第80話 おっさん、対戦相手のお友達に会う
結局、観戦した1試合目は4ラウンド戦い、判定となった。
K.Oになるほど差がなかったのか、両者にK.O勝ちできるほどの技術がなかったのか。
ともあれ判定が告げられ、勝負はついた。
喜ぶ勝者、身内、観客。片やうなだれる敗者。競技に差はあれどよく見てきた光景だ。
勝者のテンションというか雄たけび上げたのは引いたが。
俺はすんっとでもしてようかな。
まあ、それも含め普通の光景だった。
そしてそうはならなかったのが次の試合だ。
1人ははじめからプロを目指した、まあ俺と同じようなタイプ。
もう1人はアマチュアから上がってきたタイプ。
場馴れ感が違う。
もちろんアマ上がりの方だ。
そして、やはりというべきか1ラウンド目でいきなりダウン。
アマ上がりは余裕そうに右拳をぐるぐる回しながらリング上を歩く。
悲惨だったのは観客席のとある場所。おそらくダウンした彼の母親。
ダウンの瞬間、悲痛な叫び声が聞こえた。
満員の歓声にかき消されるなんてことはなかった。
そもそも満員なんかじゃない。
おそらく会場のほとんどの人の耳に届いただろう。
まだファイティングポーズは取れるようだ。
防戦一方になってしまうかと思ったがまだ攻勢も見える。
そして2ラウンド目。
またもダウン。
それでも立ち上がろうとする選手。
ちらほらとだがヤジが飛ぶ。いや、ヤジに近いがそれでも応援だ。
「立てー!」
「まだいけんぞー!」
そしてそんな声にかき消される母親の、叫びともつかない声。
「もういいから・・・、もう立たないで――っ!」
それでも何とかファイティングポーズをとる。
いけるらしい。
だが、2ラウンド終了のゴングはならなかった。
――
―
うん、いいものを見せてもらった。
まあ、母親だけ見れば悲惨だな、とは思う。
それでも、俺がどういう勝ち方を、K.O勝ちするのか、判定勝ちするのか、大いに参考になった。
その後もK.Oで決まることはあったが、さっきの母親みたいなのはでてこなかった。
というか最初の、半ば発狂に近かったお母さんを見て思うところがあったのかもしれない。
あの時までは自分の身内側が負けるイメージなんて誰もしていなかったんだろうが、アレである意味それが現実味を帯び、彼ら彼女らの中で想定内になったんだろう。
泣いているおねーさん方もいるにはいたが、負けた息子を、あるいは彼氏を、すごかった、かっこよかったと称えていた。
心の準備って大事。
さて、俺の試合まであと3試合。
そろそろ控室に戻ろうかと思ったとき、5人の観客が俺から少し離れた少し前の方の席に陣取った。
田舎のヤンキーとまでは言わないが、態度の悪いリア充(都内ではあまり見かけない格好)といった風味だ。
なんか「態度の悪いリア充」ってワードのほうが田舎のヤンキーよりよっぽど印象悪いな。
もう「態度の悪い」が付いちゃってるからな。
田舎のヤンキーにはなんならいいやつこそ多そうだ。
うん、あんなのと比べてごめん、田舎のヤンキー(の中のいいやつ)。
しかしマジで態度が悪い。
誰のせいで遅れただの、迷っただの、間に合っただの言うたびギャハギャハ笑っている。
周りはまあまあ静かだと思うんだが気にならないのだろうか。
俺には理解できないメンタリティだ。
そして聞こえてくる「〇〇の試合―」のワード。
そのキラついた名前には覚えがあった。
俺の対戦相手だ。
彼らの人数は5人。
別に他の奴らも配られたチケットが5枚ってわけじゃないだろうが。
もしそうならまだ顔も知らない対戦相手の彼は両親やら彼女やらに見守られた誰かってわけじゃないことになる。
それどころかあーゆー友達を呼ぶような人物であるということでもある。
だからといってというわけではないが、さっきのお母さんのような光景を見ていた俺としては若干、やりやすくなった気もする。
そう思っていたとき、一人が俺に気付いてなんか仲間と話している。
そしてニヤつきながら皆口々になにかを言っていた。
『健康』スキルで耳も良くなったのか、彼らの声がでかいのか、俺の鼓膜はその音を捉えてしまう。
「―あいつ暗くね?―」
「―なんかカッコつけて―」
「―気取って―」
「―弱そ―」
「―キモ―」
などなど。
断片的にではあるが俺が聞きたいこと、彼らが伝えたい(かどうかはわからないが)ことはしっかり聞こえてきた。
ふっふっふ
なんだかんだ、俺は敵を、俺に向けられる悪意を待っていたらしい。
最初に来た感情が怒りよりも喜びなんだから。
てかこんくらいじゃあ怒りなんて湧かないけどな。
キモい言ったヤツは許さんが。
よろしい、戦争だ。
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