袋に

筆記用具と羊皮紙をしまい込む。


教室から出ていこうとすると


ピンクのタキシードを着た

アユムが歩いて来る。


「カフエリ、フエン、ガッコウどうだった?」


笑顔で語り掛けるアユム。


「うん…普通。」


早く帰りたそうにするフエン。


「色々と学べました。」


笑顔で返すカフエリ。


「そうか…じゃあ一緒に帰るか。」


アユムは二人に手を差し出す。


それを無視してカフエリとフエンはお互いの手を握り家へと帰って行く。


寂しげなアユムの背中を夕陽が照らす。


それをクスクスと笑うミサキであった。


◆◆


家に帰ったカフエリとフエン。


「お帰りなさい。」


カフエリの姉クリエラが優しく二人を出迎えた。


「ガッコウ、どうだった?」


アユムと同じ事を聞かれつい笑ってしまう

カフエリとフエン。


「楽しかったよ。」


少し緊張していたのか、表情が柔らかくなるカフエリ。


「大丈夫…。」


フエンは変わらぬ様子で背中の背負い袋を

部屋へと持っていく。


メルが旅に出ている間、カフエリの姉クリエラが、二人の身の回りの世話をする事になった。


ちなみにグランはアユムから家を追い出され、メルの家に居候していた。


「うっ、あぁ…お帰りなさい。カフエリ、フエン。」


寝ていたのか銀色の、髪の毛がボサボサになっているグラン。


「でっ、どうだった、ガッコウは?」


また同じ事を聞かれるカフエリとフエン。


思わずため息をする。


グランはボサボサの頭を、かきながら厠へと歩いて行く。


今度は凄まじい風が部屋の中に吹き荒れる。


窓から覗く大きな瞳。


カフエリとフエンは慌てて窓から顔を出す。


綠炎の鱗を持つ巨大な飛龍フグエルレンが

フエン達の様子を見に来ていた。


「やっと帰ってきたか。」


「ガッコウとやらは、楽しかったか?」


フグエルレンがそれを聞くと


二人はただ、大きくため息をする。


首を傾げるフグエルレン。


「二人の顔が見れたでワシは帰る。」


そう言うと巨大な翼を広げ飛び去って行くのであった。


「ご飯が出来ますよ、二人とも手を洗ってきなさい。」


クリエラが一階で叫ぶ。


すると肉の焼けた香ばしい匂いと少し酸味のある香りがする。


そして、カフエリとフエンにいる腹の虫を

目覚めさせた。


二人は手を洗いに井戸へと向かう。


◆◆


カフエリとフエンは食事を、

終えて各々のベッドへと倒れ込む。


二人は真ん中の誰もいないベッドを眺める。


何故か心と身体が冷たい。


布団に潜れば暖まるだろうと


カフエリとフエンはそのまま顔まで布団に

くるまり眼を閉じた。


扉が少し開きクリエラが、顔を覗かせる。


カフエリとフエンの様子を見に来てくれたのだろう。


ランプの明かりを、消して部屋から出ていく。


「ねぇ…。フエン、起きてる?」


「うん…。起きてる。」


二人は天井を眺めていた。


「メル…。今頃どうしてるかな?」


「わからない…。」


「ご飯、食べれてるかなぁ?」


「食べれてるよ…。きっとメルなら。」


カフエリとフエンはメルの事を話している。


メルはいつも早朝の鍛練だと走って来る事。


寝起きはいつも機嫌悪い事。


それでもカフエリとフエンの

着替えはいつも用意してある事。


ご飯を食べる時、話ながら食べるから口からポロポロと食べ物が溢れる事。


いつしかカフエリとフエンから

涙が溢れ頬を伝う。


二人はメルの匂いがする真ん中のベッドにすがり付き、声を殺して泣いていた。


グランは、黙ってそれを見て振り向き踵を

返す。


しばらくたった後。


カフエリとフエンは泣いたら

少し落ちついてきた。


眼を擦る二人。


トントン。


部屋の扉を叩く音。


「ちょっといいか、入るぞ。」


扉を開けるグラン。


燭台の火の明かりが、

グランの顔を照し少し不気味に感じた

カフエリとフエン。


慌てて、メルのベッドの布団にくるまる。


「ケヒャケヒャ…起きているのは分かっている。」


「二人とも、起きなさい。」


カフエリとフエンは布団をめくり顔を出す。


グランは懐からゴレフォンを取り出す。


(もしもし、カフエリ、フエン、元気か?)


メルの声がゴレフォンから聴こえる。


カフエリとフエンは飛び起きて

グランからゴレフォンを取り上げる。


「メル!元気?」


(あぁ…元気だ。)


(ガッコウは、どんな所だった?)


(寂しくは、無いか?)


(ご飯は食べてるか?)


メルの優しい言葉に涙を堪えるカフエリとフエン。


深呼吸をすると二人は笑って


「私達は、大丈夫!それよりメル!」


「ちゃんと無事に帰って来て。」


ゴレフォンの向こうにいる

メルへ自分達の想いを伝えた。


グランは、黙って部屋を出ていく。


カフエリとフエンのいる部屋から彼女達の

笑い声が、聴こえてきた。


それが次の日の朝まで続くとはメルは思いもしなかった。


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