コンワク
流永の鴉が弾け、暗闇の中に
ぽうっと灯りが見える。
黄色い欠片がポトリと落ちる。
メルは鼻の穴を収縮させると
いきなり黄色い欠片を食べる。
ポリッポリッ。
「うん…。うん?うーん。」
腕を組み悩むメルに対し
フグエルレンが呆れながら
「落ちてる物をオヌシは、よく食えるな?」
「しかし、どうしたメルよ?」
すると…。
「味無い!塩欲しい。」
「そっちかい!」
GOMINIが思わず、メルの感想にツッコミをいれる。
フグエルレンはもぐもぐと
口を動かすメルを放っておく。
黄色い欠片についてGOMINIに
尋ねる。
「はい流永の鴉が落としたドロップアイテム『耀刻の軌跡』についてですね。」
耀刻の軌跡とは。
時の扉を守護する番人が持つ
継承の証。
閉じられた過去の扉を開ける
権利を持ちます。
注意
時の継承者は
年に一回”世界を創造せし者”に
経過報告と供物を捧げなければならない。
供物とは、時を遡る為に払う
代償の事である。
得意気にGOMINIが眼鏡を
クイッと上げる。
「他に聞きたい事はありますか?」
耀刻の軌跡を食べ終えた
メルは歯の間に挟まった破片を取りながら話す。
「時、使い方、簡単、教えろ。」
カタカタとまた動くGOMINI。
「はい流永の扉を開ける方法ですね。」
「流永の扉には鍵穴があります。」
「開けたい過去の扉に行き羽根を鍵穴に差して下さい。」
「時の継承者が持つ羽根が鍵になります。」
また得意気にGOMINIは眼鏡をクイッと上げる。
パタパタと小さな翼をはためかせるフグエルレン。
メルの肩へ疲れたと休む。
「なぁ…、メル。おぬし、羽根無いぞ。」
背中を眺め見ている。
……………………………。
小さな沈黙が流れる。
「もしかして、わしら、ここから一生出れんのか?」
その一言にGOMINIがバタバタと足踏みをする。
「少々、少々、お待ち下さい。」
「他に方法があるか検索します。」
「検索中、検索中、検索中…。」
暗闇にただ浮かぶ無数の扉を
見ているのか、
頭の中にある大量の情報から
救いのある言葉を探しているのか、
GOMINIだけが知っている。
「アノ…。」
背後で呟く何か。
しかし、それどころではない
メル達には言葉が届かない。
諦めずにまた何かが
「アノ…。」
やはり聞こえない。
「すいません!!僕の話を聞いて下さい!!!」
メルとフグエルレンが声のする方へと振り向く。
そこには身体全体が透けて
足が無く浮いている男の姿があった。
ギィャァーーーーーーー!
翼でも、もぎ取られたかの様に叫ぶフグエルレン。
あまりの甲高い声に耳を塞ぐ
メルと宙に浮かぶ男。
GOMINIは微動だにせず、まだ
遠くを見ている。
「メッ、メ、メルは平気なのか?」
宙に浮かぶ男を怯えた眼で
こっちに来るなと睨みつける。
「何が?」
メルは首を傾げる。
宙に浮かぶ男は、フグエルレンを無視してメルに自分の事を話し始める。
「僕は…カワサキユウトと言います。」
「気が付いたらこの場所にいて…。」
「変な化物に試練を受けろとか言われて。」
「…でも、何の事か分からなくて。」
「身体に少しでも傷をつければ合格みたいな事を言われ。」
「出来なければ代償を払えとか無茶苦茶な条件を出され。」
「結局、何も出来なくて化物に食べられました。」
「あのぉ、いきなりですが、僕をここから出して下さい。」
宙に浮かぶカワサキは瞳一杯に涙を溜めている。
カワサキユウトが非力故に
流永の鴉から与えられた試練を
失敗したわけでは無い。
流永の鴉は全身にこの世界では最高の硬度を持つ霊験水晶で覆われている。
あのグランとアユムもこの試練には苦戦した。
その時はグランが流永の鴉を
縛り上げアユムが時の流れぬ
実験室に運び込む。
そこでは、通常であれば
トラウマになるような事を
流永の鴉に行い続けた。
それでも傷を一つ、つけれず
グランが1時間だけ、過去に戻りマルビロの至宝”全てを断ち切る剣”を借りて使用してもやはり
駄目であった。
アユムは自棄糞になり
溶岩を造りだし縛り上げた
流永の鴉を放り投げた。
実は凄まじい硬度を持つ
霊験水晶にも弱点があった。
それは熱に弱いという事である。
多少の熱ならば効かぬが
さすがに溶岩に投げ込まれれば
熔けてしまうのだ。
そしてメルが一撃で流永の鴉を仕留めれたのも鬼神の綠炎を使えた事が理由であった。
今にも消えそうな自分の手で
メルの手を握り締め、必死に懇願する。
「お金は、無いけど…この釜、錬金釜を差し上げます。」
とにかく必死であった。
そのあまりにも情けない姿に
冷静を取り戻すフグエルレン。
メルは眉を潜め、泣きわめく男に何と声を掛ければ良いか悩んでいた。
さすがは魔族。
フグエルレンは、止めの言葉を
泣きわめくカワサキに囁いた。
「いや…わしらも出れんのよ。」
「それよりも、カワサキ。」
「もう死んでおるから、成仏した方が早いぞ。」
それを聞いたカワサキは
急に力が抜け握り締めたメルの手を離した。
「成仏ねぇ。それができたら
とっくにしてますよ!!」
「ほら、周りを見て下さい!」
メルとフグエルレンは
周囲を見渡すと暗闇の中で
幾つものすすり泣く声が
聞こえる。
「肉体を失い、行き場の無い魂はここから出れないんです!」
そして……。
検索を終えたGOMINIが
小さく蹲る。
「解決策が見当たりません。」
「閉じ込められました。」
肩から落ちるフグエルレン。
メルは右手のはめた変化の手袋を見つめる。
「大丈夫!」
希望に満ちた紅い眼を見開くのであった。




