フクリコウセイ
ボロボロに破けたローブを握り締め、へたりと座り込み涙ぐむユウト…。
熱く火照った身体が外の空気で少し冷える。何故か心が冷たい。
ベッドの橫で座るメルの背中が
少し寂しげに何かを語る。
「いや~、未遂で終わって、良かったね。」
「ケヒャヒャ、効果が切れなきゃ大変だからね。」
アユムとグランは笑いながら
結界を解く。
少し甘酸っぱい匂いがメルの
肉体からほのかに香る。
「うっ…窓を開けるぞ!」
鼻を抑え、ミレイが部屋の窓を
全て開け、換気していた。
「メルー!」
カフエリとフエンは
息を荒くしていたメルに飛び付く。
「もう…。ダメかと思った…。」
泣き付く二人の子。
「あぁ、俺も駄目かと思った…。」
落ち込むメル。
アユムは替えのローブをユウトに渡す。
しかし…。
先ほどからカフエリとフエンが
妙にメルの肌を求め、へばりつく。
カフエリとフエンの様子がおかしい。
「メェル…。大好き。」
「ずっと。はなれない…。」
眼が虚ろであった。
おそらくメルの肉体から魅惑の雫。
その残り香を吸い込んで
しまったのだろう。
「それで俺は、何をすれば良い?」
先ほどの事がなかったかの様に話しを本題へと戻すメル。
へばりつく子供達を軽く躱しながらアユムに視線を送る。
「代わりに、私が話そう…。」
ずっと口を閉ざしていたグラン。
一冊の煤汚れた本をメルに見せる。
「それは人間族初代の王ディロアの日記だ。」
メルが触れようとすると強く弾かれる。
「人間しかその中身を読む事は出来ない。」
「そこに書かれている事。」
「それは、暝砡の力と、世界を創造せし者の呼び出す方法。」
「全てが書かれている…。」
グランはただ静かにメルをみている。
「メル。まず、始まりの遺跡
コアに行ってくれないか?」
「そこに暝砡の者だけが、使える力が封印されている。」
「父…。いや、神ノボルを止めるにはその力が必要なんだ。」
しかし…。首を傾げるメル。
「…。暝砡…なんだそれは?」
そうメルは暝砡に関しての記憶を全て消されている。
故にグランが話している事を
理解できないでいた。
グランも表情が陰り戸惑う。
視線をアユムへと向けるグラン。
満面の笑みで返すアユム。
(はぁ……。)
グランは頭を抱えて悩んでいた。
「あのぉ…。ちょっと良いですか?」
アユムに渡されたローブに
着替え終えたユウトが話しに割って入る。
「確か、メルさんの記憶は、ミサキさんの忘却によって消されたのですよね?」
「あぁ、そうだけど…。」
「なら…僕の反転の力と錬金術でなんとかなるかも知れません。」
どうにか自分の失態を打ち消そうと必死なユウト。
それを冷静なミレイが釘を刺すように語る。
「ユウト…。忘却によって消された記憶は、戻らないの決して…。」
腕を組み不敵な笑みを浮かべるユウト。
「知ってます、ミサキさんの力については。」
「でも…反転の力ならば可能なんです。」
「メルさんの壊れた記憶を破壊から修復にリバースすれば…恐らく。」
「じゃあ聞くけど…。反転は実体に触れないと発動しないでしょ。」
「記憶に実体は無いわよ。」
ミレイの問い掛けについて更に笑みを浮かべ、ユウトは答えた。
「だからそこで僕の錬金術が役立つのですよ。」
「確かにミレイさんが言う様に記憶は実体がありません。」
「でも記憶には喜怒哀楽のエネルギーが宿っています。」
「僕の錬金釜は形の無い物質も実体化できますから。」
「現に、魅惑の雫も”恋人が出来なくて無念の死を遂げた霊体”を使ってますから。」
この場にいる者達全てが、心の底でそんな物をアレの為に使ったのか…。と呆れ果てていた。
「わかった…。じゃあその件はユウトに任せる。」
「メル。君にこれを書いて貰いたい。」
複数の書類をメルに渡すアユム。
正気に戻ったカフエリとフエン。
そしてフグエルレンもメルの懐から書類を覗き込む。
その内容に三人は驚いていた。
メルが淡々と書類内容を口に出して読む
「え~と雇用主カワサキアユム…。」
「で…。就労者メル。年齢不明。男性。」
「う~ん。勤務日数、週休2日制、急な休日出勤有り、24時間対応可かぁ…。」
「就労内容、神ノボルの討伐とその他雑務。…何だ雑務って。」
「そうか。託児所完備。日給銀貨80枚。ウムム…。」
書面にサインをするメル。
書類を受け取りメルに再度、確認をするクリエラ。メルは頷きアユムへと視線を返す。
「はい!契約成立!」
「じゃあ。これから宜しくね。」
満足そうにするアユム。
そして、これからは、フエンとカフエリに
不自由な生活をさせなくて済むと納得する
メル。
フグエルレンがこのやり取りを不思議そうにしていた。
それに気付いたアユムは独り言の様に答える。
「だって…。お金は大事でしょ。」
心の中が一番読めないアユムに
少し狂喜と畏怖を覚えるフグエルレンで
あった。




