センメツノゴニン
ここで一章(始まり)を終わります。
次からは二章(漂流者)が始まる予定です。
グランの考えた策は、
常軌を逸していた。
たった五人で
10万の蠢く死霊達と
4万のディロア軍を退ける策。
作戦自体は極めて単純であった。
最初にフエンがマルビロの城壁から死霊達に炎の雨を撃ち込む。
残りの死霊達とダークナイトをユウとメグラが倒す。
メルフォード率いるディロア軍
4万をメル一人で戦えと話す。
しかし全ての兵士ではなく
ディロア軍に化けた魔物を
200体倒す。
そうすればディロア軍の洗脳が解け動かない。
残りの勇者メルフォードクラウディアは、グランが何とかするとの事。
フエンは城壁から仲間達を見て
劣勢な方を援護する。
そしてなるべくディロア軍の
兵士を殺すなと言われたメル。
無茶苦茶である。
青く澄みきった空が急に
熱く真っ赤に染まる。
フエンがアルテミスの火矢を
南西の方角へと無数に放つ。
蠢く死霊達がいる方向である。
だが…。
ゆっくりと落ちるのは火矢ではない。
赤く熱く巨大な炎の雨である。
激しい爆音と凄まじい熱、
そして炎が落ちる度に地面が
揺れるのである。
遠くでは死霊達の悲鳴が
小さく聴こえる。
その光景に一番恐怖を感じたのはマルビロの騎士達である。
あのようなものをマルビロに
放たれたら地図上から簡単に
消え去るのである。
そしてそれを淡々と行う
魔族の少女。
敵にしてはいけないと
誰もが心に刻む。
「おいおいスゲェなフエン!」
「そうね。」
地面が熔け気温が高くなる。
死霊達の群れは半分以下となる。
「じゃぁ俺たちも行くぞ!」
ギャアがぁが…!
メグラとユウは真っ直ぐに敵陣へと突っ込む。
操られているのは本当だろう。
普通ならばあの光景を見て
何かしらの、反応をする。
しかし恐怖も歓喜も何も感じない。
無機質な殺意と破壊だけを望むディロア軍。
メルは嗅覚に神経を集中させる。
ほのかに硫黄の臭いがする。
メルが臭いの元へ走り一瞬で
綠炎の剣で焼き斬る。
グゥギャギャ…。
人間の悲鳴ではない。
紫色の血が流れる。
フグエルレンが叫ぶ。
「メル!後ろ。」
操られたディロア軍の兵士が
銀色の剣を振り下ろす。
バキィーン、カランカタ…。
まともに兵士の一撃が入るのに
メルの肉体に傷一つ与えていない。
頭を掻いているメル。
いや痛みすらも与える事ができないのであろう。
むしろ銀色の剣が折れ兵士の手が痺れて、蹲る。
切れる訳もない岩石を斬った
衝撃と同じ反動が兵士に返されたのである。
ディロア軍に潜む魔物達が
動揺していた。
フグエルレンも驚いていた。
銀色の一撃がフグエルレンにも
振り下ろされる。
試しで受けてみようと
一瞬考えたがやっぱり避けて
空高く逃げる。
メルは更に硫黄の臭いを放つ
魔物を次々と焼き斬っていく。
その頃メグラとユウも死霊達と
戦闘を始めるのだが…。
グランやアユムにも
予想外の事が起きていた。
ユウの聖なる波動を浴びた
死霊達が勝手に浄化される。
ただ走り近付くだけで消滅していくのである。
「なんなの?!!」
「ここは任せたユウ!俺は先に行く。」
メグラは単身ダークナイトのいる方角に走って行くのであった。
漆黒の甲冑を纏う戦士がいた。
その者は斧を構えメグラを断ち切ろうとする。
躱した筈なのに少し頬が切れ血が流れる。
(この構え…。)
メグラは酒呑の金棒を
黒く覆われた仮面に目掛け
殴る。
素早い一撃で甲冑が砕ける。
「嘘だろ…。ゴウ、…。」
両目が抉られそこに黒い炎が宿る。
メグラは酒呑の金棒を放り投げ
育ての親であり尊敬していた
ゴウの亡骸を抑える。
周りの骸達も知った顔が見える。
操られた骸はメグラの
知り合い達だった。
ただ感情もなくメグラに攻撃する。
メグラは反撃をしない。
遠くで見ていたユウが側に行こうとするが…。
「来るな!頼む。」
哀しげなそして怒りに震える瞳
でユウを止める。
「死んだら許さないから!」
そう言うと死霊達の殲滅に向かう。
しかし一人足りない気がする…。
カフエリがこの場にいないのである。
グランの立てた作戦は
もう一つあった。
それは、ダークナイトの本体を
見つける事。
メグラが向かって行った相手は
戦死した骸である。
ここまで言えばダークナイトの能力が何なのか分かるだろう。
そう(死霊使い)ネクロマンサーなのである。
自分が傷つく事を恐れ隠れる
卑怯者。
それがダークナイトの正体であった。
カフエリは、北東の森林に一人入って行くのであった。
(死の匂い。気を抜かれますな!)
村正とカフエリは何かに気付く。
獣人族の亡骸が幾つも横たわる。
「はぁはぁまさか…エルフゥ!エルフゥ!」
不気味な男が鼻息を荒くしている。
「ぼくぅ、ぼくのぉコレクションになってよぉ!!」
男から黒い燃える玉が出てくる。
その玉が亡骸に入ると
獣人族の瞳に暗い光が宿り
動き出す。
(気持ち悪っ。多分コイツね!)
グランはダークナイトの正体を知っていた。
彼の名は『カワシマソウ』
好きなものはエルフ。
ガッコウという場所で
「キモチワルイ」その一言と
有無をいわさぬ暴力に耐え兼ね。
彼は森の奥で首に紐をかける。
気が付くとこの世界にいたと
話していた。
カワシマソウは与えられた能力を欲望を満たす為だけに使う。
彼の家には、何体もの憐れな森人が意思も無く持ち主の帰りを待つ。
魂と肉体を縛られた者達には
永遠と続く苦痛と恥辱が繰り返されていた。
カフエリはその事をグランから聞いていた。
(許せない…。)
禍々しく光る村正の脈が
呼応するように速くなる。
獣人の骸がカフエリの身体を
抑えようとしていた。
わざと捕まるカフエリ。
「グゥフフフゥ、ねぇ、ねぇ。」
「なま、名前なんていうの?」
よだれを垂らすケダモノ。
「そんなに…、私の名前を知りたい?」
欲望を、覗かせ何度も頷く。
カフエリは命だけは取らないでと震え泣く。
「声が出ないの、、もう少し近くに来て…。」
カワシマソウは罠かも知れない
と疑う。
「なぁ、らぁ~、その刀を遠くに投げて。」
カフエリは「私を、殺さない…?」
そう泣きながら伝える。
「勿論!ぼくのい、う、こ、と聴けばね。」
村正をカフエリは遠くに投げる。
辺りを見渡し他に誰もいない事を確認する、カワシマは魔力を強める。
「おい!お前ら、しっかり抑えてろ。」
「ぐふふふっ、かわいがってあげる。」
亡骸のカフエリを抑える力が
強くなる。
苦悶の表情を浮かべるカフエリ。
カワシマソウは完全に油断していた。
いつもの様に”サガワノボル”に貰った支配の芽を飲ませようとする。
ブシュッ!
村正が背後からカワシマの心臓を
深く、鋭く突き刺さり貫く。
「なぁ、な…ぜ…。」
カワシマの濁った瞳から光が
消えていく。
「はぁ、、ホント最低、気持ち悪っ!」
操る魔力が途絶え
亡骸は力無く崩れ落ちる。
(カフエリ殿、よくぞ、耐え申した。)
念じるカフエリ。
村正が持ち主の手に収まる。
血の付いた村正をカワシマの
ローブで拭いメル達の方角に
走って行くのであった。
カフエリ程の使い手ならば
カワシマなどマレビトであっても簡単に倒せる。
しかし警戒心と猜疑心がとても
強いカワシマソウは強者の前には絶対に出ない。
逃がさぬ為に芝居をうったのである。
そしてメルもディロア軍を
操る最後の一匹を切り裂いていた。
メルは汗一つ息も切らしていなかった。
戦況がどうなったのか見渡す。
死霊達が次々と消滅していきメグラを攻撃していた、亡骸も糸が切れた人形の様に力無く倒れる。
(カフエリ。やるな。)
「ここはどこだ?」
「なんだこれは?」
ディロア軍が次々と正気に戻る。
そして自分達のしでかした
愚かな行為を思い出し
後悔と懺悔の悲鳴があがる。
「これはまずいな…!」
紅き眼を持つ勇者メルフォードが黄金に、
輝く剣を構えメルの方へ向かう。
不気味な笑い声と重圧感が
メルフォードにのし掛かる。
「もう…いいんだ、ディア。」
グランが哀しげな瞳で伝える。
勇者メルフォードクラウディアは理解してしまった。
もうこの世に姫がいない事を…。
自分の首に剣を向ける。
グランが止め
「ダメだ生きろ!」
「師匠…僕はまた守れなかった。」
唇の色が代わり血が流れ、
紅き瞳からポタリと怒りと
無力感に襲われ血の涙を流す。
グランが支える様に諭す様に
語り続ける。
「仇を討とう。ディア。」
その救いを拒み自分の首に付けられた従属の首輪を見せる。
「歯向かえばその場で死にます。」
「死は怖くないですが…。」
「奴隷として生きるつもりもありません。」
クラウディアの真っ直ぐな瞳が
無力なグランの心を強く責める。
従属の首輪は魔法ではない。
呪われたイキモノなのである。
魔法ならば賢者であるグランであれば外せる。
だが…。そうではない。
付けた者が外さぬ限り取れぬ。
深い絶望が沈黙がグランと
クラウディアから流れる。
すると戦いが終わったと
空から降りてくるフグエルレン。
メルを呼び「とにかく何とかしろ」と
命令していた。
何と。
適当な、本当に世界を支配しかけた鬼神が
言う言葉であろうか。
従属の首輪がイキモノだと
グランから聞くといきなり
メルは首輪に噛み付く。
ヒィャァ…。バキバキ。バリバリ。
「うん、まずいな。」
メルは従属の首輪を食べてしまったのである。
グランは暝砡の力(聖不の種族)
全てに属さぬ、解き放ち
封じる者として文献に残されていたのを
思い出していた。
(これが…暝砡の力なのか…。)
モグモグと口を動かすメルに
図り知れぬ希望を感じていた。
そしてたった五人でこの絶望を
退けた事で
彼らの事を後に(殲滅の五人)としてマルビロでは語り継がれるのであった。




