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第62話 おっさん、宿へ

宿のドアを開けて中に入ると、エミちゃんが気付いてくれた。


「ちゃんと帰ってきたのね」


それはどういう意味だ?死ぬと思ってた?


「ああ、ただいま。

アイリスさんは?」


「向こうにいるけど、別にそのまま部屋に行っていいわよ?」


なんか俺をアイリスさんから遠ざけようとしてない?


「んーと、一緒に護衛依頼受けたパーティが今日宿取れなかったみたいでさ、4人なんだけど。

実はもうこっちに向かってるんだ。もうすぐ来ると思うんだが」


「ああ、そういうことね、助かるわ。

待ってて、お母さん呼んでくるから」


そう言ってエミちゃんは奥に引っ込んだと思ったら、直ぐにアイリスさんと戻ってきた。


「おかえりなさい。シンさん」


アイリスさんはそう言って俺を迎えてくれた。


「ただいま、アイリスさん」


ん?アイリスさんがどんどん近づいてくるぞ。エミちゃんにさっきの話、聞いたのかな。


なんて思ってるうちに俺の直ぐ前まで来たアイリスさんはそのまま俺に抱きついた。


「ちょっと!」


そりゃエミちゃんも声を上げる。


「ちょっ、アイリスさん?」


俺も声を上げるが今度はアイリスさんは俺の頭に手を伸ばし胸に抱くように抱き寄せた。


俺は少しかがむような体制になってしまっているが、アイリスさんは構わず俺を抱きしめ続ける。


「大変でしたね」


「――――――――っ!」


ヤバい、泣きそうだ。


恐らくアイリスさんは俺をひと目見て俺の心境がわかったのだろう。


詳細は分からないだろうが、それでも俺にとってキツイことがあったのは分かったのだろう。


何とかおっさんメンタルを動員して泣くのを我慢すると、アイリスさんから離れようとする。


俺が少し身体に力を入れるとアイリスさんはさらに力を入れて俺を抱き寄せる。


このまま身を任せてしまいたい。

実際、とても柔らかく、いい匂いがしてかなり心地良い。


だがエミちゃんもいるし、そろそろシールズたちがやってくるかもしれない。


なんとか鋼の意志でアイリスさんから離れる。


さすがに俺が本気で離れようとするとアイリスさんはようやく力を緩めてくれた。


それでもまだ両手は俺の肩に置いてある。おかげでキスでもしちゃいそうな距離だ。


そこにエミちゃんが来て引き剥がしてくれた。


「もう!お母さんなにやってるの!?」


アイリスさんは名残惜しそうに俺から離れていく。


「う~ん、エミリアにはちょっと早いわね~。

後で教えてあげるわ」


「また子供扱いする~」


そのセリフがもう子供なんだが言わないでおこう。

でもちゃんとエミリアって言ってくれてるぞ。


心を読んだわけじゃないだろうがエミちゃんがこっちを睨んでくる。


俺を睨まないでくれよ。


と思ってたらなにかに気付いたような顔になった。


「あれ?シンちょっと元気ない?怪我でもした?」


エミちゃんにも分かるぐらいひどい顔なのか。


アイリスさんは「あら~」っと嬉しそうな顔をしている。


「大丈夫だよ。ありがとう、エミリア。

それよりアイリスさん、さっきエミリアにも話したんだけど―」



俺は烈焔の4人が宿を探している旨をアイリスさんに説明した。


「そうなんですね。ありがとうございます。

知ってのとおり部屋は空いているのでうちは大丈夫です。

Cランク冒険者の方たちが気に入ってくださればいいんですが」


「そこは大丈夫だと思うけど・・・」


烈焔のメンバーが狭いだの俺たちには合わんだの言う想像ができない。


そもそも野宿が平気な冒険者なんだし、今日は緊急事態ってだけだから文句は言わんだろう。


そんなやり取りをしていると宿屋のドアが開いた。


「たぶんここだと思うんだけど―

あ、シンいたよ、やほー」


そんな事を言いながら俺を見つけたシールズを先頭に烈焔の4人が入ってきた。


と思ったら後ろにリックたちもいる。

え、君らも?


「おう、話はしてあるぞ。お前らがヤダってんじゃなきゃ大丈夫だそうだ。

もう3人は知らんが。」


「そんな事言わないよー。

すごい良さそうなとこじゃん」


「実は俺たちも・・・」


まあ、このタイミングで烈焔に付いてきたんだからそうなんだろうが。


俺がアイリスさんを見ると、


「大丈夫ですよ~」


とのこと。


「うふふ、満室なんていつ以来かしらー」


上機嫌なアイリスさんと、


「私の記憶にはないわ」


悲しいことを言うエミちゃん。


みんなのチェックインが済み、今日は遅くなったこともあり、みんな早々に休むようだ。


俺も出発前のままにしてもらっていた部屋に戻り休むことにする。


部屋で1人になると今日のことが思い出されてしまう。


思い出さないようにすればするほどだ。


賊を倒した直後はともかく、その後はなんだかんだやることがあったり周りに人がいたりで、気分は晴れなかったがそれなりに気は紛れていた。


だが今こうして部屋に1人でいると、人間をこの手で殺したという事実が襲いかかってくる。


人間を殺した時の感触が、光景が蘇ってくる。


本当に殺した直後のように、手が震え、視界が回り、音が遠くなる。


呼吸が荒くなる。


泣きたい。


喚きたい。


叫びたい。


だがそれに耐える。


これは俺が乗り越えなければならないことだろう。


スキルに任せることはできるかもしれない。高速演算や並列思考でこの苦悩を処理させて気持ちの整理をつけるってのはもしかしたら秒でできるかもしれないのだ。


だが、それをしたら何かを失う気がする。

別に並列だろうが高速だろうが俺が処理するんだから一緒かもしれないがそれでもだ。


AI(えい)にも提案されたが、素の自分でこの苦悩と向き合うことにしていた。


とはいえ、キツイ。


リックの言うように娼館での解消もありかもしれない。


確かリックの部屋は何処だったか、


と思考がそっちに行きかけたとき、部屋のドアがノックされた。


ノックしてきたのは―――




作者のモチベーションになりますのでいいね、お気に入り登録、感想など、よろしくお願いします。


カクヨムでも連載中の作品になります。

https://kakuyomu.jp/works/16818093080286722080

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