第72話 おっさん、サバ塩、納豆、卵
本気で誘われないと思っていた。
俺が2人の好意に気付いていたことも、脈がなかったことも、どちらももう2人は気付いてるだろうし、それを俺が察していることも2人は分かっていると思ってたからな。
もう俺は敬語じゃなくなってる。お客様の社員様相手に。
「えー、なんでですか?」
先に俺のサバ塩がきた。
ご飯の盛りに2人は驚いている。というか引いてる。分かるよ。
「分かってるでしょ。あ、お先に」
まあだからこそかも知れんが。
俺は納豆を混ぜながら答える。
「最初から気付いてました?」
彼女達の好意にってことだろう。まあ、AIのおかげではあるが。
「そうだな。まあ、なんとなくだけど」
納豆をご飯にかける。2人のサバ塩もきた。
「私たち、なにかダメでした?」
そんなん聞くか?
「別にダメってわけじゃないぞ。
ただそもそもあれだ。奥さんいるしな」
そぱぱぱと納豆をかっこむ。
「えー」
納得いってないって感じの声を上げる。
「なにがよ?」
もぐもぐしながら答える。
「だってー、ねぇ?」
「うん」
なんか女子同士は通じ合ってる。これが女の連帯感なのか。
困るね。ってこれ前やったな。
「そんなん言われてもな。冷めるよ?」
俺はサバに取り掛かっている。ちゃんと焼き場で焼いたサバだ。家じゃ食えんぞ。
しばらく黙々とサバを解体しては口に運び、飯を食う。
絶妙な塩加減と香ばしい焼き加減とサバの脂で飯が進む進む。
ほんとはサバの脂、苦手なんだけど、ここのは美味くて仕方ないんだよな。
1人がマカロニサラダ食べて目を見開いている。と思ったら口を押さえて隣をバシバシ。食えってことだろう。
そしてもう1人も食べて顔を見合わせウンウン頷きあっている。
わかるわー、うまいよね。
「あの2人は何で呼んだんですか?」
「たまたまだよ、いい奴らだぞ?」
君に想いを寄せていた2人だからとは言えない。
茶碗に卵を落として醤油をかける。
「それは分かりますけどー」
「弾除けにしたんですか?」
弾除けて。
「ん~、そういうわけじゃないけど。俺1人ってのがマズイのよ、最近は。コンプラ?あと奥さん的に?」
「弾除けじゃないですか」
そうか?
最後のサバをかき集めて卵かけご飯と一緒に。うん、これがうまいのよ。
「今日はいいんですか?」
「今さらでしょ、俺にその気がないの察してくれたと思ったんだけど。
だから今日は仕事ってことにしてないし。
ああ、ちゃんとご馳走はするから」
美味そうに食ってくれただけでその価値があるぜ。
「私たちがセクハラされたーって騒いだらどうします?」
「そんときゃ俺の見る目がなかったんだろうな」
「・・・ずるいです」
まあな。暗に君たちはそんな娘じゃないと言ってるわけだし。
実際そんなことしないじゃん。
最後に味噌汁を飲んで完食すると手を合わせる。
「ゆっくり食べていいよ」
俺は骨も結構バリバリいくし(ここのはしっかり焼いてるから普通に噛み砕ける)、一口もでかいからな。
納豆と卵で流し込んだりもしてるし。
2人はまだ半分くらいしか進んでない。
少しして2人も食べ終わったが、ふくれたお腹を気にしている。
サバもでかいし、普通盛りでも多いからね。
微笑ましく思っていると二人とも恥ずかしそうにしている。
おっと、いかん。
視線だけでセクハラになる時代だ。
「よし、出ようか」
食い終わったら早々に会計するのはこういった定食屋のマナーだ。
「あ・・・、はい」
会計を済まして店を出る。
「ごちそうさまでした。
あの、ほんとによかったんですか?」
経費で落とせないのにってことだろうか。
「ん?美味かったろ?」
「はい、それはもう、ホントに」
もう1人もウンウン頷いている。
「じゃあよかったよ、それで十分」
「さっきからカッコつけ過ぎじゃないですか?」
「そうかな」
まあやり過ぎた感はあるな。
だが男に生まれた以上、カッコつけるのは当然と思っている派だ。
そんな派閥があるかはしらんが。
「ちょっとダサいかもです」
ぐっ、オブラートは!?
『ちょっと』と『かも』では『ダサい』は包みきれないんだぞ!
「いいんだよ、カッコつけることが大事なんだから、男は」
「えー」
まあこのへんは理解されないだろう。
「キレイやカワイイへの情熱と一緒って言えば通じる?」
「ああー、なんとなく?」
と首を傾げている。まあベクトルが似てるようで実際真逆だからな。
そんなどうでもいい話をしながらも、2人はまだ話し足りなかったのか、俺たちはカフェに向かうことになった。
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カクヨムでも連載中の作品になります。
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