ツヨキキズナ
白黄色の砂に開く窓。
そこへ飛び込んだメル達は
何故か真横の草葉へとぶつかる。
ドッサ!
咄嗟的にフエンとカフエリを
庇うメルは強く草葉にぶつかり
少しむせる。
ロウガは銀色の長き尾を巧みに操りクルリと着地する。
ロウガは、カヨウのローブがめくれ
足元から下着が見える。
鼻の下を伸ばす所は血縁の証であろう。
カヨウも銅杖を真横に刺し、バランスを取る。
カヨウとロウガはうまく身体を捩り体勢を
崩さない。
メルはさすがは冒険者だな、
と感心していた。
すると遅れて重い小さな塊が
悲鳴をあげ落ちてくる。
それをフエンとカフエリを抱えたまま躱す
メル。
地面に少しめり込むフグエルレン。
小さき尾をぴーんと伸ばし動かない。
ガザッ!
鋭く強い殺気がメルに向かって襲いかかる。
フエンとカフエリを下ろし
綠炎の剣と矛を出すメル。
ギィーン!!
殺意よりも
重い憎しみが放つ一撃を
綠炎の剣で受け止めた。
「やるね…。暝砡!」
ピンクのタキシードを身に付ける奇抜な男が不敵に笑う。
「なら…。」
指で旋律をなぞる男。
(1000体のゴーレムをトレース。)
少しGOMINIに似ている石人形
無機質な殺意をメルに込める。
しかし何故かメルは笑い
綠炎の剣と矛を消して
手をふり男に近寄る。
「アユム。俺メルだよ。」
久しぶりに会う親しき仲間の様に語りかけてくる。
ピンクのタキシードを纏う男は
その不気味な気配を感じ
よりメルから距離を置き様子を見る。
「悪いけど、僕は君の事、知らないよ!」
「それより、マイダを殺したね!」
「そこには、僕の仲間もいた!」
「仲間をどうした!メル!!」
両手に持つ曲剣を構えメルを
睨みつける。
アユムは1000体のゴーレムをメルに向けて放つ。
「また…修行か、アユム。」
ため息をするメルは迫り来るゴーレムへとゆっくり歩く。
「メルが…あ、ぶ…ない…。」
フエンとカフエリは暑さで
衰弱していた身体を無理に
動かそうとする。
飛ぶことを諦め、転がって来た
フグエルレンはそれを制止した。
「良くみろ。」
カフエリ達にそう告げると
またフエンの”もぞもぞ”と懐に入る。
視線をメルに戻す。
無数のゴーレムが木の葉の様に吹き飛ばされて行く。
だが…。フエンとカフエリが
心配していた通りになってしまう。
吹き飛ぶゴーレムの間を縫うようにメルへと近づき、片足を切り落とすアユム。
赤い液体が飛び散りバランスを崩すメル。
地面に転がるメルの喉元に曲剣を向ける。
「暝砡。さよなら。」
凄まじい殺意がメルへ向けられる。
必死でメルの元に駆け寄る
カフエリ。
「だめー!殺さないで…、。」
泣きながらメルを庇う様にしがみつく。
アユムは曲剣を止め「どけ!」
と睨みつける。
「いやだ!メルは死なせない!」
肩を震わせながら幼き子供が
メルを必死で庇う。
自分に向けられた凄まじい殺気を感じ背後に視線を送るアユム。
フエンがアルテミスの弓を引き
いつでも撃てる様に構えていた。
その瞳は、強い者が持つ覚悟そのもの。
恐らく刺し違えるつもりだろう。
幼き子供が持てる様な瞳ではない。
一体どんな世界を見て来たのか。
どんな地獄を生き抜いて来たのか。
アユムはエルフと魔族の子供に
意識が削がれる。
「アユム、何故だ?」
アユムに理由を聞くメル。
「何故…?きさまが言うのか?!」
怒りが殺意が強くなる。
「ちょっと…アユム、落ち着きなさい。」
優しい女性の声だが何処か威圧感がある。
白きローブを纏う黒き長い髪を束ねた女性がアユムを制止する。
「ミサキ…。わかった…。」
アユムは剣をめるの喉元へ構えたまま、昔語りを始める。
それはアユム達がアルメーリア
という異世界に連れて来られてからの地獄の日々。
仲間、友、恋人、それらが全て
暝砡の者と名乗る化物が現れ次々と奪っていった事。
そして紅き宝玉”暝砡石”に変えられた事。
その暝砡石は世界を創造せし者に供物として捧げられた事。
異世界人を呼んだ理由が
アルメーリアが均衡を保ち維持する為だけの
エネルギーとして呼ばれ召還された事。
より純度が高い暝砡石にする為、不老にされた挙げ句、恩恵というただ強くなる為に
能力を与えられた事。
語るアユムの瞳から憎悪の涙が
溢れる。
メルはしがみつくカフエリを退かす。
「アユム。メルで気が済むなら殺れ。」
「だが…この子達だけは…。」
「守って欲しい。」
優しく微笑むメルは、
涙ぐむカフエリとフエンを想う。
「殺ったら、絶対に許さない!」
「私達が必ず…!」
カフエリとフエンは子供の顔とは思えぬ表情でアユムを睨みつける。
「確かに止めた方が良いかもね…。」
気が付くとミサキの横に
綠炎の鬼神フグエルレンが
魔力を高め圧力を与えていた。
恐らく自爆するつもりだろう。
そんな事をすればこの辺一体は
何も残らぬ焦土と化す。
(何なんだ…一体。)
それはそうだろう。
今までアユム達マレビトが、戦って来た者『暝砡の者』は創造神の命に対して忠実であった。
マレビトの確保と結晶化を行う為であれば、何であろうが平気で利用し目的を果たす。
化物、まさにそうであった。
現にアユムの友であった者を
人質に取られ窮地に陥った。
他にも心を壊された者。
身体の一部を奪われた者。
様々な者達がアルメーリアを
維持する為の犠牲者となっていた。
その中にはアルメーリアに住まう何も
知らない弱き民も含まれる。
なのにそんな化物を慕い
幼き子供が自らを掛けて暝砡の者を庇う。
強者のみにしか興味を持たぬ
魔族が、それらの意志を、
汲み取る様に最も忌み嫌う自爆。
己が身を犠牲にしようとしている。
「多分、この子は特別なのよ…。」
メルを指さすミサキ。
曲剣を収めメルの身体を起す
アユム。
「わかった…。条件がある。」
「それを、のめるか?」
頷くメル。
「ミサキ。メルの持つ暝砡に関する記憶を全て消してくれ。」
「メル…もしも、お前が、僕の大切なものを奪ったら…。」
「次は無い。」
メルの瞳を真っ直ぐに見つめる。
心の何かで納得すると
白きローブを纏うミサキが
メルの額に手を当てる。
ミサキ、クラウディアはノボルを守る
七人の天使の一人”忘却のミカエル”。
能力もその通り名と同じ『忘却』である。
相手の全ての記憶を奪い時には書き換える事ができる。
それは触れなくても見ただけで可能なのだ。
使い方次第ではある意味、最強である。
今は、訳があり神サガワノボルとは距離を
置き、アユムと行動を共にしていた。
そしてメルの額から複数の文字が浮かび上がる。
ミサキは、その中から一部を
掴み砕いてしまう。
メルはそのまま意識を失い
倒れてしまうのであった。
あまりの威圧感と展開で何も言えずに固まっていたロウガとカヨウ。
何かを思い出しアユムの元に
走り駆け寄る。
「アユム様!ご連絡が遅くなり申し訳ありません。」
膝をつくロウガ。
「確かにマイダは、ノボル様の法に背いていました。」
事の成り行きを報告するカヨウ。
どうやら二人はアユムの仲間らしい。
アユムの命でマイダの元に
潜入し夢を操作され今まで記憶を失っていた事。
何故かメル達を見張らなければと思い共に
行動していたと話す。
そしてもう遅いがメルは決して
仲間を傷付けない。
その様な人物であり自分達も
救われた事を伝えるのであった。
「本当に申し訳ない!」
カヨウとロウガはフエン達に深々と頭を下げる。
「もしも…メルに何かあったら許さない。」
フエンとカフエリは二人を睨む。
背中に冷や汗が滲むアユムは、ミサキに視線を送る。
(あちゃ~…。やっちゃった。)
首を悲しげに横へとふるミサキ。
「メル達を丁重に運べ!」
(しかし…。暝砡とはいえ…。化物だな。)
アユムが切り落とした足の傷口が塞がっていくのを見つめていた。
アユムはカヨウとロウガを
少し睨み、小さなため息をする。
生き残ったゴーレムに命じ
メル達を町へと運ぶアユムであった。




