アラタナデアイ
現実の貯蔵庫に辿り着いたカフエリとフエンは、鉄格子の前で足を止めた。
中にはメルやフグエルレンだけでなく、
多くの人々が眠らされている。
村正を構える、カフエリ。
「待って…。ここじゃだめ。」
フエンの一言で動きを止めるカフエリ。
ここで派手に戦えば、囚われている人達を
巻き込んでしまう 。
二人はマンティコアとの戦い方に頭を悩ませていた。
その時だった。
不意に、貯蔵庫の中から地響きのような
唸り声が上がった。
眠っていたはずのメルとフグエルレンが、
無意識のまま、本能に突き動かされる様に
大暴れを始めたのだ。
一瞬の閃光。
番人であったマンティコアは抵抗する間も
なく、バラバラに引き裂かれた。
さらに異変は加速する。
小さき飛龍だったフグエルレンの姿が、綠炎の炎を纏い、魔族の神"綠炎の魔神"へと変貌を遂げた。
フグエルレンの身から放たれる綠炎の炎が
全てを焼き尽くす。
メルの身体からは制御不能の凄まじい魔力が解放される。
その余波でマイダの根城そのものが歪み始める。
空間に亀裂が走り、深い闇の空間が出現した。
それは全てを飲み込む深い闇の穴となり、
周囲の物質を貪り呑み込んでいく。
「危ない、みんなを連れ出さないと!」
フエンとカフエリは、危険を顧みず、必死に眠っている人々を運び出そうとしたが…。
幼い少女たちの腕で助け出せたのは、
わずか二人だけだった。
残りの人々、そしてマイダの根城は、
荒れ狂う爆炎と、深い暗い闇に飲み込まれ
焼き尽くされる。
その破壊の渦には、自身の夢に溺れたマイダも含まれていた。
けたたましい地響きと凄まじい熱波が周囲に広がる。
崩壊は止まらず、爆炎と闇は周囲一帯をも
飲み込もうとする。
「メル! フグエルレン! 止めて!!」
フエンとカフエリが必死で叫ぶ。
その声が届いたのか
はたまた、マイダが闇に呑み込まれた事で、"悪夢”の術が解けたのか。
二人はようやく深い眠りから覚醒した。
目を開けたメルとフグエルレンが最初に見たのは、涙目で自分達を呼ぶフエンとカフエリの、元気な姿だった。
夢の中で絶望を味わった二人は、
現実の少女達が無事である事を確認すると、
年甲斐もなく涙が溢れる。
二人を壊れそうなほど強く抱きしめた。
燃え盛る魔神と大男が小さく幼い子供を
泣きながら、抱き締める姿は異質な光景で
あった。
落ち着きを取り戻し、事の成り行きを二人
から聞いたメルとフグエルレン。
あまりに規格外な自分達の、暴れっぷりに
思わず笑い合ってしまう。
だが同時に、七人の天使という
存在の恐ろしさを再確認し、
改めて気を引き締めるのだった。
やがて、救い出された二人の生存者が
目を覚ました。
獣人族の青年の一人はロウガ。
もう一人は赤髪の人間族の女性カヨウ
と名乗る。
その顔を見た瞬間、メルとフグエルレンは、奇妙な懐かしさを感じとる。
それもその筈であった。
ロウガは現代で共に旅をした仲間メグラの
父親である。
そしてカヨウは、同じく旅の仲間であった
ユウの大叔母だったのだ。
二人はマイダが造り出した夢の中で、
顔まで迫っていた黒い棘の呪いで死を覚悟していた。
だが突然現れ、夢の中で暴威を振るった
メル達の圧倒的な姿を見て、同行を志願する。
一方、フエンのフグエルレンに対する接し方は一変していた。
「フグエルレン様!」
仰々しく跪くフエン。
普段は怠けてばかりの小さな飛龍が、実は
魔族の神”緑炎の魔神”そのものだったと
知ってしまったからだ。
それ以来、フエンはフグエルレンに対してだけは、畏れ多くも丁寧な敬語を使う
ようになってしまうのだった。
最初は嫌がっていたフグエルレンだが…。
今は、まんざらでもなく、
より、肥える元となるのであった。




