ジゴクノスナ
容赦なく照りつける日射し。
いくら、歩けど、歩けど、一面白黄色の砂漠が広がる。
右を見れば熱を帯びた十字の傷がある岩壁。
左を見れば干からびた骸。
前を見れば砂嵐。
同じ光景がずっと続く。
はぁはぁはぁ…。
身体に含まれる水分など
もう一滴も残されていない。
灼熱の猛暑によりメル達は
生命の危機に瀕していた。
「メル…本当にこっちで合ってるのか?」
飛ぶ事を諦めフエンの肩に乗る
小さき飛龍。
「…喉、いたい。」
「………うん。」
口数が少なくなる、カフエリとフエン。
「だめだ…。もう死ぬ…。」
同じ事をずっと訴え、上半身裸で歩くロウガ。
「………みず……み。」
唇が渇きそこから血が滲むカヨウ。
メルは上空にある、陽炎の町ヘと向かう為に”風駆りの窓”を探していた。
マイダとの戦闘に勝利した
メル達はアユムが造りし安全地帯。
陽炎の町を目指し
『地獄の果て』という
砂漠を歩いていた。
砂漠地帯に入ると上空に
陽炎の町がすぐに見えたので
変化の手袋を外し
大空に飛び立つメル。
だがいくら飛んでも距離が
縮まない。
メルの中にいる、GOMINIの知識と意識がその理由を説明する。
アユムの結界が陽炎の町を覆う。
故に直接的に入るのは不可能である。
だが…上空にある陽炎の町へ
行く為には、ある謎を解かねばならなかった。
“光の時刻が支配する間。空蝉の白壁『風駆りの窓』覗きし者のみが天へと導かれる。
この謎と言葉だけを頼りに
メルは白壁を探していた。
「はぁはぁ…。白い壁をみつければ…、町へ…、行ける。」
だが…。白い壁など、全く見つからない。
そして前方で吹き荒れていた
砂嵐がメル達を襲う。
「みんな!、地面に伏せろ…。」
メルが後方にいる仲間達ヘと
声をかける。
巻き上がる激しい砂煙で
視界が悪くなる。
下手に動けば、はぐれる恐れが
あるために砂嵐が過ぎ去るのを待つのである。
フエンが懐にフグエルレンを入れる。
そしてフードを深く被る。
皆も伏せて砂嵐をやり過ごす。
激しい突風と時折、口に砂が
入るがそれに耐える。
徐々に風が弱くなりメルは
顔を上げる。
背後に先ほどの砂嵐が渦巻いていた。
メルは辺りを見てある違和感を感じた。
それは先ほど見た十字の傷がある岩壁。
そして干からびた骸がその場にある。
まるで同じ所に戻されているかの様であった。
(アユムなら、もしかしたら…。)
干からびた骸に何かあるかも
知れないと考えたメルは、調べる。
だが何も見つからない。
カヨウとロウガは、哀れな亡骸の持ち物を
漁る、メルを見て軽蔑の眼差しを送る。
だがそれを否定する程の体力も残されてはいなかった。
ドサッ…。
カフエリが力なく倒れる。
慌てて駆け寄るメル。
額を触ると熱く呼吸が荒い。
恐らく強い日射しと暑さで
日射病か熱中症になったのだろう。
メルは自分の水袋から
残り少ない水をカフエリの口に少しずつ流し込む。
もう仲間達には限界が迫っていた。
GOMINIを取り込んだ事で少しならアユムの能力を使える。
魔力を集め、役に立ちそうな物を思い浮かべた。
メルは白い壁の事を考えすぎて
マルビロのパン屋にある壁を
(トレース)で作り出してしまった。
様々なパンが描かれた壁である。
それをフグエルレンだけが理解して笑ってしまう。
その壁で出来た日陰へとカフエリを運ぶ。
フエン達もそこへ呼ぶメル。
カヨウとロウガもその壁に寄りかかる。
そして水袋の水を、飲み干していた。
メルも、水袋に残された最後の水をフエンに渡す。
だがフエンは首を横にふり断る。
何故ならばメルは、この砂漠に来てから一滴も水を口にしていないからである。
乾いた口唇がひび割れ砂粒がつくメル。
「大丈夫、ゴブリンは、喉が渇かない。」
不器用な嘘をフエンに伝えると優しく頭を撫で、無理矢理に飲ませようとする。
「だめ…メルの分ない。」
優しく強い紅い瞳がフエンを見つめる。
小さく頷くフエンは瞳から流れる何かが頬を伝う。
喉を通るものが心を締め付ける。
フエンは何故、自分達にここまで優しくするのか理解できないでいた。
そのやり取りを見て、
カヨウとロウガは、自分達の
弱さを突き付けられている気分であった。
「メル…ありがと…。」
カフエリが荒い呼吸を整えながら出た言葉。
どの様な想いからでたのかは
本人にしかわからない。
フエンのローブの中からモソモソと出てくるフグエルレン。
「ふと思ったが…メル。」
「以前GOMINIが言っておった言葉がヒントにならんか?」
メルはGOMINIの言葉を思い出す。
(陽炎の町は外界と通じない。)
(GOMINIが町に入る”証”だと言ってたな…。)
太陽の動きが変わり
パン屋の白き壁から伸びる影。
渇いた白黄色の砂を覆う。
メルは何かを思い付く。
白黄色の地面に窓枠をトレースする。
窓が淡く光ると外側に開く。
中を覗くメル達。
そこには緑生い茂る草原が
広がっていた。
カフエリとフエンを抱え飛び込むメル。
その後を追いかけるカヨウと
ロウガであった。
そして…「ワシを、置いて行くな!」肥えた身体のせいで
速く飛べぬ飛龍も後をゆっくり追いかけるのであった。




