オモイダス
「ヘッ…。これが化物、ノボルの女かよ!」
「姫さんよぉ。あんた、あんなバケモンの何処が、よかったん?」
白銀の長い髪が荷馬車の隙間から、
時々覗く日差しに照らされ幻想的に光る。
その女性は、口が切れ顔には
複数の痣があった。
更に奴隷としての証。
首には銀色の冷たい
従属の首輪を付けられていた。
「ふっ…。あなたの様な下劣な者には、分かりませんよ。」
片眼に眼帯をしている男を
睨み付けて笑う女性。
上から下へと舐める様に女性を
見る眼帯の男。
「ほぅ、さすが…王族の娘は
違うね。」
「あんた、いい女だなぁ。」
「俺のモノに、なれば生かしといてやる。」
「なぁ…。メリア姫さんよぉ。」
眼帯の男は睨み付ける女性の顔を強く掴む。
すると…。貪る獣の様に女性の口唇へ舌を入れる。
ガチュッ!
「痛ぇ!このアマ!」
パシン!バキィ!
男の口から赤いものが滴り落ちる。
女性の腹を蹴り飛ばし顔をなぐる外道。
力無く踞る女性は、咳き込むと赤黒いモノが
口から飛び散る。
「ごほっ、弱い者には、強いのだな…。」
「堕ちた者だ…。ディロアの兵士も。」
どんなに虐げられても、その女性の瞳は
強く気高い。
「おいおい…。そんな眼でみんなよ!」
「もうあんたは、ディロアの姫じゃないんだぜ!」
「あんたの父親に好きにしろと言われてるからよ…。」
眼帯をしている男の左目は、淀み穢れている。
馬車の前にいる従者に何か指示をしている。
荷馬車が急に止まる。
後ろの垂れ幕から二人の男が乗り込む。
そして…。
男達は自分達の服を脱ぎ捨て、荒れ狂う
獣の様な雄叫びあげ、生臭い息を女性に
吹き掛ける。
女性の衣服を引き裂く音。
「……!!……。」
荷馬車が悲鳴と共に激しく揺れる。
次第に悲鳴も聞こえなくなり
男達からでる荒い息の音だけが
凍てつく吹雪と暗闇の中で
雑音の様に聴こえる。
「ちっ…。命令する前に舌噛みきりやがった。」
荷馬車から投げ捨てられた影。
そして荷馬車は走り去ッていく。
先程の気高く強い瞳から放たれる光が徐々に消えていく女性。
その瞳から赤い涙が流れ堕ち
無数に付けられた傷から流れる赤い液体が、白雪が積もる絶壁へと染み込む。
しばらくすると一人の男がそれを見つけ
強く、強く、亡骸を抱き締め悲痛な雄叫びをあげる。
地面が激しく揺れる。
まるでその男の心境と呼応するかの様に…。
赤き涙を流し憤怒の形相を浮かべ荷馬車が
走り去って行った方角へと跳んで行く。
憎悪、怨み、呪い、それらが
闇の魂を呼び寄せ、従属の首輪
へと吸い込まれる。
(ごめ…んなさい…。ノボル。)
(ごめん…なさい…。グラン。)
(どうか…。私の分まで…。)
弄ばれ哀れな最期を迎えた
亡骸。
従属の首輪へと集まる黒く邪悪な塊が亡骸を包み込む。
吹雪の凍てつく寒さが激しくなる。
美しい亡骸は、形を変え
氷の瞳を持ち、美しい美貌に
時折覗く、蒼白くきめ細かい肌。
ソノモノは、怪しく光る白銀の髪をなびかせる。
マケアンディの岩山を越えようとする、
旅人達を誘惑し魂ごと凍らし
喰らう魔物へと変わる。
いつしかその魔物は地元の者達にこう呼ばれる。
『アイスメリア』と…。
◆◆
マケアンディの頂上から
流れる凍てつく風。
無情にメル達へと強く吹き付ける。
「やべぇ…。凍る…。」
鼻息が凄まじい冷気のせいで
霜柱となるロウガ。
「あ、あと、少し先に行くと
山小屋がある筈です。」
歯をかちかち鳴らすユウト。
「頑張りましょう…。」
唇が青ざめるカヨウ。
皆厚手のローブを着ている。
フードを深く被り何とか暖を
とろうとしていた。
その中でまさかの
薄着のタンクトップで歩くメル。
凍てつく風を心地良さそうにしていた。
三人はメルを見て少し畏怖を感じる。
「なぁ…。メル、あんた…。寒く無いのか?」
鼻を啜りながらメルに聞くロウガ。
「あぁ…、むしろ涼しい。」
爽やかな笑顔で答えるメル。
(嘘でしょ…。)
手が悴み、錫杖を握る感覚が薄れるカヨウ。
(うわっ。メルさん…。怖っ!)
地図を必死で見つめ現在地を
確かめるユウト。
「と、とにかく進みましょう。」
「はぐれないで下さい!」
ユウトが後ろを振り向き声を掛ける。
更に風が強くなり猛吹雪となる。
その中でもメルだけは、涼しげに歩いていた。
カシャン…。
金属音が降り積もる雪へと倒れる。
メルが音のする方を見ると
カヨウが倒れていた。
カヨウの両手が青紫色の腫れ
凍傷となっていた。
左手から聖なる炎を出すメル。
カヨウを抱き抱えると暖かく
優しい炎が身体を包み込む。
青ざめ、冷たくなったカヨウの
表情に血の気が戻って行く。
意識が少し戻るカヨウ。
メルを見上げるカヨウ。
何故か今度は、頬が赤くなる。
「メルさん…すみません。」
「気にするな。少し揺れるが我慢しろ。」
メルは全身から綠炎の炎を滾らせると
強く吹き付ける吹雪にぶつける。
凄まじい水蒸気が辺りに立ち込め、今度は、蒸し暑くなる。
(この感じ…あの人と同じ…。)
その光景をマケアンディの頂から愛おしそうに見つめる氷の瞳を持つ魔物。
急に激しい頭痛に襲われる魔物。
(コロス!クラウ!)
黒い闇が覆い魔物の衝動が心を支配していた。
そしてメル達は進んで行くと
目的地の山小屋が見えて来る。
ゆっくりと歩いて行くメル達。
『アイスメリア』がメル達を見ている事を
まだ知らない。




