ヒツヨウナアク
GOMINIから聞いたエデンへと向かう道のりは、恐怖の連続であった。
旅人の肉を喰らう樹木トレント。
ただひたすらに生者の血肉を
求めるゾンビ達。
もう何度も死ぬ。
そう感じては命懸けで逃げ切れる脚力。
さすが異世界から来た者であった。
そして…。
巨大な城壁に囲まれた要塞が
見える。
ユウトは何度も頭の中で
言われた作戦をシュミレーションしていた。
(まずは城の外にいる者に助けを求める。)
(自分は異世界から来て、どうすればいいのか困っていると言えばよかったっけ…。)
(その後、確か、自分の能力を話せばいいよな。)
(出来るかな…逃げようかな、。)
すると脳裏にアユム達が必ず
挨拶をしに行くという言葉が、何度も、何度も木霊する。
重い錬金釜を背負うカワサキの
手には汗がじっとりと滲む。
もうエデンの入り口が見えてきた。
(ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。)
息が荒くなる。
二つの影が近づく。
その者達は十字架を刻まれた
フルプレートを着けているが
首には銀色の首輪をつけられていた。
恐らくは奴隷と門番を兼ねているのだろう。
「おい!そこの者。」
「ヒャい!、ぼぼ、僕!」
いきなり声を掛けられ
驚き自分を指差すユウト。
「そうだ!お前しかいないだろう。」
「ここは神の領地エデンだ。」
「なぜここへ来た?」
(きた、きた、シュミレーション通りに…。)
銀色の首輪を着けた者達に
「あのここは何処ですか?」
「気がついたらここにいて…。」
「変な化物には襲われるし。」
「何でもするので助けて下さい!お願いいたします!」
必死で何度も頭を下げるユウト。
何かひそひそと二人は話し合っている。
すると一人の門番が
「すまないが、今、神をお呼びするので、少々お待ちいただけるか?」
急に態度が柔らかくなる。
「はい、お待ちします!」
額から凄い汗が出ている。
ユウトを不憫に思ったのか
門番の一人が自分の手拭いを渡す。
「ありぃがぁとお!ございます!」
声が裏返るユウトに笑う門番。
するとガチャガチャと鉄の鎖が
擦れる音が聞こえる。
分厚い鉄の扉がゆっくりと開き
中央には白いローブを羽織り
フードを深く被る者が現れる。
「あなた…の名は?」
何かに怯えた様な、か細い女性の声。
「僕。カワサキユウトと言います。」
「そう…。私はミレイ。」
フードの奥から少しだけ覗く
瞳は時を刻む砂時計が映る。
「あの…何でもするので助けて下さい!お願いいたします。」
何度も頭を下げるユウト。
「何でも、ここではそんな事、、言わない方が良いわよ…。」
唇を噛み締めるミレイ。
威圧感を感じるが、どこか寂しげに感じた。
「ユウト、あなたの能力は何?」
「僕は錬金術師です。後はまだよく分かりません。」
「ただ、この錬金釜はここに
来た時には背負ってました。」
ミレイは一言
「ユウトは、運が良いわね…。」
そう言うとエデンの中に招き入れる。
(う~ん…作戦成功したのかな…??)
カワサキユウトは目の前を淡々と歩くミレイの様子を探る。
「そんなに怯えないで…。」
「この門を通れた時点であなたは”彼に認められた”のだから。」
ユウトは意味を対して理解していない。
とりあえず挨拶が基本だと元気よく
「ありがとうございます!」
とだけミレイに伝えた。
何故かクスッと笑われる。
「ごめん、なんか…懐かしくて。」
声が暖かく優しく聞こえる。
(なんか話しに聞いていた感じと違うな…。)
(フジサワみたいな奴ばっかだと…。)
ユウトはアユム達から聞いていた神と呼ばれる異世界人の印象が少しだけ変わっていく。
そして奴隷の国と聞いていたので悲鳴や泣き叫ぶ者達が溢れかえっていると思っていたのだか…。
想像していたものとは違っていた。
確かに銀色の首輪を付けている者達は沢山いる。
店に売られている物を食べている者。
酒場に寄る者もいる。
談笑している者もいる。
雰囲気が普通の町なのだ。
ユウトは、鞭で叩かれ無理矢理に働かされている奴隷の姿を想像していた。
様子を察したのかミレイが
「ユウト、何かあった?」
その問いに正直に答えるユウト。
「実はさ、ここに来る前に、この場所は奴隷の国て、聞いていたんだ。」
「だから、怖いムキムキのおじさんが鞭を、奴隷相手に振り回してさ。」
「無理矢理に働かしているかと思ってた。」
それを聞いたミレイはまた
クスッと笑う。
「ムキムキのおじさんねぇ…。」
「私も初めてここに来た時は、そう思ったわ。」
何故だろうか?
ユウトは、それをミレイから、告げられ「でしょ!」とため口になる。
知らないとは恐ろしい事である。
先ほどから親しげに話をしているミレイとは。
神を守護する七人の天使と呼ばれる者。
時の女神とも、復活の天使レミエルとも呼ばれている。
七人の天使は
神の腹心であり
守護する者でもある。
実力はその異名の通り、計り知れぬものがある。
そしてイロカワアユムもその
天使の一人だとはグランさえも知らない事実であった。
急に強い風が吹き荒れ
ミレイの白いフードが捲れる。
細長い黒髪が風で美しく揺れる。
砂時計を刻む瞳と透き通った白き肌。
そしてあどけない女性には
似つかわしく無い、無数の傷跡があった。
ユウトは見惚れていた。
慌ててフードで隠すミレイ。
「醜い顔だろう?この世界に
来た時に…。付いた傷だよ。」
踵を返し背中を向ける。
「えっ、とても綺麗で女神様かと思った。」
真顔でミレイの方を見て伝える。
「なぁっ!……。」
「まずはエデンの主フジサワに会うぞ!」
ユウトの方を振り向く事はなく早歩きで動く。
息がきれぎれになりながらも
ミレイを追いかけるのである。
悪趣味な阿修羅の絵が刻まれた扉を開ける
ミレイ。
(きちゃった、きちゃった…。)
ユウトは内心ドキドキしていた。
何故ならば背中の錬金釜には
メル達が入っている。
もし中を見られたら…。
最悪の事態しか浮かばない。
「オウ。ようこそ我が城へ。」
赤い玉座に座るフジサワが
両手を広げユウトを見下す。
額から汗が止まらない。
その様子に一瞬で弱者と思う
フジサワは、高圧的であった。
「おい!お前何ができんだ?」
「役に立たないなら、すぐに放り出すからな!」
「分かったか、おい!」
ユウトは震えながら頷く。
「声をはれや、聞こえねぇ~ぞ!」
(…また。)
「それよりも、フジサワ。」
「暝砡の血を潰した?」
ミレイが話題を変える。
高笑いをしてフジサワは
「あぁ、ブッ殺したぜ!」
「ゴミくせぇから今頃グール達に喰われてるかもな。」
表情を何一つ変えないミレイ
「そう…ならノボル様も喜ぶわ。」
「じゃあノボル様の契約通り
私達の同士をお願いね。」
その一言で舌打ちをするフジサワ。
分かったと手を降りユウト達は
王室から追い出される。
外では首輪をつけた耳が尖った青い髪のメイドが丁寧にお辞儀する。
「ユウト様、お部屋はこちらです。」
跡をついて歩くユウト。
「ここがユウト様のお部屋です。」
北側の物置小屋に案内される。
鉄の間凪を掴み押す。
ギギィギィ。
軋む音と長年使われていないのか湿った埃とカビの臭いが新しい客を出迎えた。
「ゲホッゲホッ。」
身体に悪いものを吸い込んでしまいむせる。
するとミレイは
「もっと良い部屋にしたいなら出世する事ね。」
皮肉を込めてユウトに伝えると
用事が済んだと振り向き歩く。
「ミレイさん、ありがとう!」
ユウトは手をふり感謝すると
右手を軽くふり上げてそのまま消えて行く。
(さてと…。)
埃まみれの部屋を見つめタメ息をしていると視線を感じる。
先ほどのメイドが黙って立っている。
「あのぉ…。どうしました?」
(できればいなくなって欲しいんだけど…。)
ユウトの質問に淡々と答える。
「フジサワ様のご命令でユウト様の身の回りのお世話を命じられました。」
「何なりとお申し付け下さい。」
それを言うと微かに手が震えている。
(やっぱ怖いよな…きっと。)
「僕の名前はカワサキユウト。」
「ユウトだけで良いよ。」
「よかったらだけど…。名前、聞いてもいいです?」
申し訳無さそうに話すユウトに
目を丸くするメイド。
「あ、えっと、私の名はクレエリと申します。」
「マレビト様の世界ではエルフと呼ばれる種族です。」
「年は…。」
何となく話を遮り、話題を変えるユウト。
(女性の年齢は聞いちゃいけないてばあちゃん言ってたしな…。)
「嫌な事を聞くのですが…。」
「どうして、その、首輪を付ける事になったのですか?」
何故か自分の事を聞いて来る
ユウトに首輪を指でさすりながら答える。
「これは…生きる為です。」
「奴隷として拾われなければ
私達姉妹は…。」
「魔物達の餌になっていたでしょう。」
ユウトは思った事をまた口に出す。
「なら奴隷じゃなくても良いじゃないですか?」
「利用されただけじゃ、無いですか。」
(この人のいた世界は、きっと平和だったのね…。)
クレエリは、下を向いてしまう。
沈黙が流れ埃だけが
ひらひらふわふわと
舞っていた。
「嫌な事を聞いてごめんなさい!」
ユウトはクレエリに謝る。
また驚くクレエリ。
「ユウト様は、優しい人なのですね…。」
「アルメーリアでは戦争が絶えません。」
「異種族間では恨みや憎しみを常に抱いております。」
「その八つ当たりといえばアレですが、弱者がその的になるのです。」
「ですが誰かの持ち物となれば話しは別です。」
「相手の物を壊せば、重い罰を受けますから…。」
「だから…奴隷として引き取ってくれた
サガワノボル様には感謝しか無いのです。」
ユウトは
「クレエリさんは強くて優しい人?方かな、ですね。」
そう言うと後は自分でやるからとクレエリに伝える。
「では、何かありましたら隣の部屋におりますのでお申し付け下さい。」
会釈して部屋から出ていくクレエリ。
ユウトはそっと扉の隙間から辺りを見渡す。
人の気配は無い。
錬金釜の蓋をそっと開けて中を覗くと
メルとフグエルレンは寝ている。
(こいつら……!)
少し言い知れぬ怒りを感じていたユウトであった。




