タロノブグ
ドンッ!スゥンンンン、。
気の流れを右足に集め跳ぶ。
黒く溶けた地面の砂煙を巻き上がる。
蠢くグラン達が一斉にメル達に死へと誘う呪音
〖ヘルホール〗
地の深くから魂を引きずり込む様な力を感じる。
メルとメグラは大地を震わせる
雄叫びを上げる。
グルオォオオオオオオオオ!!
「くっっ!耳の鼓膜が破れる。」
アユムは耳を塞ぐ。
戦いによる高揚なのか
強者と認めたのか…。
頬を上げ脈が速くなり
体温が徐々に高くなる。
「良いよ、もっと、もっと、もっと!」
両手の曲刀を逆さに持ち
足の運びが緩やかなステップを踏み陽炎の様に見える。
ヒュッッッッ。シャッン!
メルの、右肩から斜めに赤き血か飛び散る。
(危な、っい。…速い。)
以前のメルならばここで
絶命していたであろう。
しかしアユムの不気味な踊りの
残撃を薄皮一枚で躱す。
グランが標的をメグラに定める。
全ての急所に目掛け
手刀を繰り出す。
「バトルマスター相手に素手とは上等だ!」
メグラは尾を太く速く動かし
迫り来るグランを抑えつけ、
地面に強く叩きつける。
メリョツツ!グチヤッ。
骨が内臓に突き刺さる音だ。
二人のグランを倒す。
(はっは…。まだいるな…。)
まだ死の演舞は終わらない。
一方その頃
ユウ、フエン、カフエリは
一部のグラン相手から逃げながら装備を探す。
草木を分け、朽ちたタンスの中
そして明らかに不自然な建物を
見つける。
暗雲が、立ち込める西洋の城である。
異世界から来た者ならば分かる。
それは某ゲームの魔王城そのものであった。
(ここにありそう…。)
三人は城の戸口から中に入る。
そこにはグラン以外の魔物達
(アンデット)が待ち構えていた。
血と肉片がこびりつく骸達。
卵の腐敗した臭いと
糞尿の臭いが混ざる悪臭が
魔物達から出ていた。
「くっっさっ!」
カフエリは思わず声が出て
鼻を摘まむ。
「…。」
フエンは、両手から暖かい光を魔物に解き放つ。
足元からは、風が吹き荒れ竜巻が起こる。
アンデット達が(ギョアアア…。)
全て浄化されていく。
そして吹き荒れる風のおかげで
悪臭が薄れていくのである。
パンパパーン!
地獄の世界に相応しくない効果音が鳴り響く。
ユウ達の目の前にあるツタの
生い茂る巨大な木の門が音を
発ててゆっくりと開く。
「ここに入れって事ね。」
「……。」
「はぁっ、なんか不気味…。」
各々の考えが口から溢れる。
灰色の石で出来た一本道に
真っ直ぐと赤い絨毯が引かれ
ここに進めと侵入者を誘う。
ガシャ、ガシャ、ガシャ、ガチン!
首の無い傷だらけの赤い錆が
目立つ鉄鎧を着ている。
これも某ゲームと同じ魔物である。
魔物は巨大な両手剣を構え
カフエリ達の前に立ち塞がる。
「次は私が行く、先に行って。」
カフエリが短剣を構え
フエンとユウを先に行かそうとする。
当然それを邪魔しようと両手剣を振りかぶる。
カフエリは炎を纏う短剣で
足元を切付ける。
青い火花と鉄の焼けつく匂いが
鼻につく。
脚を切られてバランスを崩し
ズゥン…。と倒れる。
痛みも、苦しみも、感じぬ
冷たき人形は、殺意をカフエリへと向ける。
「やっぱり硬いわね…。」
カフエリは明らかに質量の違う相手なのに。
心が落ち着いていたのである。
フエンとユウは
更に奥へと走り出すのであった。
(はあはあ…。何あれ)
(……!?)
今度は髑髏の絵を
仰々しく描かれた鉄の扉の前に
たどり着く。
血の跡なのだろうか
手形のついた間凪を持ち
フエンとユウは重い扉を
開ける。
ジャンジャンシャーン!
アユムの趣向なのだろうか。
目の前に大きく伝説の武具
と書かれた宝箱が置いてある。
これは何かの罠だろう。
フエンとユウは警戒を強めた。
すると…。
「ファハハハハハハハ!」
「よく来たな、勇者達よ。」
「我は大魔王アユムの腹心アルバードである。」
「背後にある宝物は大魔王アユム様を倒す唯一の神具。」
「貴様らに渡すわけには行かぬ。」
漆黒のマントを纏い
頭蓋骨の窪みに青い炎が揺らめく。
数々の生命を奪って来たのだろうか。
邪気を放つ禍々しい大きな鎌
(デスサイズ)を構えた魔物が
フエンとユウの前に立ちはだかる。
何故だろうか…。
相手に恐怖を、感じる事が
無い。
緊張感が無い演出のせいなのか?
否。
何度も、何度も、何度も、何度も
数えきれぬ程に心も身体も
壊されては治される。
その地獄を味わい
異質な魔物を相手にしようとも
恐れを抱かなくなっていた。
二人は作戦を立てていない。
しかしフエンはユウを
ユウはフエンのしたい事が理解出来た。
静寂のローブを、纏うユウは
深くフードを被る。
姿が、消えて見えなくなる。
「はっはは。逃げたか!」
ブゥゥウンン…ザシュン!
デスサイズが憐れな魂を刈り取ろうと、
フエンの胴体を捕らえ
切り裂こうとする。
勝負は一瞬で終わった。
フエンが(。!)魔力の綱を両手から造り出しアルバードを縛り付ける。
そしてユウが両手に聖なる気を
溜めて全力の、聖なる力
「エワカ」をアルバード目掛け打つ。
アルバードはアンデット種である。
肉体と精神が桁外れに成長したユウとフエン。
その二人が練り上げた魔法に
抗う隙すら与えられずに
アルバードは消滅してしまうのだった。
宝箱からガチャンと鍵の開く
音がする。
そしてユウとフエンが
触れていないのに
ひとりでに宝箱の蓋が開く。
恐る恐る覗く二人。
そこには神々しく光る槍と
闇を飲み込む程に輝く盾
妖しげに光る宝玉が持ち手に
はめられたクロスボーガン
全てを打ち砕く重量がありそうな狼牙棒。
血の様に黒く血管が浮かび脈を打つ刀。
そして白い玉が入っていた。
背後から悲鳴と複数の足音が
聴こえる。
「グランが集団で来た!」
と叫ぶカフエリが血相を変えて走って来る。
グランは灼熱の爆炎を放つ。
灰色の石が赤くドロッと溶けていく。
ユウは持ち主に選ばれたのだろうか。
神々しく光る槍と闇を
飲み込む程に輝く盾を
手に取る。
十体程のグランが迫る。
槍と盾がユウに語りかける。
「僕はロンギヌスの槍。」
「私はイージスの盾。」
「あなたの力になる。」
ユウは聖騎士の技等何一つ知らない。
しかし身体が…いや。
イージスの盾がユウの聖なる心に呼応して
背後にいる仲間を
爆炎から守る。
そしてロンギヌスの槍が
ユウの聖なる力に呼応すると
一筋の光が直線上にいるグラン達を貫く。
ユウの攻撃を避けた
残りの殺戮者達が、不気味な笑い声と共に襲いかかる。
フエンが妖しげに光る宝玉が持ち手にあるクロスボーガンを手に取る。
「あたしぃ。アルテミスの弓。」
「魔力ぅ込めれば一発ぅ!」
フエンが魔力をアルテミスの弓に込める。
隕石の様に燃える火の矢が
何発も、殺戮者を撃ち抜く。
最後のグランが目の前に迫る。
カフエリが血の様に黒く血管が浮かび脈を打つ刀を握る。
「拙者村正と申す。」
「貴殿の力を合わせば斬れぬ者無し。」
村正を構えるカフエリ。
瞬きする暇もなくグランを
下半身と離れ血飛沫をあげ
グシャッと崩れ落ちる。
武具達は声を揃え
「我らは咜嚕の武具。」
「持ち主と語る者なり。」
ユウの勘は当たっていたのであった。
この武具が地獄を変える鍵だったのである。
ギャンゥンンンン…ズゴーン!
城壁を貫き咳き込む二人。
砂埃を巻き上げる。
「はぁはぁ…。やっぱしんどいわ。」
「はぁはぁ…。強い。」
傷だらけのメグラとメルである。
「あんた達!生きてる?」
ユウが二人に間の抜けた声をかける。
殺戮者達の群れと次元の違う
化物二人が絶望と破壊を持ってやってくる。
「よく頑張ったね、でも…。」
「これで、終わりだ!」
螺旋状の戦慄を指でなぞる。
アユムは魔王メルを取り込む。
グゥオゥオオオオオオオオ!!
大魔王アユムの雄叫びは
灰色の石を砕く。
ピキピキィ…。!
背中に割れ目ができそこから
漆黒の翼が生える。
曲刀は、ピンクの腕にへばり付き両手が
ドリルの様になる。
ガァアアアウガ!
赤い牙が見える口を大きく開け
残りのグラン達を喰らい始める。
肉を割き骨を砕く音が不気味に
城内に響きわたる。
グラン達は何の抵抗もせずに
自ら喰われに歩く。
笑いながら喰われる。
(狂ってる、、。)
メグラは、今まで自分達を
追い詰め苦しめた存在が
機械の部品の様に取り込まれる。
大魔王アユムの口から肉片と
目玉の残骸。
そして血煙と共に何かが腐った臭い、硫黄の臭いがする。
「あなた達!宝箱を見て!」
ユウが宝箱を指差しメグラ達を見る。
殺戮者達を喰らい尽くした
赤黒き化物大魔王アユム。
「ツギハ…。オマエタチダ!!」
カフエリの脳天を目掛け
回転する両手が迫り来る。
その冷たき一撃。
瞬きもせずにただ回転する刃を
見届ける。
眼球まで迫る。
その刹那。
シャスーンキィン!
燃える村正に攻撃を弾かれ
バランスを崩す。
ユウが高く、高く、飛び上がる。
光るロンギヌスの槍。
赤き口ごと身体を地面に縫い付ける。
フエンが燃える火矢を
無数に飛ばす。
徐々に熱さで石造りの床が
赤く熔け肉の焼ける臭いが
混ざりむせる。
(……………。)
ここまでやれば大抵は
倒される。
そんな簡単には殺られる訳がない。
煙が晴れると大魔王アユムは
両手を広げ笑っていた。
「スゴイ、スゴイ。」
「イタミヲ、オモイダシタヨ。」
「ダガ、コレデはボクはころセない。」
ユウ達が与えたダメージは全て治る。
(この化物どうやったら死ぬのよ!)
カフエリ達はまた武器を構える。
その頃メグラ達は…。
宝箱の中身を見る。
呼ばれる様に刺の付いた狼牙棒を手に取る。
何処か懐かしく馴染む様な感覚がする。
(我輩は酒呑の金棒。)
(お前の敵を叩き潰してやろうぞ!)
「頼むぜ、相棒!」
残るは白い玉である。
メルはそれを手に取ると…。
鬼神フグエルレンが”飲み込め”
と叫ぶ。
白い玉を口に入れる。
味は無い。
しかし少し大きく飲み込むのに苦労する。
ゴックン、ゴホッゴホッ!
何とか喉を通る。
フグエルレンの魂が
腹の中にある白い玉に宿る。
「やっとまともに話せる!」
メルの口から流暢な言葉が出る
熱い何かが腹から喉を通り
口から吐き出される。
小さな赤き竜が出てくる。
「我はフグエルレン。」
「依り代を手に入れた。」
「メル…。お前の力になろうぞ!」
すると右手から綠炎の剣
左手に綠炎の矛が現れる。
パタパタと飛ぶ小さな翼竜。
「我の綠炎。」
「上手く扱え阿呆!」
キャアッ!ガシャーン。
カフエリが吹き飛んで来たのをメルが受け止める。
大魔王アユムは狭き城内で翼を羽ばたかせる。
凄まじい風量で壁に押し付けられる。
城が吹き飛んでしまった。
小さきフグエルレンも
メルにしがみついていたお陰で
飛ばされずにすんだ。
メルが叫ぶ
「時間、欲しい、必ず倒す!」
メグラを含めた仲間達が
必死でアユムに攻撃をして
メルの時間を稼ぐ。
空気がメルを中心に集まる。
小石が中央に転がる。
『﹩₩₹₳₴₵₯₮₭€₰₯₯₣₪₫₨』言葉が聞き取れないが
何かの詠唱をしていた。
フグエルレンの究極消滅魔法を唱えている。
だがそれだけではない。
グランの中にいた時に覚えた
無聖悪魔法
を同時に詠唱していた。
究極消滅魔法の複合呪法を
行おうとしていた。
綠炎の剣と矛にその力を集める。
綠炎から黒がより黒く
そしてより純粋な力を帯びる。
悪でも善でも無い。
その力は矛と剣に宿り吸い込まれた
瓦礫が触れる。
一瞬で消滅する。
メグラとフエンが大魔王の
足を押さえつける。
口から毒の息吹を吐く。
触れる物が溶ける。
カフエリが村正の力を解放して
毒を燃やし尽くす。
両手のドリルをメグラとフエンに向け
命を断とうとする。
その一撃をユウがイージスの盾で受け止めた。
火花が舞い散る。
「メル!いまだいけー!」
メルは無の力を帯びた矛と
消滅の力を帯びた剣を構える。
最大限の一撃を放つ。
ググググゴゴゴゴゴゴ!!!
矛と剣の通った場所には透明な世界が広がる。
「早くぅぅしろお!」
メグラが叫ぶ。
フエンの口から血が滲む。
ユウの足元にある地面がひび割れていく。
カフエリがユウと共に盾を支える。
無限化合暝法
深く胸に突き刺さる。
そこから肉体が消滅していく。
アユムは声なき声で悲鳴を上げる。
そして無に帰ると虹色となり天に映るのであった…。
メル達は、勝ったのである。
地獄が魔界が消える。
目の前には歓楽街の風景。
そして酒臭く汗臭い。
元の世界に戻ったのであった。




