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ジュウシャノツトメ


星屑の光を抜けると一面に

草木1本も無い世界が広がる。

GOMINIは、アユムの命を受け

静かに、眼鏡を外す。


目の前にいるのは、まだ心も癒えていない幼き弱者。


突然別の空間に飲み込まれて

怯え震えるカフエリとフエン。


GOMINIは

「これから、メルさんでも苦戦する『神』……マレビトとの戦いが待っています。」


怯える二人の子供を見つめ伝える。


そしてアユムから命じられた使命。


二人を守りながらでは、メルすらも命を落とす。


そして、もしメルが死んだとしても、この子たちが独りで生きていけるだけの力を。


「これが従者としての最後の役目です。」

投げ捨てた眼鏡は、カシャンと

地面に落ちる。


GOMINIはアユムから授かった『トレース』の力を解放した。


現実の10倍の速さで時が流れる、静寂の修行空間。


そこに、三体の魔物が這い出る。


現れたウォーウルフは、飢えているのか口からねばついた涎を垂らしていた。


二人の子供を明確な”獲物”と

捉え、鋭く冷たい爪をゆっくりと舐める。


カフエリとフエンは、その痩せ細った見た目に一瞬だけ、憐れみにも似た油断を見せてしまう。


それをメルが見逃さなかった。


「敵!よく見ろ!」

メルの叫びが響く。


二人は前を向いたまま、短く頷く。


気がつけば、ウォーウルフの爪はもう足元からカフエリの顔面へと迫っていた。


空を裂く、死の風。


ガキィーン!

脈動を放つ村正がその一撃を弾く。


そしてウォーウルフの背後に回り反撃をしようとするが…。


鋼鉄の壁が立ち塞がる。


ジェネラルゴブリンだ。


強靭な肉体で村正の一撃を耐えると

ウォーウルフを庇うように、

当たれば即死のバトルアックスを

無造作にカフエリへと振り下ろす。


さらに後方。


狡猾なブラッドデモンが、

濁った瞳で二人を観察していた。


傷付いたジェネラルゴブリンを癒す

闇魔法(マギラ)を唱える。


みるみると村正でつけた傷が消えていく。


また何かを唱える。


紫と緑の煙が触れたものを

ドロドロに、腐らせていた。

これは闇魔法「マラカ」であった。


逃げ場のない、絶望の包囲網。


(怖、い…、殺、される。)


フエンは、恐怖で動けない。


エルフの子供を手こずると

視線をフエンに向けるウォーウルフ。


地面を力一杯に蹴る。


凄まじい速度でフエンの側に

近づいていく。


カフエリが助けに向かおうと、するが

ゴブリンジェネラルがそれを許さない。


どうやらブラッドデモンが指示を

送っている様子。


フエンの間合いに入るウォーウルフは

右手の、冷たき爪を振り下ろす。


(どうしよう…フエンが、、!)


その時、カフエリの手の中で『村正』が”

ドクン”脈打つ。


「……案ずるな、カフエリ。某に身を委ねよ」


村正の意識が、幼いカフエリの肉体に吸い込まれる。


カフエリの表情が鋭く変わる。


ゴガァア!


巨大な肉体を持つジェネラルゴブリンを足蹴にし村正を構える。


『瞬斬』!


一足飛びでウォーウルフの元に飛ぶ。


ズシャーン…。ボトッ。


血飛沫がフエンとカフエリの身体を死の色に染める。


ウォーウルフが力なく倒れる。


ブラッドデモンがまた紫と緑の腐食煙を放つ。


カフエリは静かに村正を構え

腰を低くする。


『無桜』…。


刀芯から淡い光が覗く。


シャン。


腐食煙がサァーと消え失せる。


そのままブラッドデモンの手に傷を与えた。


ジェネラルゴブリンの方に視線を送る。


するとカフエリの元に走って来た。


近付くにつれ地響きが大きくなる。


今度は村正を真っ直ぐにジェネラルゴブリンの胸へと構える。

『水閃蛍』

トンッ…。ザシュン。

分厚い筋肉を貫く村正。


刀の先から紫色の血が伝い流れる。


村正の意識を取り込んだ、カフエリの身体が、まるで新緑を駆ける風のように舞う。


言葉も発する事すら出来ずに

倒れるジェネラルゴブリン。


しかし…。

先ほど倒した筈のウォーウルフが蘇っていた。


ブラッドデモンが闇魔法の

『マキラ』で再生させてしまう。


そして気がつけば、ジェネラルゴブリンも

ブラッドデモンによって再生する。


(キリがない…。)


そしてカフエリの肉体にも異変が起こる。


村正の力がまだ幼いカフエリにとって

凄まじい負担がかかり、身体の限界が

迫っていた。


息を荒くなるカフエリ。


それを見逃さず、ブラッドデモンが

不気味な笑みを浮かべる。


カフエリが力尽きるのを

待つかの様にウォーウルフと

ゴブリンジェネラルが交代で

襲いかかって来る。


危険を察知したメルが向かおうとするがGOMINIとフグエルレンが静止する。


カフエリの脚がもつれる。


ウォーウルフの爪がカフエリの身体を裂く。


(死んじゃう、嫌だ…、嫌だ!)


アルテミスの弓がフエンの意識に語りかける。

(ねぇ、たぁすぅけぇたいぃ?)


小さく頷くフエン。


フエンの肉体に吸い込まれる

アルテミスの弓。


青紫色に燃え上がる炎が

フエンを包み、潜在能力を暴走させた。

「燃えろ。『エン』」

右手から放たれた綠炎の火炎は、ウォーウルフを焼き尽くす。


そして同時に左手から青紫色の炎がカフエリ目掛け放たれた。


「治癒。『ヨウ』」


カフエリの傷が塞がっていく。

しかし、血を流しすぎたのか

動けない。


ゴブリンジェネラルが

動けぬカフエリに止めを刺そうとする。


手と足の動きが複雑な旋律を刻む。

「生まれよ。『フレイム』」

炎の精霊『フレイム』が姿を現す。


身長180cm程。

右側が鬼、左側が人間。

メルにどこか似ている、

引き締まった肉体を持つ精霊。

実体を持たないフレイムは、

敵の刃をすり抜け、炎の剣と矛でカフエリを慈しむように守り抜いた。


「安心しろ。あれなら、大丈夫だ。」


フグエルレンが達観していた。


突然にGOMINIはメルに歩み寄る。

「メルさん……。」


「陽炎の町に着けば、もうアユム様とは

連絡が取れません。」


「外界とは遮断されている町ですから…。」


それを伝えるとGOMINIは自分の胸を開け

真珠の様に光る玉を、メルに渡す。


「これを、食べてください。私の知識の全てを、あなたに」


メルは当然に断る。


GOMINIは、更に渡す意味を伝える。


「僕はもうじき動けなくなります。」


「アユム様から貰ったエネルギーが底をつくので…。」


ならば現代に戻りアユムからエネルギーを貰って来るとメルが伝える。


小さな石ころが静かに首を横に降る。


「それは出来ないのです。」


「過去に来た時点で、私もメルさんも過去の”異物”として処理されます。」


「現代に戻れば、その時点で時の崩壊に

繋がります。」


GOMINIは「ありがとう」と一言だけ話すとメルにコアを握らせた。


そして動かなくなるGOMINI。


何故か脈が速くなり傷も無いのに

胸が苦しい。


メルがコアを飲み込むと、

不思議と頭の中が晴れ渡っていく。


そして意識の中でGOMINIの声が響く。


「一週間程で、私の自我はメルさんの中に

取り込まれます。」


「それまでに、私の知識をメルさんに定着させますので、ご安心下さい。」


一週間でGOMINIの自我は消え、メルと完全に一つになる。


それが、GOMINIが選んだ“相棒”としての

最期だった。


カフエリとフエンの方も

決着がつきそうであった。


フエンの使役するフレイムが

ゴブリンジェネラルを焼き付くす。


カフエリはブラッドデモンの

首を跳ねる。


修行が終わり、魔物が消えた跡には、

二つの防具が落ちていた。


カフエリには、新緑に紅い線が走る

アーマー。


フエンには、漆黒に流れ星のような赤が差すローブ。


成長に合わせて形を変え、

炎を跳ね返し、傷を塞ぐ奇跡の防具。


役割を終えた武具たちが、二人の手から離れる。


村正は、重厚な声で告げた。


「某と貴殿とならば、斬れぬ者無し。」


一方、アルテミスの弓は、拍子抜けするような声で笑う。


「私ぃ、しっかり使いこなしてぇね~!」


ギャル語を残し、武器たちは静かに眠りについた。


残されたのは、強く、逞しくなった二人の背中と、知性を宿したメルの瞳。


そして二度と動かぬ石ころの姿だけであった。





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