第81話 おっさん、煽っていく
と言っても、彼らに直接手を出すわけには行かない。
まだデビュー戦前とは言え、プロのライセンス持ちがその拳を振るったら、それこそ凶器の行使と判断され俺の方が豚箱行きだ。
そもそもただの陰口だ。先に暴力に訴えた方が負けまである。
結局は、彼らに悔しい思いをしてもらうぐらいが関の山だ。
まあそれでも彼らみたいなのは、見下したばかりの俺に悔しい思いを味わわされるのは我慢ならんだろう。
さてどうしてやるか。
といっても俺にできることは多くない。
リング上からの煽り、そして彼らの友人である俺の対戦相手をぶっ倒すくらいだ。
まあ対戦相手がさっきディスったやつだとわかったら、彼らはしっかりヤジやらなんやらで攻撃してくるだろうから煽り耐性低くして応戦してやろう。
これで俺の対戦相手がいいやつだったりしたら申し訳ないんだが―――
――
―
リングで対峙したそいつは、ぱっと見で奴らの同類だった。
人は見かけによらない。
そんな事は分かっている。
だが顔つき、表情、歩き方、雰囲気など、おおよそ外さない印象というのは確かにある。
そして相手を見下したような、侮ったような、ニヤついた表情なんかはまさにそれだ。
対戦相手というのもあるだろう。
別の形で出会っていれば、こんな表情は向けられず、ワンチャンいい友人になれ・・・
いや、ないな。
陰キャな根暗オタクのシステムエンジニアな俺が仲良くなれるタイプの奴らではない。
それこそ今日勝って、優劣をわからせた上でなら考えなくもないが。
彼はそこまで大きくないがガタイがいい。
対して俺は身長185センチのヒョロくはないがいわゆる細マッチョなボクサー体型だ。
「ライオー!勝てよ!!」
観客席から声が飛ぶ。
そう、ライオ。
漢字だと獅子男。
最初見たときは目を疑ったし、シシオだったら包帯ぐるぐるじゃんとも思ったし、同情もした。
どうせなら男じゃなくて王とかにしてやれよ。
何故、ヒデオとかヨシオとかと同じ風味で獅子男なんだよ。
獅子は何故かぶった切られてるし。
虎牙君みたいな感じか。
まあ、身内からは普通に呼ばれてるし、オッサン世代が思うほどキラキラネームで辛い思いをしてきたなんてことはないのかもしれない。
さて、どう勝つかなー。
そういえば、セコンドはこういうときアドバイスするんじゃないの?
といった目でセコンドについてるトレーナーを見る。
その視線に気づいたのか。
「相手はガタイがいいな。ま、お前なら大丈夫だろ」
え、そんだけ?
なにも言ってないのと一緒だぞそんなの。
まあ、その信頼はうれしい気もするが。
相変わらず外野、おそらく対戦相手の友達連中はうるさい。
グローブ付けてるから指は無理だが、奴らの方に向かって手の甲を向けてやる。
お、伝わったぞ。
「ライオ!そいつぶっ〇せ!!」
なぜか大事なところだけなんかのぶつかる音で聞こえなかった。
おいおい、それはでかい声で言っていいやつか?つぶせかな?とばせかな?
「テメー、運がねーな、デビュー戦が俺とはな」
雰囲気出してくるじゃん。
「・・・」
同じ事を言ってやりたいが黙っておく。
実際マジで運がないと思う。
チート持ちと当たるなんて、君が人類史上初なんじゃないか?
ああ、あのマラソン大会のランナーの皆さんがいたか。
マラソンとボクシングじゃ比べようがないが。
「なんか言えよ!舌戦も仕事だろうが!」
そういや、よく見る光景ではあるけどな。
顔面寄せ合って威嚇し合うアレか。
でも俺が観た今日の試合じゃ全くやってなかったぞ。
てか真面目かよ。
ある意味プロ意識というかエンタメ意識もってるんだとしたらすごいが。
「・・・」
まあ、喋らせておこう。
どう戦っていくか考える。
まあこういう奴はまともに撃ち合わず体力奪いながらポイント取っていく感じがいいか。
やる気をすかして、スポーツメンシップで勝利がいいな。
格闘技にならないまま、スポーツのまま終わらせてやろう。
リュウにやったのと変わんねーけど。
うん、それで行こう。
見ると俺が戦い方を考えてる間も喚いてたようだ。
どこ吹く風の俺にイライラが結構募ってきてるようだ。
図らずも望んだ状態になってるな。
こいつもお友達もなんか言えコラと喚いている。
仕方ない。
じゃあ一言だけ。
「お前の名前めっちゃかっこいいじゃん」
そんなでかい声で言ったわけじゃないんだが、ちょうどヤジや会場のどよめきが途切れた瞬間だったのか、妙に会場に響いてしまった。
「らいおだって」
「え?」
「くすくす」
「らいお・・・」
会場からヒソヒソと聞こえてくる彼の名前を確認して、あれやこれや好き勝手に囁く声や失笑。
「〇す!!」
褒めたじゃん。
やっぱ逆鱗だったか。
しかしまたなんかの音と重なって聞こえなかったな。
「krす」だったのは分かった。
うん、暮らすかな。
きっとそうだよね。
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