ドウシヨウ
鳥の鳴き声が心地よい。
柔らかな風が時折吹き付ける。
鼻をくすぐるような何か。
「うぅん…。ここは何処だ?」
メルが眼を開くとエルフの
蒼い瞳と魔族の紫に光る瞳から
何か暖かいものが溢れる。
それがメルの口に入る。
少し塩気が強い。
「もう…一週間も寝てたんだよ!」
幼きエルフの耳がぴくぴくと動く。
「起きないかと思った…。」
あどけない魔族の口がひくひくと動く。
そしてパタパタと飛ぶ綠炎色の鱗を持つ飛龍が重そうな身体でメルのお腹に乗る。
「カフエリとフエンには感謝するのだぞ。」
「この子達は、お前の事を夜通し、看病してたからな。」
自分もやったぞと偉そうに話す。
「あのぉ…。すみません。」
「あなた達は誰ですか?」
「俺は…何者でしょうか?」
首を傾げ悩むメル。
三人はメルの一言に固まる。
だが…もっと固まっていたのは
遠くでずっと様子をみていた
アユムであった。
(これは…まずい!)
急いでミサキの元へ走って行く。
歩きながら口論している二人。
「いや本当に、暝砡の記憶だけだよ、消したの!」
「だが仲間や、自分の事まで忘れてるぞ!」
アユムとミサキであった。
メル達がいる部屋に入ると
また…。
アユム達に鋭い殺気が向けられる。
「あんた達、今度はメルに何をするの!」
カフエリが怒鳴る。
それをなだめる様に語りかけるミサキとアユム。
「ごめんなさい…。でも様子を見させて。」
瞳を閉じメルの額に手をあて
記憶を読み取るミサキ。
メルの記憶が大量にミサキの
意識へと流れ込む。
メルの全てを覗いたミサキは
その凄まじい重さと、焼けつく様な悲しみを直接に感じうずくまる。
(なんて…。)
起き上がると慈しむ様にメルを
見つめるミサキ。
それを不快と感じるフエンとカフエリ。
「記憶を読んでみたけど大丈夫よ。」
「多分、一時的な記憶喪失だと思うわ。」
「彼…かなり無理をしてたみたいね。」
「身体を覆う魔力が掠れてた。」
それだけ言い残すと部屋から
出て行くミサキ。
そしてそれを睨むカフエリとフエン。
アユムが首を傾げ”きょとん”としているメルを見る。
(なんだ、この空気!)
「まぁ、なんだ、とりあえず休みなさい。」
「今後の事はまた後で話そうか。」
それだけ伝えるとアユムも後を追いかける様に部屋から出て行く。
「しっかし、どうしたもんか…。」
「まぁ、とりあえずは休むぞ。」
水が入っている透明なグラスを
指で突っつくメルを眺めて話す。
フグエルレン。
カフエリは黙って頷き
フエンは
「はい、神の御指示ならば…。」と緑の草を鉢で潰していた。
平和な時が流れる…。
メル達がほのぼのとしていた
その頃…。
現代の世界
メグラ達の時代では、とある変化がもたらされていた。
◆◆
「はぁ、はぁ。何故?」
黄金の剣を持つ者に目掛け、
無数の火矢が放たれる。
それを一振で全て打ち落とす。
こんな事ができるのは
メルと同じ暝砡の力を持つ勇者。
メルフォードクラウディアであった。
今、メルフォードは追われている。
理由もわからないまま…。
更に速度を上げその場から逃げようとする。
ドン!
砂煙とともに白銀に輝く体毛に
覆われた獣人族が行く手を遮る。
真っ赤に染まる狼牙棒を振り回す。
その度に周りにある物が風圧で吹き飛ばされる。
(生かして捕まえろ。メグラ!)
「あぁ…。そうだな。」
狼牙棒と話す白銀の獣人族。
かつてメルと旅を共にしていたメグラである。
「何故ですか?!メグラ殿!」
叫ぶ、メルフォード。
「何故?!それをきさまが言うのか。」
聞く耳を持たぬメグラは
酒呑の棍棒を両手で握り締め
メルフォードに渾身の一撃を
振り下ろす。
(仕方ない…。)
メルフォードは己の肉体に魔力と戦気を込める。
(超身体強化)
膨れ上がる全身の筋肉。
バギィーン!
メグラの一撃を黄金剣で受け止めた。
だが、その衝撃で足元の硬い地面がひび割れ、小石が次々と粉砕していく。
メグラが念じると酒呑の棍棒が太く大きくなる。
その全長330尺(約109m)の
棍棒が更にのしかかる。
それを弾くメルフォード。
だがそれは小さな隙となる。
気が付けばすぐ目の前にメグラが来ていた。
拳を深く構え貫く一撃。
『白虎流拳技(覇岩猟極)』
メグラが繰り出す拳が一際
大きく巨大に見えた。
(くっ…躱しきれない!)
身体を捩り直撃は避けれたが
肋骨が数本折れただろう。
そしてメグラから繰り出される拳圧が地面を抉り背後にある木々を次々となぎ倒す。
(はは…流石だ。)
口から赤黒い血が吹き出る。
ポタポタと流れ地面を赤く染める。
恐らく内臓まで達したのだろう。
メルフォードはうずくまる。
止めの一撃とメグラが構える。
すると…
『光命斬(火廉)』
眼を塞ぐ様な明かりが
放たれ視界が白くなり何も見えない。
「さぁ、早く立って!」
メルフォードは声の主に
手を引かれ走る。
「逃がすか!」
また凄まじい拳圧が飛んで来る。
「フレイム、止めて。」
綠炎に燃える剣と矛を持つ精霊がそれを弾き飛ばす。
バシュッ!
視界が徐々に開く。
メルフォードの姿が消えていた。
炎の精霊を従える額に角を生やす魔神。
金色に輝く髪をなびかせるエルフの剣士。
メルフォードはその二人に見覚えがある。
そう…。
成長したカフエリとフエンであった。
脚に力が入らない。
その場で倒れるメルフォード。
「ねぇ、カフエリ。本当に彼がメルと同じなの?」
フエンがため息をしながら
フレイムに、指示を出す。
炎の精霊がメルフォードを抱える。
「えぇ、間違い無い筈よ。」
「だって…。メルが言ってたから。」
そういうと森の端まで二人は
進む。
森の向こうには何も無い。
風も音も色も何も無い。
ただ時の流れぬ世界が拡がっているのであった。
ゴレゴレゴレ、ゴレゴレゴレ。
奇妙な音がする。
カフエリが懐から震える石人形を取り出すと、そこから声が聴こえる。
(メルフォードを捕まえた?)
「えぇ…。死にかけてるけど。」
カフエリはメルフォードに視線を送る。
(よかった…。間に合って。)
(じゃあ待ってるから、気をつけて。)
「アユムもね!」
石人形の口を閉じると
時の流れぬ空間ヘ二人は走って行くのであった。




