オワリノミエヌジゴク
「はぁはぁはぁ…。」
(来る…。)
不気味な笑い声が近付く。
(……!)
気が付けば自分の首が地面に
転がる。
パチン。
指を鳴らす音がする。
また混沌の沼地に戻る。
そして無機質な殺意を放つ
グラン達に追いかけられるのだ。
グルオォ!
綠炎の凄まじい爆炎が
カフエリから遠く離れた場所で
放たれる。
地面がその度に揺れ
肺が焼ける程に熱い。
指を鳴らす音が聴こえる。
メルが混沌の沼地に戻る。
先ほどのカフエリと同じく
この世界で死んだのだろう。
だがアユムが指を鳴らす度に
甦る。
殺されては甦るを繰り返す。
地獄とはこの事を呼ぶのだろう。
「この子を殺されたくなければ出ておいで。」
死滅の賢者グランが
フエンの首を掴み息を潜める
メグラ達に呼び掛ける。
(ちっ、くそ!)
死んでも甦る。
だが目の前で殺されると分かっていて無視など出来なかった。
メグラはゆっくりと木陰より出る。
不気味な笑い声がメグラの首か
フエンの眼を抉るのが先か
悩んでいる。
(たく…。これじゃぁ魔物じゃねぇか。)
メグラは気を右手に貯めて
グランに放つ。
その行為でメグラが先だと動き
あっさりメグラの心臓を抉る。
そしてフエンも首を捥がれる。
二人は混沌の沼地に戻された。
アユムは椅子に座り欠伸をしていた。
(アレッ一人足りないなぁ…。)
この地獄を超える何かを
ユウだけが感じ始める。
(やはり見えて無い。)
ユウは閉鎖された世界で
用意された武器と防具が
自分達を変える何かだと思う。
現実にユウはたまたま
落ちていた”静寂のロープ”と
呼ばれる防具を装備していた。
マレビトであるアユムは
幼き頃からゲームが好きであった。
なのでこの世界にもその要素が
至る所に隠されていた。
四人は1ヵ所に集まる。
死滅の賢者グランの群れが
ゆっくりとメル達を取り囲む。
そして魔王メルは、
アユムのいる全てを見渡せる
岩壁へと戻る。
「囮!皆行け!」
メルが群れに単身乗り込む。
「よし皆バラバラに逃げるぞ!」
メグラが叫ぶ。
カフエリは風を操り空を飛ぶ。
いつの間に無詠唱で霧を作る
フエン。
だがそんな小細工など
死滅の賢者グランには通じなかった。
手を一振すると霧が晴れ
囮のメルを無視して
フエン達の方に向かいグランが飛ぶ。
あっという間にフエンは四肢を切り裂かれる。
カフエリは燃やされる。
メグラの脇腹を貫き
血を吐いて倒れる。
殺戮と暴力の臭いがメルの心を突き刺す。
その光景が幼き頃…。
メルの、瞳に焼き付いた光景と
重なる。
自分を産んだ母親が
化物に喰われる。
細い指を、白く柔らかい脚を
慈愛に満ちた紅き瞳を…。
(やめろ、ユルサナイ…。)
(コロス、殺ス、ころす、殺す。)
メルの抑えていた感情が
暴走、否、今度は守りたい
その想いに鬼神フグエルレンが
答える。
変化の手袋がメルの力を
抑えきれずに焼ききれる。
綠炎の炎がその身を覆う。
溢れる怒りとは違う
とても静かで冷たい炎である。
白きゴブリンとなった。
これもまた違う。
本来の姿に戻るのである。
メルは魔族の破壊的衝動を
アユムに目掛け放つ。
ギュウゥオォウンンブン!
殺意の宿る一筋の光線が
アユムが刻む命の時を止めようとしていた。
ズゥンウン…。
魔王メルがそれを止める。
渾身の一撃だが無傷であった。
しかし数人の無機質な殺戮者の焼ける肉と
破戒の臭いを残し肉体を貫き消え去る。
混沌の沼地に戻された
フエン、カフエリ、メグラ
そして装備を密かに探していた
ユウ達に異変が起こる。
溢れる何かが全身の血が駆け巡り
内側から彼等を作り変える。
転写されたグランの複製を
倒した事でレベルが上がる。
一斉に蠢くグランがフエン達に
牙を向ける。
しかし容赦無い破戒魔法を
放つ。
それをフエンが魔力の壁で弾く。
そしてメグラが動揺している
グランを蹴飛ばし吹き飛ばす。
起き上がろうとするグランを
フエンは魔力で抑えつける。
カフエリが短剣に炎の魔力を
込めて倒れたグランの首を突き刺す。
また血が熱くなる。
(ぐぅっ!私達まで魔神になりそう…。)
肉体の変化に追い付けず
皆膝をつく。
魔王メルがその隙を見計らい
大きく深く、暗く重い炎の玉を
解き放つ。
魂も焼かれる程の威力がある。
怒りのメルは白きゴブリンの
肉体でそれを受け止める。
(もう…死なせない!)
フグエルレンも呼応するように協力をする。
その魔力をメルの体内に吸い込ませていた。
メルの背後にいる仲間の場所
以外は黒く溶けていた。
腰に差していたメルの長剣が高熱で溶けてしまう。
メグラは
「俺達グランを倒せた。」
と己の力を認識する。
カフエリは
「油断しないでまだ来るわよ!」
と冷静に辺りを警戒する。
フエンは「…。」
小さく非力な弱者の瞳ではなく
圧倒的な恐怖に立ち向かう強者の瞳で睨む。
今まで弱者と見て蹂躙していた者達は彼等に対して警戒をし始めた。
今初めて脅威(敵)と認識されたのである。
アユムは
(良いよ!最高だよ!)
脚をバタつかせ興奮していた。
メル達の側で声が聴こえる。
メルは小声で(ユウか?)と話す。
(そのままで聞いて。)
(この空間には多分、様々な装備が隠されていると思うの。)
(私だけじゃ集められない。)
メグラは
「よし!反撃開始だ!」
と拳と拳をぶつけ合う。
カフエリとフエンが
共に装備を探すと決める。
この者達は一言も話し合いを
していない。
しかし即座に自分達の役目を
理解したのである。
こうして囮として
メグラとメルが暴れ
その隙にユウ達が装備を探す。
その構図が出来たのである。
アユムは(僕も踊ろう!)
ピンクのタキシードが今では死神の姿に映る。
両手に(曲剣)を持ち、ゆっくりと崖から降りて来るのであった。
メグラが
「ちっ、あいつまで来やがる!」
メルは「勝てる!」
その一言を溢すと
沸き上がる力を雄叫びにして二人は
立ち向かうのであった。




