ガンバロウ
今日、アユムから話された事を考えながらふとミサキの顔が浮かぶメル。
何故だろう…。少し心が苦しい。
(疲れたのかな…。)
深くため息をしながら立ちあがるメル。
(風呂に入るか…。)
ドタドタ…!バシッ!ガシッ!
メルの脚と首を掴むカフエリとフエン。
「メールー…。ため息してどうしたの?」
カフエリの細く小さい筈の腕が
メルの首をギリギリと締め付ける。
「…大丈夫、メル?」
フエンはメルの顔を見上げ脚に張り付く。
「カフ…ちょ…苦し。」
顔が青ざめていくメル。
カフエリの腕を撫で外そうとするが外せない。
アユムに切り落とされた足は、いくら再生したとはいえ、まだ動きが悪く本調子ではない。
バランスを崩し床に座りゆっくりと倒れるメル。
その隙にメルの上へと座り込み、しがみつく、フエンとカフエリ。
「ごほっ…、カフエリ、フエンどうした?」
二人の顔は何かから怯えている様に映る。
「メルは、何処にも行かないよね。」
「ずっと側にいて…。」
メルにしがみつく二人の身体は
小刻みに震えている。
起き上がるメル。
カフエリとフエンを強く抱き締め伝える。
「大丈夫だ…。ずっと一緒だよ。」
「ただ…。ランドに行く時、二人は留守番だ。」
メルの顔を見上げるカフエリとフエン。
「一緒に、行っちゃ駄目…?」
「離れたく…無い…。側にいたい。」
幼き子の瞳から涙が溢れそうになる。
「カフエリ…。フエン…。」
「俺は死なない。必ず帰って来る。」
子供の勘は時として下手な占いよりも当たる。
ランドに行く。アユムの様に
暝砡の者、メルに対して敵意を持つ者達が
住まう場所。
ましてやカフエリとフエンにとっては自分達を地獄に落とし苦しめた者が住まう国。
不安に苛まれるのは、当然の事であろう。
だが…。メルには自信があった。
以前のメルには無いモノを今は持っているからなのである。
それは…。
守りたいモノ。本当に大切にしているモノが出来たからである。
もしも自分がいなくなれば
この子達にとって安全な居場所を失う事になる。
それだけは、絶対に避けなければならない。
故にその覚悟と信念があるかぎりメルに敗北は無い。
様子をみていた小さき飛龍は
フエンの懐から顔を出す。
「安心せい!ワシも付いておる。」
カフエリとフエンをなだめる。
「いや…。フグエルレンもこの子達と一緒にいて欲しい。」
メルの紅き強い瞳から何かを、感じ取る
フグエルレン。
「そうか…。死ぬなよ。」
「あぁ…。それよりこれ以上、太るなよ。飛べなくなるぞ。」
フグエルレンとメルは笑っている。
その不思議な空気でカフエリとフエンも笑みがこぼれた。
「カフエリ、フエン。」
「フグエルレンを頼むぞ。」
小さく頷く二人。
「任せて!絶対に痩せさせる。」
「フグエルレン様に…完全なる肉体を。」
妙な気合いを入れていた。
二人を身体から下ろすとメルは立ち上がる。
「じゃあ、風呂に行ってくる。」
メルは手拭いを持ち風呂場へと向かう。
メル達が住まう借りの住居には
貴族の者にしか持てない様な大浴槽が存在する。
セントウと呼ばれるモノである。
メルはセントウを気に入っていた。
「じゃあ私達も一緒に入る!」
フエンとカフエリも手拭いを持ち、付いて来る。
(はぁ…。仕方ない。)
本当は少しゆっくりしたかったメル。
少し屈むと当たり前の様に
カフエリとフエンはメルに掴まる。
二人を抱えてセントウへと向かい歩く。
◆◆
赤い布と青い布がぶら下がっている。
その中央に長い髪をかき揚げるゴーレムが座り込む。
「おやおや、今日もご一緒に、入浴ですか」
ゴーレムがおどけて話す。
「良いでしょ、べ、つ、に!」
カフエリがそのゴーレムを上から睨みつける。
フエンはメルに視線を送る。
メルは優しく笑みを浮かべ頷く。
フエンはメルの胸に顔を埋めている。
「まぁ…。良いですけどね。」
「じゃあ、これをどうぞ!」
木桶と中に花の香りがする
石鹸をカフエリが受け取る。
「では、ごゆっくりどうぞ!」
ゴーレムは手を降っていた。
メル達は青い布がぶら下がる門をくぐる。
来客用なので誰もいない。
小さなゴーレム達が竹を編んだ籠を持ってくる。
ゴレ!
敬礼をする小さきゴーレム。
ゴッレ、ゴッレ、ゴッレ、ゴッレ…。
奥にある小さな穴の中に戻って行く。
カフエリとフエンをゆっくりと下ろすメル。
少し腰を伸ばしていた。
メルは脱いだ服を竹籠に入れる。
カフエリとフエンは、はしゃぎながらお互いに服を脱がせ合う。
透明な硝子扉を開く。
夕日に染まる赤い山が描かれている壁画が
メル達を出迎える。
湯船から立ち上る湯気がより
壁画を彩り、幻想的に映る。
だがその雰囲気を少し残念にさせる入浴に付いてかかれている注意書き。
身体は先に洗ってから入浴しましょう。
赤い文字で書かれていた。
赤と青の色が付いている石
そこに蛇のような茎がぶら下がる。
木の桶を置いて身体を洗うメル。
チラチラとメルに視線を送るカフエリ。
「メル。また頭洗って!」
石鹸を持ちメルの前に座る。
ため息をするメル。
石鹸を泡立てカフエリの髪を
洗う。
鼻歌まじりのカフエリはご機嫌でいた。
「カフエリ、お湯かけるぞ。」
目をつむるカフエリの頭にお湯かける。
一連の動作に無駄な動きがないメル。
手慣れたものである。
フエンもメルに視線を向ける。
笑みを浮かべ頷くと
フエンの髪も洗うメルであった。
お湯をかけられたフエン。
今度はメルの背中を洗い始める。
メルは静かに座る。
赤の石をひねると蛇の様な茎からお湯が出る。
フエンがメルの背中に付いた泡を落とすと
満足げに笑う。
今度はカフエリとフエンが
お互いの背中を洗い合っていた。
メルは湯船に浸かる。
フグエルレンもパタパタと飛び湯船に浸かる。
綠炎の鱗から甘い花の香りがする。
どうやらカフエリが徹底的に洗ったのだろう。
フグエルレンの持つ綠炎色の鱗から光沢が
出ていた。
身体を洗い終えたカフエリとフエン。
メルのいる湯船に浸かる。
「うぇ~い…。」
フエンから不思議な声が出る。
「フエンは、いつもお湯に入ると唸るね!」
「おっかしぃ!」
ケタケタと笑っているカフエリ。
手拭いを頭に乗せるフエン
カフエリに冷ややかな視線を送る。
メルはこの幸せの為に頑張ろうと決意を固めるのである。




